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もと理髪師で今はアルマヴィーヴァ伯爵の召使いフィガロは、伯爵夫人の小間使いスザンナとの結婚を控えている。初夜権(召使いの結婚の際、花婿に代わって初夜を共に出来る権利)をひとたび放棄したもののスザンナに気がある伯爵はその復活を企む。一方、夫の冷めゆく愛を嘆く伯爵夫人はフィガロ、スザンナと結託し、思春期の小姓ケルビーノを巻き込んで伯爵の鼻を明かそうと企む。伯爵はまんまと引っかかり、夫人に平謝りして全員喜びの大団円となる。
モーツァルトが台本作家ダ・ポンテとの協力で書いた「フィガロの結婚」は、フランスの作家ボーマルシェの戯曲を原作にしています。フィガロとスザンナが自分たちの知恵で伯爵の横暴に対抗し、結婚を勝ち取っていくまでは、ドキドキ・ハラハラしっぱなしのまさに"熱狂の一日"そのものです。
「フィガロの結婚」以前のイタリアのオペラ・ブッファは、登場人物の設定や物語の進行がある程度シンプルで、型にはまったものがほとんどでした。ところがこのオペラでは、登場人物たちがリアルな感情を持って動いています。例えば主人公フィガロは次々とアイディアを思いつく超ポジティブ人間ですが、後半でスザンナの愛を疑って苦しむところなどはいかにも等身大の男性として描かれており、今日の私たちも思わず共感してしまうのです。
音楽面ではモーツァルトが、交響曲に使用する作曲技法を取り入れて物語を描いており、特にオペラ・ブッファの醍醐味である重唱によるドラマの進行には、まさに彼の天才が発揮されています。例えば第3幕六重唱。冒頭の、フィガロが自分の息子だと分かったマルチェッリーナの慈愛に満ちた歌から、スザンナが駆け込んでくる急転直下、そして4人の幸せと伯爵側2人の怒りで終わるまで、音楽でドラマを描ききったオペラ史上まれに見る名場面だといえます。
- 【作曲】ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト/1785~86年
- 【原作】ピエール=オーギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェ『フィガロの結婚』
- 【台本】ロレンツォ・ダ・ポンテ(イタリア語)
- 【初演】1786年5月1日/ウィーン/ブルク劇場
- 【制作】新国立劇場2003年
- 【構成】全4幕/約3時間
- 【演出】アンドレアス・ホモキ
- 【美術】フランク・フィリップ・シュレスマン
- 【衣裳】メヒトヒルト・ザイペル
- 【照明】フランク・エヴァン