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【インタビュー】『ウェルテル』タイトルロール チャールズ・カストロノーヴォ

ウェルテル役 チャールズ・カストロノーヴォ

多感な青年ウェルテルの叶わぬ恋、そして憧れと絶望をドイツの文豪ゲーテが描いた『若きウェルテルの悩み』をマスネならではの色彩豊かな音楽でオペラ化した、珠玉のフランス・オペラ『ウェルテル』。ウェルテル役を演じるのは、リリック・テノールの世界的スターのチャールズ・カストロノーヴォ。本公演で待望の新国立劇場デビューを飾る彼に、これまでのキャリアについて、そして『ウェルテル』への思いをうかがった。

クラブ・ジ・アトレ誌5月号より
インタビュー・文◎後藤菜穂子 〈音楽ライター〉

ウェルテル役はテノールの憧れ


─今回の新国立劇場でのウェルテルはロール・デビューだとうかがっています。十年ほど前から歌いたい役のひとつとして挙げられていましたが、ようやく機が熟したということでしょうか?


カストロノーヴォ 2020年にチューリヒ歌劇場で初のウェルテルを歌う予定でしたが、新型コロナの感染拡大のためにかないませんでした。今回、東京でようやくロール・デビューを飾れることを嬉しく思っています。重厚で豊かな感情表現が求められる役ですが、声楽的にもドラマ的にも準備はできていると感じています。


─ウェルテルというキャラクターをどのように演じたいですか?


カストロノーヴォ 正直、ウェルテルはドラマ的には奇妙な役だと思います。私自身は、ウェルテルのような性格の持ち主ではありません。彼は色々な面で弱い人間だと感じます。でも、そうした弱さは彼の若さ、傷つきやすさ、経験のなさからきているのだと私自身は考えています。ですから、私にとっての課題は、彼を共感しにくい人物にしてしまわないように気を付けつつ、正直に演じることです。彼のキャラクターにどこか共感できるとしたら、シャルロットへの誠実な愛情と強い情熱ですね。ウェルテルの自然への愛着とそこから生まれる愛情が彼のいちばんの魅力だと思います。


『ウェルテル』2016年公演より©寺司正彦

─この役を歌う上での技術面、感情面での難しさはどんな点でしょう?


カストロノーヴォ ウェルテルを歌う難しさは、フランス・オペラのテノールのレパートリー全般に言えることですが、長丁場の役なのでうまくエネルギーを配分しながらも、感情をすべて注ぎ込んで役に没入することです。また、フランスものを歌うには、高度な洗練と、ドラマティックな緊張感に満ちた瞬間との融合が求められます。声楽的には、ピアニッシモとフォルティッシモの両極での歌唱、息の長いフレーズ、会話風の旋律――それらをときには同じ場面で要求されます。多くのテノールにとって憧れの役ですね。


─今回が日本でのオペラ・デビューでしょうか?


カストロノーヴォ 18年ほど前に(!)東京でピアノ伴奏のリサイタルを行ったことがありますが、オペラではデビューとなります。前回は東京に4日間しかいられなかったので、今回の滞在では日本の文化に触れたり、日本の人たちと交流したりできるのを楽しみにしています。


自身の声の可能性を広げ 成長し続けるために


─カストロノーヴォさんは、キャリア当初はモーツァルトやベル・カントを中心に歌い、その後は徐々にレパートリーを増やし、今ではヴェルディ(『椿姫』アルフレード、『仮面舞踏会』リッカルド、『ドン・カルロ』タイトルロールほか)、やプッチーニ(『トスカ』カヴァラドッシ、『ラ・ボエーム』ロドルフォ)も歌っています。ご自身の声質についてはどのようにとらえていますか?


カストロノーヴォ 私自身は、リリック・テノールでありながら、もう少しドラマティックな役柄にも挑戦できる声だと考えてきました。時を経るにつれて、声も成熟してきて、新しい役を取り上げられるようになりました。これまでの自分のキャリアの歩みには概ね満足しています。それでも、つねにこの役は自分に合っているか、まだ早いのではないかと自問しています。良い環境で新しい役を試してみて、納得できなかったら、機が熟すまでその役は歌わないというのが私の基本姿勢です。ですから、ロール・デビュー後、数シーズン歌わないこともあります。また、毎シーズンいわゆるリリックな役を2つ歌うようにしています。それによって声をいつもフレッシュで柔軟に保つことができます。


 たとえば来シーズンはヴェルディの重要な役のデビューがありますが(それが何かはまだ秘密です!)、『魔笛』のタミーノも歌います。こうして声の健康を保っているのです。おそらく私の声は基本的にはリリックであり続けると思いますが、力強さやドラマの点で成長しつづけることでしょう。


 最近ではウェーバーの『魔弾の射手』のマックスをレパートリーに加えましたが、これはリリックなドイツ・レパートリーと、『ローエングリン』などのワーグナーのリリックの役の中間に位置する数少ない役だと思います。また、近々同じくウェーバーの『オベロン』を演奏会形式で歌う予定にしています。以前から、珍しいオペラを歌うことにも関心を持っており、マスネの『テレーズ』というオペラを歌ったこともあります。


─カストロノーヴォさんはどのような家庭環境で育ちましたか? また、オペラとの出会いはいつでしたか?


カストロノーヴォ 私はニューヨークのクイーンズで生まれ、ロサンゼルスで育ちました。父はシチリア出身、母はエクアドルの出身で、2人とも10代後半に米国に移住しました。したがって私のなかにはイタリア/ラテンの血が流れていて、それがオペラ歌手としてのキャリアに有利に働いたのかもしれません。父方にも母方にも音楽家はいませんが、高校生のときにオペラに出会い、すぐに夢中になりました。私の中に残っていた「故郷」の部分に響いたのかもしれません。初めて観た全曲のオペラはロサンゼルスでの『魔笛』でした。まさに魔法のような体験でした!


─どんな歌手から影響を受けてきましたか?


カストロノーヴォ 私は若い頃から遠慮することなく、いろいろな歌手の方に、私の歌を聴いてアドバイスをもらえないかとお願いしてきました。歌手としてのキャリアの出発点となったロサンゼルス・オペラでは、多くの大歌手が出演していて、プラシド・ドミンゴもいたのです。彼が出演した『フェドーラ』に私も小さな役で出ることになり、それが私のプロとしてのオペラ・デビューとなったのでした。また、その前にメトロポリタン歌劇場のヤング・アーティスト・プログラムに参加していたときには、ルチアーノ・パヴァロッティに歌を聴いてもらう機会がありました。彼のアパートメントで、私とピアニストとパヴァロッティの3人だけ。これは私の人生のハイライトのひとつです。彼はとても親切で、私を励ましてくれました。


 これまで私は、手に入る限りのあらゆるオペラ録音を入念に聴き込んできました。好きなテノールを挙げるとしたら、ディ・ステファノ、カレーラス、ジーリの3人、その次にベルゴンツィ、パヴァロッティ、ジョルジュ・ティルでしょうか。


─最後に日本の観客へのメッセージをお願いいたします。


カストロノーヴォ 日本のオペラ・ファンの皆さんへ。まもなく皆さんの前で歌えることを、心から楽しみにしています! この素晴らしいオペラ『ウェルテル』を、日本人キャストにまじって演じられることを嬉しく思います。公演では私の愛情とエネルギーをすべて注ぐことをお約束します。そして、これからも皆さんと何度もお会いできますように!


チャールズ・カストロノーヴォ Charles CASTRONOVO
ニューヨーク出身。同世代で最も優れたリリック・テノールのひとりとして国際的に高く評価される。ロサンゼルス・オペラと契約しキャリアをスタートした後、メトロポリタン歌劇場リンデマン若手芸術家育成プログラムに参加。1999年、『道化師』プレミエのベッペ役でメトロポリタン歌劇場デビュー。英国ロイヤルオペラ、パリ・オペラ座、メトロポリタン歌劇場、ベルリン州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、テアトロ・レアル、ベルリン・ドイツ・オペラ、モネ劇場、バイエルン州立歌劇場、リセウ大劇場、サンフランシスコ・オペラ、シカゴ・リリック・オペラなど、世界有数の歌劇場で活躍中。24/25シーズンはバレンシア・ソフィア王妃芸術宮殿『マノン』デ・グリュー、チューリヒ歌劇場、バイエルン州立歌劇場『仮面舞踏会』リッカルド、パリ・オペラ座『ドン・カルロス』タイトルロール、英国ロイヤルオペラ『カルメン』ドン・ホセ、バイエルン州立歌劇場『群盗』カルロに出演。24年ミュンヘン国立管弦楽団と録音した「I Canti」でオーパス・クラシック賞受賞。新国立劇場初登場。


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