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太った老騎士ファルスタッフは、金目当てに人妻のアリーチェとメグに同文の恋文を出す。まったく同文と気づいた二人、それにファルスタッフに恨みを持つ従者バルドルフォとピストーラ、ファルスタッフを心良しと思わぬフォードと医師カイウスは、みんなで彼を懲らしめることに。ファルスタッフをおびき出し散々な目にあわせる間にフォードの娘ナンネッタと恋人フェントンの結婚も決まって、ファルスタッフが「この世はすべて冗談」と歌い出すフーガで大団円となる。
イタリア・オペラの巨匠ヴェルディが最後に書いた「ファルスタッフ」は、若い頃の「一日だけの王様」を除けば彼の唯一の喜劇的な作品です。
シェイクスピア原作の「オテロ」で自身の頂点を極めたヴェルディに、喜劇的なオペラを書くことを勧めたのは「オテロ」の台本作家ボーイトでした。自分の年齢に対する不安はあったものの、ボーイトに心酔していたヴェルディは彼の申し出を受け、「ファルスタッフ」に取り組むことにします。台本作家に対する厳しい要求で知られていたヴェルディですが、ボーイトの才能にはただ感嘆するばかりで、台本の手直しを要求することは一切ありませんでした。
ヴェルディは、過去の栄光が忘れられない懲りない老騎士ファルスタッフに自己を投影し、そのぶざまな失敗を軽やかな筆致で音楽にしました。それまでのイタリア・オペラの伝統とは違い声は楽器のようにオーケストラの中に組み込まれており、そこには自作を含む過去のオペラ作品や、器楽曲への言及もみられます。
言葉の抑揚を重視した作曲は、オペラが誕生した時の目的だった「歌で語る」ことへの回帰でもありました。例えば、第1幕第2部の終わりの男性陣5人と女性陣4人の九重唱。いっぺんに喋る9人がこんなに鮮やかに聴こえてくるのは、正にオペラならではの面白さです。
- 【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ/1890~92年
- 【原作】ウィリアム・シェイクスピア
『ウィンザーの陽気な女房たち』 『ヘンリー四世』 - 【台本】アッリーゴ・ボーイト(イタリア語)
- 【初演】1893年2月9日/ミラノ/スカラ座
- 【制作】新国立劇場2004年
- 【構成】全3幕/約2時間10分
- 【演出】ジョナサン・ミラー
- 【美術・衣裳】イザベラ・バイウォーター
- 【照明】ペーター・ペッチニック