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オペラ「ローエングリン」クラウス・フロリアン・フォークト インタビュー


2012年『ローエングリン』で圧倒的な歌唱を聴かせた、今世界で一番のローエングリン、クラウス・フロリアン・フォークトが新国立劇場で再び歌う!

清らかでいて力強い声、麗しい佇まいは、まさに"白鳥の騎士"。

世界中のオペラ・ファンが焦がれるローエングリンが、「ジ・アトレ」のためにインタビューに応えてくれた。



<下記インタビューはジ・アトレ12月号掲載>

「ローエングリンは裏表のない英雄」
演出家と私は同じ解釈だったのですんなりと役に入れました


  2012年「ローエングリン」より

――ベルリン州立歌劇場『ニュルンベルクのマイスタージンガー』に出演中(注:インタビュー時)のお忙しいところ、時間を割いていただきありがとうございます。この『マイスタージンガー』は、マイスター役で出演されている人たちが往年の名ワーグナー歌いという、本当の〝マイスターたち〞であることが話題ですね。そんな人々の前で歌ってヴァルターとして〝テスト〞されるのはどんな気分ですか?

フォークト以下V 最初のリハーサルは、さすがの私も緊張しましたよ(笑)。でも皆さん本当に親切な方ばかりで、あっという間にその場の空気に溶け込むことができました。往年のワーグナー歌手の方々と同じ舞台に立つのは、非常に刺激的なことです。貴重な機会を与えられたことに感謝しています。

――フォークトさんは、新国立劇場には、2005年『ホフマン物語』、2012年『ローエングリン』新制作公演と、これまで二度登場いただきました。新国立劇場の印象はいかがでしたか? そして再び2016年の『ローエングリン』のオファーを受けたときのお気持ちは?

V 素晴らしい劇場です。スタッフがプロ中のプロで、仕事が完璧。そのうえ終始和やかな雰囲気なので、とても歌いやすくて良い思い出しかありません。本番中に地震が発生するという、日本ならではの経験もしました。舞台で足元がぐらついたときはやはり驚きましたが、なんとか冷静を保って歌い続けることができました。2016年もう一度ローエングリン役をご依頼いただいたときは、それはもう嬉しかったですよ。

――2012年の『ローエングリン』公演はいかがでしたか? マティアス・フォン・シュテークマン演出、ロザリエの美術・衣裳による新国立劇場のプロダクションの魅力はどこでしょう?

V シュテークマン氏の演出もキャスティングも作品にぴったり合っていて、完成度の高い舞台でした。合唱もオーケストラも絶好調でした。ロザリエの美術はどこか無機質なのですが、とても美しくて、観ていてストーリー展開が視覚的にしっかり追えるところがいい。忘れられがちですが、これは大切なことです。

――2012年のリハーサルでは、作品の解釈や演出についてシュテークマン氏といろいろお話なさったと思いますが、彼とのやりとりで印象に残っていることはありますか?

V 「ローエングリンは裏表のない英雄」という彼の解釈を聞いて、私も同じ見解だったので、最初からすんなりと役に入れた記憶があります。彼の演出は初めてでしたが、歌手の扱いを熟知している演出家で、とても歌いやすかったです。「人と違うこと、奇想天外なことがしたい」という想いが強すぎて独りよがりな演出をする演出家が増えていますが、彼は違う。あくまでも作品に仕えるストーリー・テラー(語り部)の役割に徹しています。

現在では希少な演出家です。

――あなたにとって「白鳥の騎士」とはどんな人物でしょうか。

V 曲がったことが嫌いな正直な男で、醜い人間の世界で生きるにはあまりにも正義感と優しさに溢れすぎている。純粋だから周囲の人間に拒絶され、驚くのです。「正しいことをしているのに何故なんだ?」と。人間的な温かい心の持ち主ですが、俗欲とは無縁で、明らかにほかの登場人物とは異なる世界から来ています。そして結局、最後まで世俗的な世界に馴染めない異人のまま自分の国に帰っていくのです。

ローエングリンは
無常の感動と悦びを与えてくれる役です

「ローエングリン」オーケストラ歌合わせの模様

――ワーグナーのほかの作品にはない、『ローエングリン』だけが持つ音楽的特徴は何でしょう。

V ローエングリンは作品の最後にあの有名な「名乗りの歌」を延々と歌わなくてはいけないという難しさがあります。最大の見せ場ですからね、息切れするわけにはいきません。それから、ワーグナー作品でも特に表現の幅、強弱の幅が要求される役です。ささやくような甘い声から怒号のような力強い声まで、さまざまな声を使い分けなければいけません。非常に難しい役です。ただ歌い切ったときの達成感は、もう最高! 無常の感動と悦びを与えてくれる役です。

――フォークトさんは以前ホルン奏者であったことはよく知られていますが、ホルン奏者としてどのようなワーグナー作品を演奏されましたか?

V ワーグナー作品はハンブルク歌劇場で一通り演奏しています。『指環』も、ハンブルク(ゲルト・アルブレヒト指揮)とハノーファー(クリストフ・フリック指揮)の新演出をホルン奏者として経験しました。『マイスタージンガー』も『さまよえるオランダ人』も何度も演奏しています。ワーグナーの作品はホルン奏者にとって「聞かせどころ」が多いので大好きでした。でも『ローエングリン』は2回程しか経験がないので、どんな舞台だったか全く記憶がありません(苦笑)。また、ハンブルクの『指環』ではワーグナー・チューバも吹きました。


――ワーグナーは、ワーグナー・チューバという新しい金管楽器まで考案してオーケストラの響きを探求しましたが、その探求は声に対してもありますか。

V ワーグナーは、音楽と言葉に密接な関連性をもたせることで声の新しい可能性を模索した作曲家だといえるでしょう。彼の作品では、歌詞の意味とドイツ語のアクセントや抑揚を意識した、「語るように歌う」発声が求められます。

――数年先までびっしりスケジュールが詰まった日々を過ごしていると思います。ワーグナーのような重量級の役を主にレパートリーとするフォークトさんは、ひとつの舞台だけでもとても消耗すると思うのですが、体調や喉をどのように維持されているのでしょうか。

V ひとつの舞台が終わったら、運動したり趣味に没頭したりすることで心身ともにリセットするように心掛けています。『マイスタージンガー』を最後まで歌い切るには、普段からある程度身体を鍛えておかないと息切れしてしまいます。プッチーニのオペラを2つ続けて歌うような疲労度ですからね。

――今後、音楽家としてチャンレンジしたいこと、また人生をより謳歌するためにやってみたいことはありますか?


V できるだけ長く現役で歌い続けたいです。そしていつかタンホイザーとトリスタンに挑戦してみたい。音楽以外では、やりたいことがたくさんありすぎて大変(笑)。飛行機の操縦が趣味なので、自分の操縦でヨーロッパから北米まで飛んでみたいし、ヨットで世界一周というのもやってみたい!

――最後に日本のオペラ・ファンにメッセージを。

V 大好きな日本の皆さんとの再会を、今から楽しみにしています!


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