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オペラ『アルマゲドンの夢』コンセプト説明

オペラ『アルマゲドンの夢』リハーサルには海外から入国したスタッフ・キャストも順次加わり、いよいよリハーサルが本格化してきました。

ソリストのリハーサルを前に、演出家のリディア・シュタイアーから出演者へ行われた演出コンセプト説明を、大野和士オペラ芸術監督の挨拶と共にご紹介します。



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大野和士(指揮/オペラ芸術監督)

<大野和士芸術監督挨拶>

今日ここに皆さんと集まることができて大変嬉しく思います。

この『アルマゲドンの夢』は、3月の終わりにヨーロッパから日本への入国が制限されて以来、初めて海外からアーティストを招聘するプロダクションとなります。海外からの皆さんを招聘し上演を実現するには、長い準備がありました。今こうして皆さんを迎え、集まっているのは、まさに夢のような出来事です。

夢と言えば『アルマゲドンの夢』のタイトルですね。幸福な夢が恐るべき悪夢にかわる...現実がそうなってはいけないのですが、この『アルマゲドンの夢』を通じて、素晴らしい夢、素晴らしい未来を発見しましょう。

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リディア・シュタイアー(右)

<リディア・シュタイアーの演出コンセプト説明>

このように国際的な往来が途絶えた後、初めての海外アーティストの招聘というプロダクションに関わることができ、大変光栄に感じております。

この作品は、第一次世界大戦の前、1901年に出版されたH.G.ウェルズの短編小説をもとにしていますが、原作とは多少異なる部分があります。まずクーパーの性格付けです。小説ではクーパーは政治的な力を持つ人物です。私たちは、現在の混迷の中にある世界で、観客が彼の姿を見ながら、自分だったらどうするか、観客が自分を投影できるようにと考え、性格の変更を行いました。もう1点顕著な変更は、女性の性格付けです。原作では名前すら与えられていないような役柄ですが、このオペラの中では、彼女こそが、変貌していくものに対して、なぜ今正義を行わなければならないのかと、積極的に関わっていく人物になりました。

簡単にストーリーを説明します。

舞台は主に2箇所に設定されています。ひとつは現在の通勤電車の中。もう一つは夢の世界です。夢の世界は近い未来であって、悪夢の様相を呈していき、全体主義に覆われ、軍国主義へとどんどん傾倒し、自由も奪われていきます。これは原作にもオペラにも共通で、観る者は、今目にしていることは現実なのだろうか、幻覚なのだろうかという思いに迫られるのです。

デザインのコンセプトとしては、まず、電車のシーンは少しだけ過去、1960年代に設定しました。これから見る夢の世界、未来の世界との違いを際立たせようという意図からです。少し前まで誰も想像しなかったことですが、現実に今私たちは、恐怖に取り囲まれた世界に生きています。私たちがこれからチャレンジしようとしているのは、今、2020年に私達が生きているこの東京に、この先、もっと暗い、恐ろしいことが訪れるのか問いかけることです。この作品を上演することで、今この恐怖に囲まれた世界に生きる一市民として、正義に生きるとはどういうことなのかを問いかけたいと考えています。

クーパーは、唯一、現実世界と夢の世界を行き来できるキャラクターです。ベラは夢の世界にしか生きていないキャラクターですが、非常に活動的で、何に対しても前向き、そして最初から"仲間"として選ばれるべき者、"選ばれし者"という設定です。彼女のキャラクターは非常に複雑です。

フォートナム/イーヴシャムの役柄は、2役を演じます。最初は電車で話しかけてくる客。電車は現実の象徴です。クーパーは現実と夢の世界をシームレスに自由に行き来する。最初はただ電車で話しかけてくるだけだったごく普通の男フォートナムが、夢の世界にも入り込んでくる。そこで既に影響を受けているということが分かります。通勤列車で会った、ただ電車で本を読んでいた普通の人物が、幻の世界では、突如として偉大なる先導者、独裁者になる。この変貌こそ、今私たちが生きている世界でも起こり得るのではないかということを見せたいと考えています。

世界が急激に変貌し、普通の人々が集団に取り込まれていくことが描かれる第5場で、その情景を際立たせるために活用するのが映像、メディアの力です。映像によるプロパガンダ、映像を見せることで、人々の心をどんどん統制し、染まらせていく。今日の現実を反映したものとしました。こうしたメディアを通して提示されるプロパガンダやダブルミーニングに対して、真実というものが一体どこにあるのか自問自答する、リアリティとは何かを突き付けていくという風に意図しました。映像は全編で使います。セットや映像、照明が組み合わさって混迷を表現していきます。

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美術:バルバラ・エーネス
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コンセプト説明を聞くソリスト、カヴァー歌手、スタッフ達

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ピーター・タンジッツ(クーパー・ヒードン役)
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ジェシカ・アゾーティ(ベラ役)


オペラ『アルマゲドンの夢』公演情報

https://www.nntt.jac.go.jp/opera/armageddon/