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「カルメン」エスカミーリョ役 ガボール・ブレッツ インタビュー

ドン・ホセの恋敵の人気闘牛士エスカミーリョを演じるのはガボール・ブレッツ。

「自分の声に合っている」というエスカミーリョ役で、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、ミュンヘンの大歌劇場で大絶賛を博している、今まさに旬の"人気闘牛士"。

さらに、カルメン役のマクシモワとも「いい仲間」とのことで、カルメン×エスカミーリョの化学反応も楽しみ。

舞台を引き締め、より一層盛り上げる歌声と存在感に期待大だ。

<ジ・アトレ8月号より>


私の声にぴったりな役は
青ひげ公と、そして、エスカミーリョ


――ブレッツさんは今回の『カルメン』が新国立劇場初登場となりますが、これまでに日本にいらしたことはありますか?

ブレッツ( 以下B はい。初めて日本に行ったのは2005年、静岡国際オペラコンクールに出場するためでした。6名のファイナリストのひとりになりましたが、とても質のよいコンクールで美しい思い出です。そのあとプライベートの旅行で大阪・京都・広島を訪ねたことがあります。さらに2009年にミラノ・スカラ座の日本公演で『ドン・カルロ』に出演しました。修道士の役です。

――ハンガリー出身のブレッツさんですが、歌はロサンゼルスで勉強したそうですね。

B ハンガリー国内でも音楽の基礎は勉強しまして、高校時代には合唱団に所属して歌っていたのですが、高校卒業と同時に、英語を習得する目的でアメリカに渡ったのです。そこで学校の音楽のプログラムや、校外の合唱サークルで歌っていたら、ある日、ハンガリー出身のベテラン音楽教師がアドバイスをくださったんです。「合唱の一員とオペラのソリストとでは歌い方が違うので、それぞれに勉強が必要だ。君の声はソリストに向いているので、そのための勉強をしてはどうか」と。スティーブン・ツォヴェック先生とおっしゃいますが、ロサンゼルスで偶然巡り合って、そしてソリストとしての個人レッスンをしてくださることになりました。

――ハンガリーに帰国後もさらに勉強されたのですね。

B ハンガリーに戻ってからは合唱団に所属しながら、実はビジネスも勉強しました。これもある教師のアドバイスがあったのですが、芸術系の修了証書を持っていても家族を養うだけの仕事になかなか就けるものではないから、実務系の資格も取っておけ、と(笑)。ですので、歌よりもまずビジネス実務の修了証書をとったんですよ。

 その頃、ツォヴェック先生がハンガリーに帰国され、私のために別の優れた先生を紹介してくださいました。そうやってソリストとしての修練も続けたのです。2人目の先生にはその後17年間師事したのですよ。私はこのお2人からとても多くのことを教わりました。また、アメリカから帰国後、ベラ・バルトーク音楽院、フランツ・リスト音楽院に籍を置いて、博士号を取得しました。

――堅実に研鑽を積まれたのですね。そして2005年にマリア・カラス・グランプリを獲得されたことが、ターニングポイントになったのですね。

B はい。それに続き、2006年にウィーンでのベルヴェデーレ・コンクールでも賞をいただき、キャリアに弾みがつきました。

 本格的に舞台に立ち始めたのは2006年で、ちょうど音楽院での勉強も修了しました。前年の2005年はコンクールやオーディションで忙しかったですね。このときハンガリー国立歌劇場での仕事が始まりまして、重要な役で最初に演じたのは『マクベス』のバンクォーでしたが、公演回数はたった2回。若かった私はもっとたくさん経験を積みたくて、オファーを待っていても仕方がないので、積極的にコンクールに出たりしました。そして2006年のベルヴェデーレ・コンクールですが、当時ミラノ・スカラ座のキャスティング・ディレクターだったルーカ・タルジェッティ氏が審査員のひとりでして、彼の目に留まったおかげでミラノ・スカラ座で歌うチャンスを得たのです。ミラノでは2007年、2011年に6つの異なるプロダクションで歌いました。そのうちのひとつはバルトークの『青ひげ公の城』で、タイトルロールを歌いました。

――『青ひげ公の城』はブレッツさんの十八番のようですね。

B そうです。今日まで、私が最も数多く歌ってきている役が2つあるのですが、ひとつが青ひげ公、もうひとつがエスカミーリョです。この2役は、私の声のカラーに合っているんですよ。

――エスカミーリョ役は、昨シーズンにメトロポリタン歌劇場で歌われて大成功だったそうですね。

B ありがとうございます。昨年は英国ロイヤルオペラでも歌いまして、そのプロダクションで私は本物の馬に乗って舞台に登場したんですよ。そのほかミラノ・スカラ座では2011年に歌い、バイエルン州立歌劇場にもすでに2回招かれています。エスカミーリョ役は、かなり歌いこんでいます。

「闘牛士の歌」のタイミングを分かっていただけると
自ずとこちらも気分が乗ります

――エスカミーリョは、ただ単に声が良いだけではダメで、さまざまな要素が要求される役ですよね。最初の登場で歌う有名な「闘牛士の歌」は、特に印象的な声が必要なように思います。

B 「闘牛士の歌」もですが、第3幕のドン・ホセとの二重唱も非常に難しいのですよ。

 実は、私の基本の声域は平均的なバス・バリトンの声域よりやや低いのですが、幸運なことに、高音域でもよい響きを持っています。この特徴によって、エスカミーリョのような役が歌いこなせるのです。さらに、来シーズンは『トスカ』のスカルピア、『サロメ』のヨハナーンへのオファーが来ています。これらの役は、比較的高音域を出さねばならず、バス歌手にとっては難しい。ですが反対に、バリトン歌手には低すぎる音がある。エスカミーリョのアリアの低音域は、バリトン歌手にはかなりきついのですよ。そのような理由から、私にはバス・バリトンの役がぴったりなのです。

――エスカミーリョの歌について、歌手だからこそ分かる注目ポイントを教えてください。

B やはり最初の「闘牛士の歌」が一番難しい箇所です。というのは、オペラが始まってから約1時間楽屋で待機したのち、舞台に出ていきなりあの歌でバシッと決めなくてはならないからです。『ドン・ジョヴァンニ』の「シャンパンのアリア」もそうで、それまで緩やかだった神経を一気に張りつめ、スパークしなければならない。そういうタイミングで歌う歌なんです。そこを客席の皆さんにも分かっていただけると、自ずとこちらも気分が乗りますよ。ドン・ホセとの決闘の場面は、演出にもよりますが、むしろ自然に演じたいところです。音楽がまことにそれらしくできていますし、それに合わせて演技をすれば絵になるので。カルメンとの愛のデュエットは、単に声が合っているだけでは不十分で、2人の愛情関係をお客様が肌で感じ取れるような、そんな空気感を出せるようにしなければ。技術的には、レガート、レガティシモで歌いきることで、彼らの愛が描き出される場面です。

――今回のキャストですでに共演したことがある人はいますか?

B カルメン役のエレーナ・マクシモワさんとは、以前やはり『カルメン』で練習まではご一緒したんですよ。あいにく本番での共演にはならなかったのですが。ですので、よく知っていますし、いい仕事仲間です。

――おや、エスカミーリョとカルメンが仲良しとは!

B ドン・ホセにとっては困った状況でしょう(笑)。

――どんな三角関係に発展するのか、楽しみです(笑)。

B 私も東京にうかがうことを心から楽しみにしています。皆さん、1月に劇場でお会いしましょう!

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