オペラ芸術監督 大野和士からのメッセージ

オペラをこよなく愛する皆さま、日頃より新国立劇場を応援してくださっている全ての皆さまに向けて

今回、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の中止をお知らせすることにより、本年3月の『コシ・ファン・トゥッテ』から数えまして、新演出も含め、6月の終わりまで、2019/2020シーズン後半5演目連続の公演中止となりました。それに加えて、7月に予定されていた高校生のためのオペラ鑑賞教室『夕鶴』、地域招聘オペラ公演『竹取物語』(びわ湖ホール)も中止となっており、国内のほとんどの文化団体とならんで、まさに未曾有の体験であります。

この間、私たちは、ある一定の期間まで、少しでも上演の可能性が出てくるのであるならば実現を図ろうと、リハーサルを進められる限り、日本人のスタッフ、キャストはもとより、海外招聘のスタッフ、キャストの来日も取り付け、準備を進めたこともありましたが、その都度、イベント中止要請が出るなど劇場を取り巻く状況により、断念することが繰り返されたのでした。

海外では、政府の指針を受け、オペラハウスに関しては今シーズンの終わりまでの中止(6月末から7月末まで)、またその後に催される夏の音楽祭に関しても(7月から8月にかけて)中止や延期が早々と発表されたケースが多いことを鑑みますと、聴衆の皆様方に一つ一つの公演ごとにキャンセルのお知らせをせざるを得ず、結果として多大なるご心配、ご迷惑をおかけしたことを大変申し訳なく思っております。

このような中でも、新国立劇場オペラ部門では、他の部門とも協力しながらホームページ上で工夫を凝らし、劇場の日々の様子をお届けしようと、劇場内部のご案内、キャンセルとなった『ジュリオ・チェーザレ』のリハーサル最終日の様子、『ホフマン物語」の"玉手箱" などをお届けするとともに、私が芸術監督となってからの新制作3本(『魔笛』『トゥーランドット』『エウゲニ・オネーギン』)を、"おうちでまったり!「巣ごもりシアター」"と題して全曲無料配信(※今後も追加作品を配信予定)を行うなど、現在お宅で過ごしていらっしゃる皆さま方に、少しでも劇場を身近に感じていただくための試みを続けております。

これらのプロダクションで、オペラという音楽劇において、現在の舞台セット、ライティング、衣裳などビジュアル部門の飛躍的発展を元に、視覚効果がどのくらい鮮烈で心に波紋を引き起こす要因を担っているのか、演出家と指揮者のコラボレーションの緊密さによってどのような新しいドラマとして生まれ変わるのか、それに基づいて歌手が"歌う俳優"として、いかに人間の内面的心理を奥深く表出するかなど、映像ならではの近距離から様々な発見をしていただけましたならば幸いです。

さて、8月の『Super Angels スーパーエンジェル』および9月の新シーズンがどのような形で再開されるかについては、未だ確かな予想はつきません。

現在、世界の劇場と連絡を取り、情報を共有しながら相応しいあり方への模索が始まったところであります。

もしかしたら、一斉にプロダクションが十全な形で再開される、ということは難しいのかもしれません。

当然国によっても状況は異なると思います。

少なくとも新国立劇場では、再開の道筋を探る中で、今シ-ズンキャンセルになったいくつかの演目は、近い将来、再び取り上げていけるよう配慮したいと思っております。

新国立劇場といたしましては、いかなる状況でありましても皆様方に寄り添い、緩やかにかもしれませんが、心からの親愛の情を持って暖かく皆様を劇場にお誘いすることができるよう努めて参りたいと思います。

『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の主人公、ハンス・ザックスが第3幕で若い騎士ヴァルターに向かって次のように歌う一節があります。

"魅惑的な青春時代に、愛に心震わせて素敵な歌を歌うことは多くの人にもできる、しかし、夏、秋が過ぎ、そして冬になり、悩み、憂い、軋轢、争いなどが隣り合わせになった時、それでも美しい歌を作ることができる人こそ本当のマイスターである。"

今年私たちに起こっていることが、やがて私たちを次の高みに引き上げてくれることを心から祈っております。

その時を信じて、私たち新国立劇場は、新しい扉を皆様方に開け放つことができるよう、いそしんで参りたいと思っております。

大野和士