高校生のためのオペラ鑑賞教室 つうの哀しみが胸深く染みる…国民的人気を誇る日本オペラの代表作 夕鶴

ABOUT “夕鶴” 作品解説

photo

民話に題材をとった木下順二の名作戯曲に、27歳の團伊玖磨が作曲した、日本オペラ史上最高傑作の一つ。国内にとどまらずヨーロッパなど海外でも上演されており、上演回数は1952年の初演以来800回を超え、世界的に愛され親しまれている作品です。日本の代表的な民話『つるの恩返し』を素材とした木下順二の戯曲『夕鶴』の付随音楽を團伊玖磨が作曲したことがきっかけとなってオペラ作品が誕生。オペラ化にあたり、「戯曲のセリフを一切変更してはならない」という厳しい条件がありましたが、團伊玖磨の音楽は日本語の美しいリズムを生かし、限りなく美しい旋律となって自然に聞くものの心に染みとおる名作となりました。

その魅力は計り知れず、日本の風土が育んだ豊かな感性が、作品中に叙情美として、また幻想的なムードとして現れ、一方では人間の良心と物欲のしがらみや相克が描かれています。〈つう〉のアリア〈私の大事な与ひょう〉、〈そのうち一枚だけは、大切にとっておいてね〉などに、〈つう〉の一途でひたむきな愛がきめ細やかに込められ、心に残る聴きどころとなっています。

新国立劇場の『夕鶴』は、日本屈指の舞台演出家・栗山民也による演出で、「限りなく美しく、透明な舞台美術にしたい」という演出家が創りだした舞台は、能舞台をイメージしたシンプルで大きな空間。これは、つうの本当の家である“空”を表し、演出のテーマとなっています。簡素で繊細な演出は登場人物のキャラクターと感情の交錯を浮かび上がらせ、美しくも哀しい物語を鮮やかに描きます。つうと子どもたちの無垢で温かい交流、失われてしまった信頼、残された大きな空。日本的美の粋が凝縮し、想像力を無限に刺激する舞台は、高校生の皆さんの胸にも深く染みわたることでしょう。