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オペラ「サロメ」タイトルロール カミッラ・ニールント インタビュー


娘サロメに妖しい踊りを求める王。それに応えるサロメが褒美に要求したものは、預言者ヨハナーンの首だった─

狂気の夜を濃厚な音楽で描くリヒャルト・シュトラウスのオペラ『サロメ』。
タイトルロールを歌うのは、カミッラ・ニールントだ。

2007年『ばらの騎士』元帥夫人で日本のオペラ・ファンを魅了したニールントが、彼女の当たり役サロメで待望の新国立劇場再登場を果たす。



<下記インタビューはジ・アトレ9月号掲載>

サロメを歌うときは、毎回、緊張感を持って
新しい旅に挑む気持ちです


  2007年「ばらの騎士」より

─2007年、新国立劇場での『ばらの騎士』初演の際に、ニールントさんは元帥夫人を歌ってくださいましたが、美しく気高い元帥夫人に客席のあちらこちらから感嘆のため息が漏れ聞こえていました。新国立劇場にどのような感想を持ちましたか。

N  新国立劇場で歌ったことはとても幸せな経験でした。『ばらの騎士』の元帥夫人を大きなプロダクションで歌うのは新国立劇場が初めてだったのですが、とても気持ちよく歌うことができたのです。演出のジョナサン・ミラー、指揮のペーター・シュナイダー、そしてあの時のチーム、最高の人たちとの素晴らしい経験でした。私にとってだけでなく、新国立劇場としても大成功の公演だったと思います。


─2回目の新国立劇場は、元帥夫人とはまったく異なる女性として登場していただくことになります。サロメという少女を、あなたはどのように捉えられていますか。


N
 サロメはティーンエイジャーで、いろいろなことを探っています。つまり、どこが限界なのかがまだ分からず、それを試しているのです。今日の若い人たちも同じだと思いますが、人は若い時は、どの方向に行くべきかも、何ができるかも分からず、とにかく試してみたくなるものです。サロメはとても好奇心が強く、抱いた感情を理性で抑えることができず、それで死へと到達することになるのです。


─サロメの歌のなかで、あなたが最も魅力的に感じるところはどこですか。

N 魅力的に感じるところはいろいろありますが、まずはヨハナーンとのシーンで、トランペットが鳴り響き、サロメが最高音を響き渡らせるところでしょうか。オペラの最後も私の最も好きな箇所のひとつですが、木管がテーマを演奏し、「私はおまえの口にキスをした、ヨハナーン」と歌う、ここの音楽が本当に素晴らしいです。その後、最後のクライマックスへ向かって上り詰めていきます。

─『サロメ』の音楽は大オーケストラの響きが強烈で、時には歌詞をかきけすほどです。シュトラウスはなぜ、過剰とも思えるほどの響きで、このオペラを満たそうとしたのでしょう。

N 『サロメ』を作曲したときシュトラウスはまだ若かったですから、彼の頭の中には、まず〝オーケストラの響き〞があったのだと思います。サロメは女の子の役なのに、イゾルデのようなドラマティックな声が要求されていますしね。私自身はどちらかというとリリックな声質なのですが、それでも、この役を歌うのが大好きです。指揮者ズービン・メータと『サロメ』をよく共演しましたが、彼は、私の声はサロメにぴったりだと言ってくれました。高音に軽やかさがあることもその理由だそうです。

─サロメの聴きどころのひとつは最後の長大なモノローグだと思います。音楽とともに頂点に達するサロメの極限的な状態を歌い演じるには、精神的な強さも必要かと思うのですが、どのようにアプローチされているのですか。

N サロメの最後のモノローグは全く大変ではありませんよ。むしろ、歌うたびにワクワクするような喜びのある挑戦です。確かにサロメ役は最初から最後まで舞台にほぼ出ずっぱりですが、この役は、ひとつの旅をするような感覚です。毎回、終点がどうなるか分からない新しい旅に、緊張感を持って挑む気持ちなんです。


今年で歌手生活20年
素晴らしい日々であり、あっという間でもありました

「サロメ」音楽稽古の模様

─数あるオペラのなかでも超難役であるサロメやワーグナーの諸役など、ハードな役をレパートリーとされていますが、コンディションを整えるために日々どのような工夫をされていますか。

N 動きやすい身体であるように、スポーツなどするように心がけてはいます。私たちの職業、オペラ歌手は世界中の街に行かねばなりませんし、とにかく健康でなければ務まりませんから、身体に常に留意して、精神的にも満たされた生活をすることが大切です。以前はフィットネスセンターによく通っていましたが、今はもう行っていません。今好きなことはノルディック・ウォーキングです。ご存じですか? 私はフィンランド出身ですので子供の頃からスキーをしていましたし、今でもスキーは大好きですが、年間を通してはできませんよね。現在はドレスデンに住んでいて、近くに山々があるので、ストックをついて山を歩くノルディック・ウォーキングをやっています。これは心臓を強くするのにも良いと思います。

─世界の歌劇場の第一線で活躍されているニールントさんですが、声楽家になったことであなたの人生にもたらしてくれたものは何でしょう。
 

N 私は2015年で舞台に立って20年になります。この20年間は素晴らしい日々でしたが、あっという間だったような気もします。私には家庭があり、子どもが2人いますので、自分の歌手生活だけでなく、子どもたちの環境などをいろいろ整えなければならなかったので、20年も短く感じるのでしょうね。前回日本にうかがったときは、子供を2人とも連れて行きました。下の子はまだ6か月の赤ちゃんだったんですよ。今は2人とも学校に行っているので、今回はたぶん私ひとりで日本に行くことになるでしょう。上の子はもう15歳になりました。私は今の生活にとても満足しています。

─今、声楽家を目指す人たちにアドバイスするなら、何を伝えたいですか。

N この質問はよく聞かれるのですが、まず自分の声をよく知ることですね。そして、声楽家になるにはしっかりしたテクニックが絶対に必要だということを申し上げたいです。それと、100パーセント信頼のおける良い声楽の先生、またはコーチが少なくとも1人はいることです。いろいろなことを吹き込んでくる人たちに左右されることなく、信頼できる声楽のコーチを持つことです。特に大きなオペラハウスで大きな役を歌うときには、十分な準備をしなければなりません。そのときに、良い声楽の先生、コーチの存在は欠かすことができないのです。

─最後に、あなたのサロメを待っている日本のオペラ・ファンにメッセージを。

N 日本のオペラ・ファンの皆さんとのことは、とても良い思い出になっています。『ばらの騎士』は2007年でしたね。もう随分前のことになってしまいました。これまで来日できなかったことがとても残念でしたので、来年の『サロメ』を今からとても楽しみにしています。新国立劇場の観客の皆様、そしてスタッフの皆様、3月にお会いしましょう!

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