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大金持ちの老人ドン・パスクワーレは、跡継ぎである甥のエルネストが縁談を断るため、自分が結婚して子供を作ると宣言する。エルネストは若い未亡人ノリーナと愛し合っているのだ。医者でエルネストの友人マラテスタは、若い二人のための一計を案じる。自分の妹と偽り、ノリーナをパスクワーレに紹介。清純な娘を演じるノリーナにパスクワーレは一目惚れし、結婚契約書に署名するが、その途端ノリーナはわがままで贅沢三昧の悪妻に豹変。パスクワーレは困り果ててしまい…
「ドン・パスクワーレ」はドニゼッティが彼のキャリアの最後の時期に書いたオペラで、パリのイタリア劇場で初演されました。当時は悲劇的なオペラが主流のロマン派の時代でしたが、ドニゼッティはもっと若い頃に書いた「愛の妙薬」からも分かるように喜劇的なオペラにも才能がありました。「ドン・パスクワーレ」は、元ネタとなるオペラは存在しますが、ドニゼッティが自分で題材を選び台本作成にも深く関与した作品です。
初演の時にドニゼッティが特にこだわったのは、”現代の服装”で上演することでした。「ドン・パスクワーレ」は、金持ちの老人が若い娘と結婚しようとして懲らしめられるというオペラ・ブッファの伝統的な題材を持ちながら、実際はノリーナにいじめられるドン・パスクワーレに思わず同情してしまうほど、彼の悲哀がリアルに描かれています。すでに流行遅れだったオペラ・ブッファの様式を使いつつ、ドニゼッティは当時の世相を巧みに描いたのでした。
音楽的に極めて充実している序曲を始め、メランコリックな美しさが際立つエルネストのセレナード、第2幕フィナーレで、結婚した途端にノリーナが豹変した場面でのドン・パスクワーレの驚愕の表現など、「ドン・パスクワーレ」はドニゼッティの音楽的な天才が次々と繰り出されるオペラでもあります。
- 【作曲】ガエターノ・ドニゼッティ/1842年
- 【原作】ステファノ・パヴェージのオペラ『マルカントーニオ氏』
アンジェロ・アネッリの台本による - 【台本】ジョヴァンニ・ルッフィーニ/ガエターノ・ドニゼッティ(イタリア語)
- 【初演】1843年1月13日/パリ/イタリア劇場
- 【制作】新国立劇場2019年
- 【構成】全3幕/約2時間
- 【演出】ステファノ・ヴィツィオーリ
- 【美術】スザンナ・ロッシ・ヨスト
- 【衣裳】ロベルタ・グイディ・ディ・バーニョ
- 【照明】フランコ・マッリ