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『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール シモーネ・アルベルギーニ インタビュー


稀代のプレイボーイ、ドン・ジョヴァンニの華麗なる恋の遍歴、そして騎士長の石像に罰せられ、地獄へ落ちる物語を描くモーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』が間もなく初日!

タイトルロールを演じるのは、イタリアの名歌手シモーネ・アルベルギーニだ。

イタリアをはじめとするヨーロッパの名門歌劇場で数多く歌っている、彼にとって最も得意の役のひとつで新国立劇場に初登場する。

『ドン・ジョヴァンニ』の作品と役の魅力についてうかがった。

インタビュアー◎加藤浩子(音楽評論家)

ジ・アトレ誌12月号より

最初から最後までエネルギーを保つこと それがドン・ジョヴァンニ役の難しさ


 21歳の若さで「オペラリア」コンクールで優勝して以来、およそ30年にわたって世界の第一線で活躍してきたイタリアの名バス・バリトン、シモーネ・アルベルギーニ。まろやかで豊かな響きとエレガントさを兼ね備えた美声と洒脱な演技は、観る人を惹きつける磁力を備えている。その彼が十八番の『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロールで、新国立劇場デビューを果たす。2020年の『コジ・ファン・トゥッテ』にドン・アルフォンソ役で登場の予定がコロナ禍で公演がキャンセルになり、満を持しての初登場である。


シモーネ・アルベルギーニ

― 『コジ・ファン・トゥッテ』が中止になったのは本当に残念でした。ドン・アルフォンソはアルベルギーニさんの得意な役のひとつですよね?

アルベルギーニ ええ、あのキャンセルは残念でしたが、あの時は世界中がそうだったのです......。けれど今、『ドン・ジョヴァンニ』のタイトルロールで新国立劇場の舞台に立てるのはこの上ない喜びです。ドン・アルフォンソも素敵な役ですが、ドン・ジョヴァンニはそれ以上に素晴らしい役ですし、何より私が一番歌っている役のひとつなのですから。

 『ドン・ジョヴァンニ』という作品は2002年に日本でも歌っていますが、あの時はレポレッロ役でした。これまでの人生で唯一のレポレッロ役です。マゼットもボローニャで歌いましたが、やはり一度だけ。それに引き換えドン・ジョヴァンニは、20以上のプロダクションで100回以上歌っています。



― アルベルギーニさんはモーツァルトとロッシーニをレパートリーの中心にしていらっしゃいますが、デビュー当時はバスのレパートリーも歌われていましたよね。「オペラリア」コンクールで優勝した時には、『ドン・カルロ』のフィリッポ二世のアリアを歌われたと聞きました。

アルベルギーニ ええ、バス歌手としてスタートしたので、初めはフィリッポや『リゴレット』のスパラフチーレなど、バスの真ん中のレパートリーを歌っていました。けれどその後勉強を重ねるうちに、自分の音域は「バス・バリトン」だと気づいたのです。それで、より自分の音域に合っているモーツァルトやロッシーニ、フランス・オペラのレパートリーに移行しました。最近ではより高い音が出るようになってきたので、バリトンの役柄である『イル・トロヴァトーレ』のルーナ伯爵や、『ドン・カルロ』のロドリーゴにも挑戦しています。



― ドン・ジョヴァンニ役はアルベルギーニさんのシグネチャーロールと言える役ですが、作品と役柄の魅力を教えてください。

アルベルギーニ その質問に答えるなら、本当は何日も必要ですね。キャラクターについて言えば、まずは人間像。これはもう、文学と音楽を通じて時代を超えた「神話」になっています。モーツァルトのオペラ、特にダ・ポンテ三部作では、どのキャラクターも生命力に溢れていて、生まれてから何世紀も経っているのにヴィヴィッドなのです。

 ドン・ジョヴァンニ役は、声楽的には特別難しいというわけではないのです。他の登場人物のような大アリアもありません。小さなアリアと、マンドリン伴奏の小唄があるだけです。この役の難しいところは、最初から最後まで止まることのないエネルギー、ヴァイタリティ、テンションを保つことなのです。

 私は「演じる(レチターレ)」ことが好きなので、レチタティーヴォが好きなんです。モーツァルトとロッシーニが好きな理由のひとつは、レチタティーヴォ、特にセッコのレチタティーヴォが優れている点です。セッコのレチタティーヴォは、キャラクターを組み立てる上でとても重要なのです。

『ドン・ジョヴァンニ』の優れたレチタティーヴォの例を2つあげましょう。ひとつ は有名な二重唱「手に手をとって」の前に置かれた、ツェルリーナとのレチタティーヴォです。ここで、ドン・ジョヴァンニがどうやって女性を口説き、誘惑するかがわかるのです。

 もうひとつの例は、第2幕冒頭のレポレッロとの長いレチタティーヴォ。ドン・ジョヴァンニは絶えず行動していますが、ここで初めて立ち止まって、自分の行動指針を吐露します。レポレッロが「なぜ女を騙すのか」と問うのに応えて、「あらゆる女を愛するため」だと、自分の哲学を述べるのです。もちろん、ダ・ポンテの言葉の使い方も素晴らしい。この2人によるオペラは、これまで存在した音楽劇の最高峰でしょう。後世では、ヴェルディとボーイトのコンビはそれに匹敵するかもしれませんが。


稽古場写真より



オペラの現場では毎回新しい発見がある


― 今回の公演は、世界で活躍する歌い手が揃っています。

アルベルギーニ とても楽しみです。セレーナ・マルフィとは共演したことがありますし、マエストロ・オルミとはキャリアの初期の頃にコンサートでご一緒しただけで、オペラの舞台は初めてですから、ワクワクしています。

― アルベルギーニさんにとって、オペラ歌手という仕事の魅力はどこにあるのでしょう。

アルベルギーニ  どんな仕事もそうですが、オペラ歌手という仕事にも良い面と悪い面があります。マイナス面は、家族と過ごす時間が限られてしまうこと。プラス面は、それに関わる全てを愛し、情熱を捧げられること。オペラの現場では毎回新しい発見があるので、退屈とは無縁です。



― アルベルギーニさんは料理がお得意とうかがいました。貴方の尊敬するロッシーニも優れた料理人だったようですが、ロッシーニのレシピを再現するとしたらお勧めは何ですか?

アルベルギーニ  料理は好きですが、残念ながらロッシーニのレシピに挑戦したことはありません(笑)。ただ、ロッシーニの名前のついたお勧めの料理があります。私はボローニャ生まれですが、16年前からロッシーニの生地で、音楽祭で有名なペーザロに住んでいます。ここにしかないピッツァで、マルゲリータの上に茹で卵とマヨネーズを載せた「ピッツァ・ロッシーニ」はお勧めですよ!


― 2002年以来の久しぶりの来日で、楽しみにされていることは何ですか? また日本のファンへのメッセージをいただけたら嬉しいです。

アルベルギーニ  京都や奈良、鎌倉といった歴史のある街を観光する時間があれば嬉しいですね。もちろん日本料理も。日本料理はなんでも好きですが、一番のお気に入りはしゃぶしゃぶです。

 長い年月を経て日本に戻れるのは、本当に幸せです。大好きな国で、素晴らしい日本の聴衆の皆さんに私の舞台を楽しんでいただけるよう全力を尽くします。

 日本でドン・ジョヴァンニを歌う前は、ボローニャでドニゼッティの『劇場の都合と不都合』というオペラ・ブッファに出て、女性の役を歌うんですよ。女性役からプレイボーイへ の切り替えも楽しみですね。


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