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「ドン・カルロ」ロドリーゴ役 マルクス・ヴェルバ インタビュー


登場人物それぞれの思いが交錯するヴェルディ「ドン・カルロ」は、どの役も重要だが、今回はポーザ侯爵ロドリーゴに注目したい。

演じるのはマルクス・ヴェルバ。モーツァルトのオペラで高い評価を得ている彼は歌曲を歌うことを大切にしながら、オペラのレパートリーをじっくり広げており、昨年のザルツブルク音楽祭ではワーグナーの楽劇に初出演し、大成功を収めた。
ますます声に磨きをかけているヴェルバにとって、ロドリーゴを歌うことは喜びだという。その思いを聴いた。


<下記インタビューはジ・アトレ7月号掲載>

 

  

新国立劇場での「ドン・カルロ」は
私の今シーズンのハイライトです!

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――ヴェルバさんといえば、日本ではサントリーホールでのモーツァルトのオペラが印象深いですが、この秋は「ドン・カルロ」で新国立劇場に初登場してくださいますね。

ヴェルバ(以下W) 新国立劇場での「ドン・カルロ」は、私の今シーズンのハイライトです! これまで東京で歌ったオペラの会場はコンサートホールでしたが、今回はオペラパレスの舞台で、しかもロドリーゴを歌えるのですから、本当に楽しみです。私は東京の街も文化も大好きなので、日本に行くのが待ち遠しいです。

――歌手になろうと思ったきっかけを教えてください。歌曲の名伴奏者エリック・ヴェルバはあなたの大叔父だそうですね。

W ええ、私の祖父の兄弟なんですよ。私は15歳のときに、大叔父の前でシューベルトの歌曲を歌ったことがあります。私の両親が「息子は歌うことが好きだけれど、歌の道に進んでいいものか」と心配し、大叔父のところへ私を連れていったのです。私の歌を聴いた大叔父は「とてもよい素質があるし、音楽性もある」と言って、歌の道に進むよう勧めてくれました。ケルンテン州の音楽祭で彼を訪問したのですが、まもなくのち1992年に亡くなったので、残念ながら彼の指導を受けることはありませんでした。でも、歌の道を勧めてくれたことにとても感謝しています。

――そんなヴェルバさんにとって、やはり歌曲は大切なジャンルですか?

W はい、シューベルトをはじめとする歌曲が大好きです。つい最近もロンドンでシューベルトの「冬の旅」を歌いました。そのほかシューマン、ブラームス、ヴォルフといったドイツ歌曲を多く歌っていますが、フォーレ、ラヴェル、ドビュッシーなどフランス歌曲もとても気に入っています。現在、活動の割合はオペラの方が多いのですが、将来は歌曲の方を多くしていきたいと思っています。

――これまでで最も印象に残っている演奏会は?

W なんといっても昨年のザルツブルク音楽祭「ニュルンベルクのマイスタージンガー」です。私にとって初のワーグナーで、しかもベックメッサーという大役を歌い演じることができました。プロダクションもとても素晴らしく、おかげさまで大成功だったのです。私のこれまでの人生で最高の出来事でした。

――初めてワーグナーを歌った、ということは、声が強く重く成熟してきているということですか?

W 自分の声が重い音楽に向いているかどうか、少しずつ試している状態です。試すということは、まずよく勉強するということですが。ワーグナーを勉強して、初めて歌ってみて、とてもうまくいったことが嬉しいです。そして、東京で「ドン・カルロ」のロドリーゴを歌えることがとても幸せです。ロドリーゴの美しいカンティレーナ、フィリッポⅡ世との素晴らしい二重唱、そしてロドリーゴの死。今から歌うのが楽しみで仕方がありません!


ヴェルディが楽譜に記したたくさんのpを生かして
ロドリーゴをリリックに美しく歌いたい

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――「ドン・カルロ」の物語の軸のひとつがドン・カルロとロドリーゴとの友情ですね。ロドリーゴが主役のようにも感じるほど、重要な役回りだと思います。ヴェルバさんにとってロドリーゴとはどのような人物ですか?

W 確かにロドリーゴは重要で、素晴らしい役です。私が目標にしているバリトン歌手のひとり、エットレ・バスティアニーニのロドリーゴは最高です。彼の録音は何度も聴いています。
 ロドリーゴという人物は、真の友人は少ないけれども、ドン・カルロとの友情は深い。その深さは、音楽にあらわれています。友を守るために自分の命をもかけるというロドリーゴの友情は、今日の自己中心の世の中には本当に少ないと思います。

――ロドリーゴ役の音楽的な特徴は何でしょう。 

W 音楽的には、とてもリリックです。しかしフィリッポⅡ世との二重唱では感情を爆発させ、フィリッポが「血によって平和を得る」と言うと「それは墓場の平和」と激しく言い返すなど、多面性があります。全体的には、ロドリーゴはとても繊細で、感受性が強いことが、音楽からもわかります。
 技術面では、最初からフルに歌うのではなく、声を配分することが、この役を歌う難しさであり楽しさでもあります。ヴェルディはロドリーゴの音楽にpやppをたくさん書いているのですよ。ですから、ロドリーゴはそれほど重い声の役だとは思いません。今日のオペラハウスは大きいので、指揮者から大音量で歌うことを要求されることもあります。しかし、大きな声で歌うことを重視すると、それはヴェルディが書いた音楽とは異なってしまいます。私は、現代のオペラハウスでも、ヴェルディが楽譜に記したようにpやppを駆使して歌いたいと思っています。スコアも勉強しましたが、pが本当にたくさん書いてあるのですよ。ドラマティック・バリトンでなく、リリック・バリトンとして、ロドリーゴを美しく感動的に歌い上げたいのです。pで歌う方がロドリーゴという人物をよく表せると思います。

――モーツァルトで定評のあるヴェルバさんですが、今後はヴェルディを歌う機会が増えるのでしょうか?

W 現在の私のヴェルディのレパートリーはロドリーゴ(「ドン・カルロ」)とフォード(「ファルスタッフ」)の二役だけですが、時間をかけて役を広げていきたいと思っています。私は今40歳なのですが、実際より若く見られがちなんですよ。でも、ヴェルディのバリトンの役は年取った役が多いので、今はレパートリーが少ない、ということもあります。それから、先輩のバリトン歌手フランツ・グルントヘーバーさんに「ヴェルディとワーグナーは40歳になったら歌い始めなさい。それより前は歌わないほうがいい」と言われたことがあります。ですから私は今まさに彼のアドバイスに従っているわけです。いずれにしても、今後の私のレパートリーは、ヴェルディとワーグナーが重要になっていきます。
 もちろんこれからもモーツァルトは歌い続けます。モーツァルトをうまく歌えれば、自分の声が正しい証になりますから。歌手にとってモーツァルトは大切です。

――趣味はありますか? ヴェルバさんのホームページには料理をなさる映像がありますね。

W ええ、料理はとても好きですよ。あと、山登りが好きで、二週間前にも山に行ってきました。自然の中でゆっくりした時間を持つことは気分をリフレッシュさせてくれます。

――ヴェルバさんのロドリーゴを楽しみにしている読者へメッセージを。

W 私のヴェルディをぜひ多くの方に聴いていただきたいです。私と一緒にヴェルディを体験しましょう。音楽のない人生はただ生きているだけですが、音楽は私たちに生きる喜びを与えてくれます。そうです、音楽は喜びを与えてくれるのです!
 私はメトロポリタン歌劇場で「魔笛」を歌ったあと、その足で東京へ行きます。ニューヨークから東京へ、モーツァルトからヴェルディへと"旅"します。東京で皆様にお目にかかれるのを楽しみにしています。


 

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