オペラ『紫苑物語』海外メディア公演評


2月に上演したオペラ『紫苑物語』は、国内のみならず海外のメディアからも大きな注目を浴びました。海外メディアの公演評を抜粋でご紹介いたします。

ASIA TODAY、韓国(Sooyeon Sohn)

演出の笈田ヨシは世界的な俳優・演出者として知られている。メタリックな色彩や鏡を使った舞台は時代や広がりのある空間を作り出したが、舞台装置を動かすため登場するスタッフは、文楽の人形を操る人のように自然に舞台を扱うことができ、日本演劇の伝統の技を生かした。矢を射って仏像を崩れ落ちたあと、自分も崩れ落ちる宗頼の最後の姿は象徴的なシーンとなり、大きな余韻を残した。

OPERA TODAY、アメリカ(Jamie Findlay)

『紫苑物語』は易しい作品ではない。物語や登場人物の象徴性を理解するためには、かなりの集中が必要だ。しかし、この作品は決して退屈させることがなく、物語は進行し、音楽は内面のドラマを描き出す。幕開きの結婚式のシーン、最初の殺生後の哀歌、2幕における宗頼、千草、うつろ姫、藤内など大きな見せ場があるとともに、静かで、思索に満ちた場面もある。「紫苑の主題」「宗頼の主題」「魔の矢の主題」の3つのライトモチーフは、作品をまとめ、理解を助けることに貢献した。

(中略)
この作品は、そう遠くないうちにヨーロッパや北アメリカで上演され成功するだろう。その日が来ることを期待しよう。また、オペラの新しい時代のスタートを目撃できるように、さらに多くの日本オペラを創り出したいという大野の希望が実現することを期待しよう。

MUSICA、イタリア(Nicola Cattò)

作品を聴くと、ストラヴィンスキー、ペンデレツキなどの影響が感じられ、ライトモチーフの技法が多用されており、魔の矢の主題には12音技法が使われている。驚いたのは、(少なくとも私にとっては)日本語の響きが歌にとってまったく悪くなかったことだ。視覚面は、ピーター・ブルックとの仕事が長かったヨーロッパでの長年の経歴を持つ85歳の笈田ヨシが演出を担い、リチャード・ハドソンが装置ということで、ここでも日本と西洋の劇場の技術とスタイルが融合しているのは明白だ。各幕1時間の全二幕だが、その時間は早く過ぎ、感情が揺さぶられる。西村の音楽で特に打たれるのは、様式の幅広いスペクトルと、反演劇的、というよりは非演劇的、と定義したいドラマツルギーの創造、別の言い方をすれば、あらゆる効果から逃れ純化された、聴き手のどのような期待をもかわすドラマツルギーの創造である。

OPÉRA MAGAZINE、フランス(Jean-Marc Proust)

西村朗は聴衆を魅了する音楽を織り成した。序幕はマーラーさながらの新ロマン主義的手法で強い印象を与える。そこへ、忘れな草の、つまり宗頼の主旋律が流れるが、この旋律は幾度も登場する。作曲家は、オペラに典型的な二重唱、二組の二重唱から四重唱へと立ち戻った。彼はここで、息詰まるような交わりのシーンを敢えて盛り込む。ふんだんに装飾が施された宗頼と千草の喘ぎ声で、疑いようもなく、ふたりの悦びの成就を表現した。

西村の音楽は、大部分で音階の規則を遵守し、驚くほど多彩な音階で展開する。音色では、繊細にパーカッションが使用され、諸旋律は連続し、アカペラでのレチタティーヴォがあり、感情表現はヴォカリーズに頼る。霊感を帯びた指揮を執る大野和士のもと、東京都交響楽団が成功に報いた。

音乐周报、中国(Rudolph Tang)

観客を最も感嘆させるのは、音楽と演出、聴覚と視覚、物語と表現の高度な融合にある。石川淳の原作は難解かつ隠喩的であり、壊滅を終結とし、「さくら」のような優雅で短命な人間性の深みを謳う。これを主軸として、西村朗の音楽は陰鬱で俗離れしており、巧妙に構成された独唱と二重唱によって人物の心理描写を正確に表現している。
(中略)

もし芸術論の芸術、強大な文学的遺伝子、そして深い音楽の構想が、どれも『紫苑物語』を「アジアオペラ」の模範と言うに足る作品とならしめたのであれば、その偉業に感服してやまない。

Opernwelt、ドイツ(Albrecht Thiemann)

現代における現実的なテーマと関係性に気づくためだけに、この殺戮に没頭し、安息の境地に逃げようとするミステリアスな主人公を三島由紀夫の奇妙な生き方と結びつける必要はない。色彩豊かな、直接掴めそうなこの作品のスコアの他に忘れてはならないのが東京で生まれ、カールスルーエ、ブリュッセル、リヨンで首席指揮者をし、2018年から新国立劇場の芸術監督に就任した大野和士の猛烈なまでの貢献だろう。そしてピーター・ブルックの境界のない世界劇場の伝説の役者であり、能や歌舞伎にも造詣が深く、三島と同じ時代を生き、親交のあった笈田ヨシが演出家として示唆的な絵面を舞台に持ち込んだ。 

初演は日本語で行われ(台本:佐々木幹郎)日本の素晴らしいソリスト(主役の髙田智宏はキール歌劇場専属歌手)、素晴らしい声を持つ新国立劇場合唱団と生き生きと演奏する東京都交響楽団が集結した。大野が2年に一度予定している日本の作曲家の新しいオペラの上演、という企画の期待するに足る良いスタートを切った。
(中略)

この力強い作品はヨーロッパでも「機能する」ことに疑いはない。そしてまたぜひ再会したい作品である。

der neue Merker、オーストリア(Robert Markow)

受賞歴のある詩人の佐々木幹郎は、自己の存在意義の追求、悪の問題といった原作の主要な哲学的なテーマを損なうことなく、台本を創り上げることに成功し、『紫苑物語』を小説から舞台作品へと変貌させていた。物語は、アリア、二重唱、三重唱、四重唱、合唱の大曲、管弦楽による間奏曲の可能性に満ちており、そのすべてがオペラで実現されていた。
(中略)

西村朗のスコアは、弦楽器のみのベルク風の前奏曲で始まる。その後は、場面ごとに異なる楽器の響きで進み、西村の他の作品に見られる多くの技法が駆使される。ドローン、クラスター、波状効果、ゆっくりと重なり合う旋律、微分音など・・・。それらすべてが、劇的な表現の塊へと融合していた。スコアには、無重力のような繊細なパッセージ、大音響の場面、その他あらゆることが交互に盛り込まれている。









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