演出家 フランコ・ゼッフィレッリ氏逝去の報を受けて



2019年6月15日、演出家・映画監督のフランコ・ゼッフィレッリ氏がローマで逝去されました。96歳でした。

ゼッフィレッリ氏はフィレンツェに生まれ、ルキノ・ヴィスコンティの助手を務めた後、1953年にミラノ・スカラ座『チェネレントラ』で演出家デビューし、オペラのほか演劇の演出、映画監督として数々の名作を生みだしました。リアリズムを主軸として、音楽とドラマを視覚的な美しさで見せるそのオペラ演出は、彼自身のデザインによる豪華絢爛な美術、衣裳も含め高く評価されています。

1997年に開場した新国立劇場は、開場記念公演『アイーダ』の演出にゼッフィレッリ氏を招聘しました。ゼッフィレッリ氏は妥協のない徹底した演出により、黄金に輝く壮麗な宮殿や神秘的な河畔の情景が次々と展開する、壮大な古代エジプト世界を現出させました。この『アイーダ』は昨年の開場20周年記念公演として上演されるなど、節目の年に再演を続け、オペラの中のオペラとして圧倒的人気を博しています。

ここに謹んでフランコ・ゼッフィレッリ氏のご功績に敬意を表すとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。



公益財団法人新国立劇場運営財団





新国立劇場開場記念公演『アイーダ』(1998年)





新国立劇場開場記念公演『アイーダ』初演(1998年)に寄せたゼッフィレッリ氏のメッセージ


『アイーダ』カーテンコールより

今日の世の中はますます複雑化し、非人間的なものになりつつありますが、しかし私たちは、いまだに人間社会の未来へのいくばくかの希望を信ずる心を失ってはいません。世の中全体が物質的な事柄を追い求めるようになればなるほど、私たちは、自らの心と精神の中に、価値ある善きものを探し求めざるをえないと感じます。その価値ある善きもののためにこそ生きるように、人間は生命を授かっているのです。

この価値ある善きもの、つまり神が人間に与えた神聖なる贈り物であり、人間の天賦の才能であるもののなかでも、二つの最も力強く普遍的なものが、"文化"と"音楽"です。この二つは、人間がその価値を高め、大切に育み、守ってきたものです。そして今日ますます、人間にとって価値あるものは、人種や時代に関わらず、文化と音楽を通じてこそ保たれるのだということを、私たちは学び取りつつあるのです。(中略)

オペラは、まさにあらゆる芸術の縮図です。そこでは、ドラマ、歌、演技、視覚芸術、色彩、ライティングといったすべての芸術が、"音楽"という至高の権威のもとに巻き込まれてひとつになり、文化の究極の頂点が表現されているのです。(中略)

そして今、日本は、歴史的な転機に到達しました。ついに日本人自らが、自身の力と才能によって世界で最も使いやすく質の高い劇場を建設し、国立のオペラハウスを誕生させたのです。今回の『アイーダ』上演に当たり、日本でのオペラ劇場の創出という歴史的な出来事の一角を担う幸福にあずかり、この喜びと誇りを言い表す言葉が私には見つからないほどです。

新国立劇場ができたことで、オペラという芸術は、『アイーダ』のように日本で勝利の凱旋をすることになるでしょう。その凱旋の機となる今回のオープニングを見届けることができることに、筆舌しがたいほどの喜びを覚えます。しかしその喜びをさらに超えるほど強く、私は感謝の念を抱いています。なぜなら、この勝利の凱旋は、物質主義に対する精神の勝利であり、この勝利を通じてこそ、私たち誰もが精神的により豊かに感じ、よりいっそう神の御許に近く感じることができるからです。



『アイーダ』リハーサル中のゼッフィレッリ氏