『ジャンニ・スキッキ』タイトルロール カルロス・アルバレス インタビュー


花の都フィレンツェを舞台にした2作のオペラを同時上演する4月。

ブオーゾの遺産をめぐる騒動を描くプッチーニ『ジャンニ・スキッキ』でタイトルロールを歌うのはスペインを代表する名歌手カルロス・アルバレスだ。

舞台デビュー30周年を新国立劇場で迎えるというアルバレスは、新国立劇場でジャンニ・スキッキ役のデビューを果たす。当代随一のバリトン歌手のひとりアルバレスの挑戦と祝賀の『ジャンニ・スキッキ』は必聴だ。

「ジ・アトレ」11月号より


ロールデビューとなる新国立劇場の公演
新たなアルバレスを聴く

カルロス・アルバレス

――2019年4月に『ジャンニ・スキッキ』にご出演するアルバレスさん。2005年の「マクベス」のタイトルロール以来の新国立劇場登場となります。

アルバレス(以下A) 2005年、もう大昔のことですね。(笑)でも、新国立劇場では、聴衆、そしてスタッフの皆さんに大変よくしていただいたことをよく覚えています。本当にいい思い出ばかりで、出演するのが今から楽しみでなりません。あと、運よく桜の花にも会えるなら、写真を撮って子供たちに送ってあげたいですね。

――前回は悲劇でしたが、今度は喜劇です。

A 『ジャンニ・スキッキ』はもともと三部作の最後の作品として作曲されました。同じ劇場で連続して上演される三つの1幕オペラのひとつです。プッチーニはもともと一か所で異なるテーマのオペラを続けて上演することを考えていたのですが、いかんせん長すぎると聴衆に文句を言われるのが目に見えていたので、このような一幕の形に到達したのです。悲劇の『外套』、ある種悲劇でありメロドラマの『修道女アンジェリカ』、そして最後の喜劇『ジャンニ・スキッキ』。その中でオペラ・ブッファ『ジャンニ・スキッキ』はダンテの神曲から題材をとった作品であり、プッチーニが聴衆、音楽評論家、そして劇場支配人といった人たちに、喜劇も書けることを示すべく作曲されました。

それだけに、このオペラは傑作であり、全ての旋律に見事な感情表現がなされ、一度聴いたら忘れられないような音楽にあふれています。有名なラウレッタのアリア「私のお父さん」だけでなく、2分にも満たないような珠玉のアリエッタがいくつも散りばめられた素晴らしい作品です。

――そして、今回の公演でジャンニ・スキッキ役にデビューなさるそうですね。ジャンニ・スキッキは、臨終の床にある富豪ブオーゾのふりをしなくてはなりません。長丁場であるだけに大変でしょうね?

A 簡単ではありませんね。危篤状態のブオーゾを歌うにはファルセットを用いる必要があります。今回はこの役のオファーを受けたとき、そのように自分の本来の声を隠しても、きちんとオペラ歌手のレベルで歌えるかをチェックしたくらいです。バリトンこそがファルセットを効果的に歌いやすい声域であり、簡単とは言いませんが、他の音域の歌手に比べたら出しやすいといえます。ただ、1人2役ではなく、1人の人物が他人のふりをする、という設定も忘れてはいけません。

それから、この作品は『リゴレット』同様、テノールの干渉を受けることなく(笑)バリトンが歌うことのできる数少ない作品です。バリトンとしてはとても自由に演技、歌唱することが許されるのです。まさにバリトンにとってはやりがいのある役柄なので、歌うチャンスをいただきとても嬉しいです。



新国立劇場で舞台活動30周年を迎えます

『ジャンニ・スキッキ』リハーサル風景

――では、スキッキとはどのような人物だとお考えですか?

A 彼は決して悪者ではありません。家族、娘を愛する市民であり、このオペラで起きる事件は、彼にとっては天からのプレゼントともいえるものだったのです。

さらには、私ももう52歳ですから、まさにこの役柄と同じような年齢であり、これまでの人生経験を重ねて、決してやりにくい役柄ではありません。

――アルバレスさんは、ほぼ30年のキャリアですね。

A 私自身、歌手としてここまで長く、現役で歌い続けられるとは思っていませんでした。2008年の終わりに喉の異常を感じ、それから3年近くにわたって、入退院を繰り返し、治療を受けました。そして2011年に自分の声が完全に復活し、問題なく、自信を持って歌える状態に戻ることができたのです。つまり、今歌えていること、1回1回の舞台、全てがまさに神様からのプレゼントなのです。おかげで今では、正しいテクニックのもとに『ドン・ジョバンニ』から『トスカ』、ヴェルディからモーツァルトへと歌うことができるのです。自分でも驚いているくらいです。(笑)

それから私事なのですが、2019年の4月にステージに立って30周年目を迎えます。この偉大な作曲家が最後に完成させたオペラのタイトルロールを初めて歌い、新国立劇場の舞台の上で、記念すべき日を迎えるのです。スキッキではありませんが、天からの贈り物のような瞬間を迎えることとなるでしょう。

――そうなんですか。少し早いですが、おめでとうございます!

A ありがとうございます。実は、4月以降も新演出の新しい役柄が私を待っています。まだまだ今後も学びながら、キャリアを積んでいけることは幸せなことですし、1人でも多くの方に楽しんでいただけるなら本望です。

――こうした人生経験を土台に『ジャンニ・スキッキ』でどんな演技を見せてくださるか、ますます楽しみになってきました。

A どのような演出になるかまだうかがっていないので、具体的に舞台についてはお話しできませんが、歌唱だけでなく演技力も求められる役柄であり、それだけにやりがいはあります。役についてスコアから読み取れる面については、時には指揮者や演出家ととことん話し合うことも必要ですし、その上で納得のいく役、舞台を作ることこそが来て下さる皆様への責務だと思っています。プロだからこそなすべきことです。

だからこそ、このように新制作に取り組み、新しいものを生み出していくことは、すごくエキサイティングで、楽しいものでもあるのです。

――それにしても、ヴェルディは『ファルスタッフ』、そしてプッチーニは『ジャンニ・スキッキ』と言う喜劇を晩年に書きあげているのは面白いですね。

A ええ、これはプロとして極めた人間なら、何でもできることを証明しただけでなく、この年齢に達したからこそ、周りを気にせずに、罪悪感を持つことなく、本音を吐露することができるようになったことをも意味していると思いますね。私は日本に伺う前の1月にウィーン国立歌劇場で『ファルスタッフ』を歌いますが、ほぼ同時期にこの2つの作品が生まれたことに深い感慨を覚えます。そして、彼らのスコアに真摯に向き合うことの大切さをますます感じています。

――そのプッチーニが『ジャンニ・スキッキ』で言いたかったこととは?

A やはり、ジャンニ・スキッキの最後の言葉に集約されると思います。「もしこのお芝居にご賛同いただけるなら拍手を!」。粋なセリフではありませんか。

――最後に、新国立劇場であなたを待っているお客様へ一言お願いします。

A 劇場にいらして下さった皆様にご賛同いただけるようなジャンニ・スキッキを聴いていただきたいと思っています。ぜひ、劇場でその瞬間に立ち会ってください。そして、私の舞台人生30周年をともに祝っていただけたら、心から嬉しく思います。

大好きな日本、そして素晴らしい聴衆の皆様にまたお目にかかるのを心から楽しみにしています。そして新国立劇場のプロフェッショナルなスタッフと作品を作り上げることを今から楽しみにしています。



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