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オペラ「ばらの騎士」アンネ・シュヴァーネヴィルムス インタビュー

『ばらの騎士』の作品の美しさ、それは元帥夫人の美しさに由来する。
愛に身を任せながら、過ぎゆく時間のはかなさ、静かな諦念を内に秘め、
気品をたたえる元帥夫人を歌うのは、アンネ・シュヴァーネヴィルムス。
R.シュトラウスやワーグナーの作品を得意とし、
ザクセン州立歌劇場日本公演でも『ばらの騎士』元帥夫人を歌った
世界的な名ソプラノの新国立劇場初登場は、今シーズンの話題のひとつである。



<下記インタビューはジ・アトレ12月号掲載>

  

この役を歌い演じるとき
自分の中に「元帥夫人」を見出すことが大切です

シュヴァーネヴィルムス Ms Anne Schwanewilms (c) Javier del Real 写真 20141025.jpg
     アンネ・シュヴァーネヴィルムス

――2015年5月、シュヴァーネヴィルムスさんが初めて新国立劇場で歌ってくださることを心から嬉しく思っています。しかも『ばらの騎士』の元帥夫人です。R・シュトラウスの作品はシュヴァーネヴィルムスさんのレパートリーのなかで重要な位置を占めていると思いますが、その中でも元帥夫人はどのような役でしょう。

シュヴァーネヴィルムス(以下S) 私にとって、R・シュトラウスのオペラの中でも元帥夫人は、自分の人生と重ね合わせられる数少ない役のひとつと言えます。若いときから、そして歳を重ねてからも、そのときの自分の人生での見方と感受性でいろいろな取り組み方ができる役で、自分の中で発展させていくことができるのです。つまり、元帥夫人の役は非常に奥深く、さまざまな性格づけが可能です。この役は、演じる私と共に、私の中で成長してきたとも言えます。

――たとえば元帥夫人のモノローグは、歌だけでなく、たたずまいそのものからも私たちは大きな感銘を受けます。元帥夫人を演じる際、歌手が最も気をつけるべきことは何でしょう。

S 私個人の意見ですが、自分自身の中に「元帥夫人」を見出すことが大切だと思います。単に外見上だけで役を演じるのではなく、自分の中にある元帥夫人を演じることです。この役のとき、私は自分のことに照らし合わせて演じていますが、そうすれば自然と「元帥夫人がどう感じ、どの方向に行くのか」がよく分かります。特にモノローグは、他の歌手がいない、私一人の舞台ですから、この役に自分を置き換えて、演じ歌うことができます。

――これまでに世界中の名だたる歌劇場や音楽祭で数多く元帥夫人を歌っていらっしゃいますが、最も思い出深いプロダクションはありますか。

S どの演出もそれぞれ魅力がありますから、ひとつを取り上げることはできませんし、すべきではないと思いますが、例えば、ヴェルニッケの演出では鏡を使った舞台で、客席と一体となるような興味深い演出でした。ザクセン州立歌劇場日本公演の『ばらの騎士』はDVDにもなっていますが、あの演出(ラウフェンベルク演出)も元帥夫人はとても自然でよかったです。あの時のモノローグでは、私は自分の過去を静かに振り返り、それに音楽が自然についてくるという感じでした。元帥夫人のモノローグはとても感動的ですが、どの演出家もこの場面には力を注いでいると思います。ミューズ(音楽の女神)が助けてくれるのでしょうね。

――シュヴァーネヴィルムスさんにとってワーグナーの作品も重要なレパートリーですが、R・シュトラウスとワーグナーの作品では、ソプラノに求められる資質は異なりますか?

S ワーグナーの役とR・シュトラウスの役とは、その内容がとても似ていると思います。まず、どちらもフレージングがとても長いです。そして『ローエングリン』のエルザや『タンホイザー』のエリーザベトはとてもリリックですし、R・シュトラウスの女声の役もそうです。R・シュトラウスの役はそれに加え、深い内向的性格の声が求められるので、私の声によく合っていると思っています。私は自分の声に合う役を歌うようにしていますので、ワーグナーとR・シュトラウスを歌うときには違いを感じることはありませんね。その他の作曲家、たとえばシュレーカーなどの曲でも、自分の声に合った役を歌うようにしています。


舞台を心から感動してくださる
日本の皆様は世界一の観客です!

――子どもの頃の話をお聞かせください。音楽に目覚めたのはいつ頃ですか? クラシック・ギターを勉強したことがあるそうですね。

S 私の家族は皆とても音楽が好きで、カトリックの信仰の篤い家庭でした。地区の教会で聖歌隊のリーダーをしていた父は結婚式やお葬式など教会の行事でいつも歌っていましたし、家でも皆でフォルクローレなどをよく歌いました。家はそれほど裕福ではなかったのですが、楽器を習いたかった私に、祖母がギターをプレゼントしてくれたのです。ギターはたぶんそんなに高価ではなかったのでしょうね。そして私はギターのレッスン料を稼ぐために、新聞配達をしました。まだ15歳くらいでしたが、その頃からとにかく音楽が大好きでした。音楽は私に喜びを与えてくれ、心を落ち着かせてくれたのです。まだその頃はオペラ歌手がどういう人か全く知らなかったですけれど。
 転機はある日突然やってきました。急病の父の代わりに私が結婚式で急遽歌ったのですが、歌を聴いた結婚式の出席者のひとりが私に住所を手渡し「ここで歌のレッスンを受けるように」と勧めてくれました。好奇心もあって私はその住所を訪ねると、その人は私の声を聴くやいなや「プロの歌手になるべきだ」と知り合いの先生を紹介してくれたのです。これが歌手の道に進むきっかけです。もう随分前のことで、自分が何歳だったか覚えていないですが、このようにして「蒔かれた種が実を結んだ」と言えるでしょう。

――歌手活動を始めた頃はメゾ・ソプラノだったそうですね。ソプラノに転向したきっかけは? 

S  私はアルトだったのですよ。その後メゾ・ソプラノとなり、1995、96年頃からソプラノになっていきました。このように声域が変わっていくことは決して珍しくなくて、筋肉が成長していく過程でもあります。声帯には幅広い範囲があり、どこで歌うのが一番気持ちいいかを見極めるのは個人個人で違うのです。私は最初の頃は高音域を出すことは、あまり気持ち良いと感じられませんでしたので、その当時はまさか自分が今のようなリリックなソプラノになるとは思ってもみませんでした(笑)。しかし今はソプラノの音域が最も気持ちよく歌えるのです。

――超多忙のスケジュールだと思いますが、オフの時はどのように過ごしていますか? 

S 家にいて、庭でのんびりと過ごすのが一番好きです。花を育てるのも大好きなんですよ。

――あなたの元帥夫人を心待ちにしている日本のオペラ・ファンにメッセージを。

S 日本の皆様は世界一の観客です。それは、忠実なオペラ・ファンでいらっしゃるだけでなく、舞台を心から感動してくださるからです。歌手として、皆様の温かい気持ちがとても嬉しいですし、皆様から愛されていることを心から感じることができます。皆様に再会できることを今から楽しみにしています!


 

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