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【インタビュー】『イタリアのトルコ人』演出 ロラン・ペリー(Opera Wire2023年インタビューより)


ロラン・ペリー

Operawire2023年6月5日インタビュー記事より抜粋、日本語訳

ロラン・ペリーに聞く:悲劇より喜劇を好む理由―マドリード、テアトロ・レアル「イタリアのトルコ人」について


インタビュー:マウリチオ・ヴィッラ



フランスの演出家ロラン・ペリーは、今日活動している演出家のなかでも特に多作で、高い評価を得ている。彼の演出作品のなかには、初演から20年以上にわたって上演され続けているものも少なくない。フランスオペラの古典、特に喜劇の演出を得意とし、自作の衣裳のデザインも手がけるなど多彩なペリーの演出作は、日本からヨーロッパ、アメリカ合衆国まで広く上演され、DVD/Blu-rayで見られるものも多い。マドリードのテアトロ・レアルで制作した新作、ロッシーニの『イタリアのトルコ人』。その最終通し稽古の幕が開く直前(2023年)、ペリーはOperaWireのインタビューに応じてくれた。


―OperaWire(以下OW):あなたは弱冠18歳で「Compagnie Théâtrale du Pélican」という劇団を立ち上げましたね。俳優や演出家になるための勉強は、既にされていたのですか。


ペリー はい、18歳のときには、はっきりと演出家になりたいと思っていましたので。舞台を志したのは、14歳か15歳の頃だったと思います。両親は幼少期から、よく私を劇場に連れていってくれました。私は舞台の世界に強く惹かれました。オペラに出会ったのはずっと後になってからです。18歳のとき、自分の劇団を立ち上げて、自ら演出を手がけたり、演出助手の仕事をするようになりました。その頃、ジャン=ルイ・マルタン=バルバズという演出家に出会いました。彼には一時期演劇を教わり、その後いくつかの公演で一緒に仕事をさせてもらいました。そして、彼がアルプス国立演劇センター(CDNA)での公演の演出家に私を推してくれたのです。私が21歳の頃のことでした。それが演出家としてのキャリアの第一歩でした。CDNAの劇団のディレクターであった彼は、非常に重要な公演を私に任せてくれました。


OW―オペラの演出を手がけるようになったきっかけを教えてください。


ペリー 昔から、音楽には強い関心を持っていました。幼少の頃に聖歌隊に入り、思春期の間もずっと所属して、歌を続けていました。自身の舞台作品でも、小編成のオーケストラによる生演奏を入れたり、歌が得意な俳優に出演してもらうなど、必ず何かしら音楽を取り入れていました。オペラと出会ったのは24歳か25歳の頃でした。リヨン歌劇場のディレクターであったジャン=ピエール・ブロスマンが、ナタリー・デセイ出演の『地獄のオルフェ』を、当時、CDNAで演出家として働いていた私と、グルノーブル室内管弦楽団の首席指揮者に指名されたばかりだったマルク・ミンコフスキに任せてくれたのです。以来、マルクとは多くの作品を共に手がけてきました。ですから、オペラの世界に入ったのは、偶然の巡り合わせだったのです。


マルクと共に取り組んだ2作品目は、ジャン=フィリップ・ラモーの『プラテー』でした。彼が当時首席指揮者を務めていたパリ・オペラ座での上演です。マルクが提案したこの珍しい演目は、当初別の演出家が手がける予定だったのですが、その人が降板してしまったのです。そこで、マルクが代わりにと私に声をかけてくれました。この作品は高い評価を得て、初演以来、25年間にわたって上演され続けています。昨年もリバイバル上演がありました。ちょうどその頃、ブロスマンがパリのシャトレ座のディレクターをしていて、ジャック・オッフェンバックの『美しのエレーヌ』で再び、マルクと私に声をかけてくれました。この作品をきっかけに、アメリカ合衆国、日本、そしてヨーロッパ中で、国際的に仕事をするようになりました。


OW―あなたはフランスオペラを多く手がけており、フランス作品のスペシャリストと名高いですね。おそらく、オッフェンバックの上演を最も多く手がけた演出家はあなたではないかと思うのですが、これは、たまたまなのでしょうか。あるいは、フランスの作曲家に特に関心がおありなのでしょうか。


ペリー オッフェンバック作品は14本手がけています。『美しのエレーヌ』や『パリの生活』、『ホフマン物語』『ジェロルスタン女大公殿下』、それに『青ひげ』もやりました。『ラ・ペリコール』は2度、異なる演出で上演しています。私はコメディが好きで、とりわけオッフェンバックは素晴らしい作家だと思っています。面白く、突拍子のないところがある。特別な繋がりを感じる作曲家です。だから有名作だけではなく、マイナーな作品も手がけてきました。


OW―オッフェンバックは歴史上、単純で商業的な音楽であるとして、音楽学者や他の作曲家からの評価は低く、軽んじられてきた作家です。その評価について、あなたはどう思われますか。


ペリー フランスのオペレッタは軽視されがちですが、ロッシーニのオペラ・ブッファに相当するような、重要なものだと思います。物語もリブレットも、力強く一貫性を持ったものばかりです。フランス国内でもオペレッタはサブジャンルとして見られがちですが、特にオッフェンバックの作品はどれも素晴らしいものだと思います。豊かなオーケストレーションがあり、詩情に満ちた、力強く劇的な作品ばかりで、他の作家のオペレッタと比べても、突出した作品群です。力強いキャラクターが登場する、社会的なメッセージ性に富んだ喜劇が、そこにはあります。


OW―あなたはよく演出にダンスを取り入れていますね。特に、合唱団が踊る場面が印象的です。今回の『イタリアのトルコ人』もそうですが、ほとんどの作品で、プログラムを見ても振付家のクレジットがありません。ということは、ご自身で振り付けをされているのでしょうか。


ペリー その通りです。合唱の演出は大好きです。私はダンスや振付を学んだことはないので、振付家の技術がある訳ではありません。ですので、イタリアの振付家、ラウラ・スコッツィと協働することもあります。ですが、たとえば『連隊の娘』の合唱団の振付は、全て私がしました。


OW―これまでの作品を振り返ると、悲劇より喜劇を多く演出されているようですが、これはご自身の方針でしょうか。


ペリー そうです。そういう作品を選んで演出しています。近年では『椿姫』や『清教徒』にも取り組みましたが、やはりこうしたオペラよりも、喜劇の演出の方が楽しいです。自分の得意分野は喜劇なのです。そして近年は、自分が本当に取り組みたいオペラを選んで演出する機会に恵まれています。私がオペラに求めるのはファンタジー、魔法、そして詩情です。こうした要素は、深刻なオペラにはなかなか感じられません。『蝶々夫人』のような演目に取り組むオファーも貰ったことがありますが、私と相性が良い作品だとは思えないのです。私にとって重要なのは、遊び心をもって稽古に取り組み、音楽とリブレットに悦びを見出すことなのです。『ホフマン物語』はいわゆる喜劇ではありませんが、魔法がたくさん出てくるのが魅力的なオペラで、これも繰り返しリバイバル上演されている演目です。これまでリヨン、日本、サン・フランシスコ、シカゴで上演されており、現在はベルリン・ドイツ・オペラのレパートリー作品になっています。


OW―現在はテアトロ・レアルで、5月31日(2023年)に初日を迎える新作『イタリアのトルコ人』の制作の真っ只中ですね。この作品のコンセプトや、どういった演出のアイデアを盛り込んだのか、少し聞かせてください。


ペリー ロッシーニ作品の演出は、今回で4本目になります。大好きな作曲家ですが、彼のオペラを舞台に立ち上げるのは非常に難しい。ベルカント・オペラは概してそうですが、音楽と歌が重要であるが故に、物語や劇の流れが二の次になってしまいがちです。ロッシーニの音楽はコロラトゥーラを多用しており、難易度が高いので、歌手は演技よりも歌の技巧に集中する必要があります。本作では、フィオリッラ役は特に大変です。歌唱が実に長い。なにせオペラの4分の3は彼女が歌っていて、しかも一番難しい歌が最後に待ち構えています。それでいて、作品全体を通して、アリアでもアンサンブルでも同じ歌詞が何度も繰り返されるので、説得力を持って描くのが難しい登場人物でもあります。ロッシーニの音楽には、少し狂気を感じますね。ファンタジーの要素もありますし、笑えるところがたくさんあります。狂乱の音楽です。しかし『イタリアのトルコ人』は、物語自体は非常に古典的で、伝統的な形に則っています。


この作品は、不幸な結婚をした女性が、悦び、楽しみ、自由を夢見る物語です。しかし最終的には、夫の言いなりになる隷属的な女性という立場を受け入れてしまいます。今日、この物語をどのように語り得るでしょうか?私は常に、現代の観客に向けて作品を作っています。もう何十年も女性の権利獲得のために戦ってきた今の社会で、このような物語を見せることには、どのような意味があるでしょうか?私はいつでも、初めてオペラを観る人のことを想定して創作に取り組んでいます。このリブレットを、説得力をもって、面白い形で現代の観客に提示するには、作品を解釈し直すことが欠かせません。


本作の主人公は、バーレスクの登場人物のようなコミカルなカップル、不幸せな結婚生活を送る若きフィオリッラと、夫の老ドン・ジェローニオです。そこに、エキゾチックなカリスマ性に満ちた「トルコ人」が突然、幻想のように現れます。どこか、フェリーニの映画『白い酋長』を彷彿とさせます。これはフェリーニが初めて撮ったモノクロ映画で、フォトノベル(注:俳優の写真を漫画のように使った恋愛ストーリーの雑誌)に取り憑かれた女性が主人公です。ウディ・アレンの映画『カイロの紫のバラ』も演出のインスピレーションになりました。こちらは、ひとりの女性が暴力を振るう夫から逃れるために映画館に通いつめるうちに、映画のキャラクターがスクリーンを飛び出して現実世界にやってきてしまう、という物語です。こうしたアイデアを元に、舞台美術家のシャンタル・トマと相談し、フィオリッラが漫画の世界に迷い込んでしまい、幻想的で性的魅力溢れる「トルコ人」と出会う、という演出を考えました。フォトノベルというのは、映画と漫画のちょうど中間にあるようなものです。フォトノベルの空白のコマが舞台上にあって、物語を通して、そこを登場人物たちが出入りするのです。ロッシーニのベルカント・オペラでは、コロラトゥーラのために同じようなやり取りが何度も繰り返されるのですが、こうすることで、そのやり取りが自然になると考えました。


2023年テアトロ・レアル公演より

イタリアに現れたトルコ人が、たまたま、自分のハーレムを去ったかつての恋人と再会するという物語の荒唐無稽さは、まさに漫画そのものです。ぴったりの設えだと思います。このオペラの持つバーレスク的な要素やパロディ、そしてメロドラマを、現代の観客にとって面白く、説得力ある形で提示できる演出だと思っています。キャストも、このコンセプトをよろこんで受け入れ、形にするために協力してくれました。


OW―最後に、これまで演出したことのないオペラで、取り組んでみたいものはありますか。そして反対に、この作品は演出したくない、というオペラはありますか。


ペリー 深刻なベルカント・オペラは絶対にやりたくないですね。『ランメルモールのルチア』を演出したことがありますが、私向きの作品ではありませんでした。幸運なことに、フィラデルフィアでの初演にはブレンダ・レイとマイケル・スパイアーズが出演してくれていて、二人は素晴らしい歌手であると共に優れた役者でもあるので、出来上がった作品には満足しています。その後のリバイバルでは、素晴らしい歌手が出演してくれたのですが、歌をどう解釈するかにのみ集中しており、私の演出意図は失われてしまったように感じました。音楽のなかの演劇性を見つけることの重要性を歌手が理解してくれないと、私の演出の本質である、演劇的なコミュニケーションが失われてしまうのです。ともかく、深刻なオペラはやりたくありません。


『椿姫』『ラ・ボエーム』『カルメン』といった定番のオペラも難しいところです。あまりに多く上演されているので、今日新たに取り組む演出家の仕事は「私に何ができるだろう?」「これまで、このオペラでやられていないことは何だろう?」を探すことになってしまいます。そして、もうやり尽くされているのではないか、というのが私の実感です。それほど有名でないオペラに取り組んでいる時の方が、自分の感覚や心に正直に、スコアやリブレットと向き合うことができます。演劇のカンパニーと仕事をするときも、定番の演目よりも、あまり有名でない戯曲や、新作をやるようにしています。


21世紀に書かれた作品にも興味があります。他にも、リゲティの『ル・グラン・マカーブル』や、プーランクの『人間の声』など、新しい作品も是非演出してみたいですね。来年(2024年)、テアトロ・レアルで『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を演出する機会をいただきました。ワーグナーには初めて取り組みます。テアトロ・レアルの芸術監督であるジョアン・マタボシュに、是非このオペラをやるべきだと言われたのです。当初は、私には向かない作品ではないかと思ったのですが、彼の言う通りでした。音楽も素晴らしいですし、とてもよくできた喜劇です。しかし、5時間半の喜劇というのは、私も初めての挑戦です。


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