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オペラ『こうもり』ロザリンデ役エレオノーレ・マルグエッレインタビュー

エレオノーレ・マルグエッレ


欧米の歌劇場での年末恒例の演目といえば『こうもり』。

オペラパレスでも12月に上演!

ヨハン・シュトラウスⅡ世の小粋なワルツにのって繰り広げられるユーモアいっぱいの大人の喜劇。

夫の浮気現場を押さえようと、ハンガリーの伯爵夫人に扮してオルロフスキー邸の夜会にやってくる妻ロザリンデを演じるのは、エレオノーレ・マルグエッレ。

バロック・オペラから現代オペラまで、幅広いレパートリーを持つ彼女にとって大切な作品だという『こうもり』とロザリンデの魅力について語る。



クラブ・ジ・アトレ10月号より

運命を自ら切り拓く女性の役は素晴らしい



―古城とドイツ最古の大学がある美しい町ハイデルベルクのご出身だとか。音楽への愛に目覚めたのはいつ頃だったのでしょうか?



マルグエッレ 私はハイデルベルクで育ち、高校卒業まで住んでいました。数学者の祖父が大の音楽好き、特にモーツァルトの大ファンで、ピアノとヴァイオリンも上手でした。マルグエッレ家はみんな音楽が好きでした。私は5歳で祖母からヴァイオリンを学び、その後ピアノも習いましたが、歌が好きで、学校の合唱団や室内合唱団に入り、そこで歌への愛が大きくなっていきました。両親は、母が俳優で、父は社会学者でした。母方の親戚にはプロの音楽家も多く、いとこにホルン奏者、ヴァイオリン奏者、ピアニストなどがいます。



―声楽家になろうと思ったのはいつ頃ですか?



マルグエッレ 母がマンハイムで仕事をしていたので、私は高校卒業後にマンハイムの劇場で実習を受け、すっかり劇場に魅せられてしまいました。演劇かオペラか、2つの道がありましたが、演劇だとその言語の国に限られるけれど、音楽なら世界に出ていけると考え、オペラを選んだのです。そしてカールスルーエの音楽大学で声楽を2年間学び、その後さらにウィーン音楽大学で学びました。



―デビューはいつでしょう?



マルグエッレ 1999年、まだウィーンの学生だった頃、イタリアの南チロルの町メラノで『魔笛』のパミーナ役でデビューしました。卒業後、2000年にウィーンのブルク劇場で歌手として約1年間契約しました。これが私の最初の契約でした。ブルク劇場は演劇の劇場として知られていますが、独自のオーケストラ、合唱もあり、音楽作品も上演するので、私は歌手として契約したのです。



―バロックから現代作品と、大変幅広いレパートリーをお持ちですね。ご自身の声とレパートリーについてご紹介ください。



マルグエッレ 最初はコロラトゥーラ・ソプラノの声で、夜の女王やコンスタンツェなどを歌いましたが、30歳で息子を産んでからは、一度だけジュネーヴで夜の女王を歌ったあと、ドラマティックなコロラトゥーラ・ソプラノになりました。役としてはドンナ・アンナ、ヴィオレッタ、ジルダなどです。その後、アラベッラや『魔弾の射手』アガーテを歌い、リリック・ドラマティック・ソプラノの役の方向に進みました。

 新国立劇場で歌う『こうもり』のロザリンデ役にはすべてが含まれています。中音域の良い声も必要で、チャルダッシュもあるし、低音から高音まであり、大好きな役です。



―ヨハン・シュトラウスⅡ世の音楽の極意は何でしょう?



マルグエッレ 彼の音楽は、まず、楽器奏者にも声楽家にも高い要求をする作品であるということ。そしてメロディが素晴らしい。誰もがすぐに覚えられるナンバーが多く、しかもアンサンブルに高度なクオリティが要求されます。ウィーン音楽大学卒業記念公演『ウィーン気質』のとき、ウィーン・フォルクスオーパーの演出家ロベルト・ヘルツルも言っていました。「オペレッタはとても難しいジャンルだ。踊りも歌も、そして台詞も上手くなければならないから」と。私はもともとオペレッタが大好きなのですが、歌うだけでなく、演技して踊って、自分で振付せねばならないところもすごく気に入っています。



―オペレッタはエンターテインメント性が強いので見過ごされがちですが、ロザリンデはとても難しい役ではないでしょうか。



マルグエッレ ロザリンデを歌い演じるには、いろいろな挑戦があります。舞台にかなり出ずっぱりですし、特に第2幕には二重唱があり、チャルダッシュもあります。第3幕にも難しい三重唱があります。ロザリンデはパワフルな役。不誠実な夫に、妻としてはっきりものを言う"真の女"を演じられてとても興味深い役です。『メリー・ウィドウ』のハンナ役もそうですが、オペレッタの世界では女性が強いですね。運命を自分の手で切り拓く女性の役は、素晴らしいと思います。



『こうもり』は私にとって大切で大好きなオペレッタ



―第2幕、ロザリンデはハンガリーの伯爵夫人になりすましてオルロフスキー邸の夜会に出て、皆に信じ込ませるためにハンガリーの音楽であるチャルダッシュを歌います。この入り組んだシチュエーションを 表現するために、どのような工夫をしていますか?



マルグエッレ チャルダッシュを歌い始める前に台詞がありますから、そこでハンガリー語を混ぜたりしてハンガリーの雰囲気を作ります。そしてチャルダッシュのはじまりの最初の2音。これがシュトラウスのすごいところです。チャルダッシュがどんな踊りの音楽であるか、当時の観客はよく知っていましたから、初演の時、出だしのリズムに興味をそそられたことでしょう。シュトラウスは詳細に考えていて、アッチェレランド(だんだん速く)、アクセントなど、音楽の表現を楽譜に細かく書き込んであります。他の作品はそこまでではないのに、『こうもり』は指示が詳細なのです。ただし、チャルダッシュの2番の始まりは、いつアッチェレランドを始めるかシュトラウスは楽譜に書いていません。今回の指揮者パトリック・ハーンはヴッパタール歌劇場で一緒に仕事をした仲ですが、オーストリア人の彼がどのようにするか、今からとても楽しみです。



―多忙な歌手活動に加えて、オペラについての本を執筆したり、オペラガイドポッドキャスト「Leonore & Fidelio」を発信されるなど、幅広い活動をされていますね。



マルグエッレ まだオペラを観たことのない人にも興味を持っていただきたくて。ポッドキャストでは、オペラの内容や、どこが面白いかをお話ししています。有名なオペラガイドブックもありますが、それよりもっと簡潔に説明して、音楽を少し流すことで「あ、このメロディ知ってる」と思っていただき、劇場に足を運ぶきっかけになったら嬉しいです。メトロポリタン歌劇場でも充実の内容のポッドキャストがありますが約1時間と長いので、私は15分から20分で収めるようにしています。現代人は忙しいですからね。

 編集は、自分でやっていますよ。ポッドキャストを始めた頃は毎週のようにアップしていましたが、やはり編集に時間がかかるので、今は年に5~6本をアップしています。東京滞在中にも1本作るつもりです。



―今後のオペラ出演のご予定は?



マルグエッレ この秋にはブリュッセルでカステルッチ演出の 『ラインの黄金』を歌います。そして新国立劇場の『こうもり』で、そのあとも『こうもり』です。コロナ禍で、テレビ収録はしたものの舞台上演が延期になっていたもので、12月から来年4月まで、フランス各地の劇場を回ります。来春にはコンサートもあり、バッハの「マタイ受難曲」を歌います。



―最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。



マルグエッレ  2008年にプラハの歌劇場の東京公演『魔笛』に客演したことがあります。そのとき夫も一緒だったのですが、二人ですっかり東京のファンになりました。ですので年末に新国立劇場で『こうもり』を歌えることをとても楽しみにしています。私にとっても大切で大好きなオペレッタですので、私のロザリンデ役を日本の皆様にお見せできることを嬉しく思います。ぜひ劇場でお会いしましょう。




≪エレオノーレ・マルグエッレ Eleonore MARGUERRE≫

ハイデルベルク出身。カールスルーエ、ウィーンで声楽を学ぶ。2008年ヴィオッティコンクールなど数々の国際コンクールで優勝。キャリア初期にはジュネーヴ大劇場、ウィーン国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ハンブルク州立歌劇場、ザクセン州立歌劇場などで『魔笛』夜の女王、ライプツィヒ歌劇場、エッセン歌劇場、ドルトムント歌劇場などで『後宮からの逃走』コンスタンツェ、ダルムシュタット歌劇場『リゴレット』ジルダなどに出演。その後リリック・ソプラノの役柄を歌うようになり、ドルトムント歌劇場、ライン・ドイツ・オペラ、ニュルンベルク歌劇場、エアフルト歌劇場、トゥール歌劇場、モンテカルロ歌劇場などで『コジ・ファン・トゥッテ』フィオルディリージ、『椿姫』ヴィオレッタ、『マノン』タイトルロール、『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・アンナ、『フィガロの結婚』伯爵夫人などに出演。モネ劇場『利口な女狐の物語』狐、『フランケンシュタイン』(世界初演)エリザベートにも出演している。最近ではナント歌劇場、アヴィニヨン歌劇場、トゥーロン歌劇場『こうもり』ロザリンデ、ヴッパタール歌劇場『メリー・ウィドウ』ハンナ・グラヴァリなどに出演している。新国立劇場初登場。



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