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新国立劇場シーズン公演初の
バロックを
どのように奏でるのか。

指揮者

リナルド・アレッサンドリーニ

Conductor

Rinaldo ALESSANDRINI

ローマの将軍ジュリオ・チェーザレ(ジュリアス・シーザー)とエジプトの女王クレオパトラをめぐる壮大な歴史ドラマをヘンデルの音楽で描く『ジュリオ・チェーザレ』。オペラパレスでついにバロック・オペラ初上演となる今シーズンの注目公演を指揮するのは、リナルド・アレッサンドリーニだ。指揮者、チェンバロ奏者、オルガン奏者であり、音楽学者でもあるバロック音楽の第一人者アレッサンドリーニが率いるのは、東京フィルハーモニー交響楽団。モダン・オーケストラからバロックの響きをどのように導き出すのか、話をうかがった。

<ジ・アトレ11月号より>
文◎井内美香(音楽ライター)

私たちの音楽世界を
豊かにしてくれる
それがバロック音楽です

『ジュリオ・チェーザレ』は、オペラパレスでの初めてのバロック・オペラ上演となります。バロック・オペラの上演はヨーロッパでは非常に盛んですね。その魅力はどこにあるか教えてください。

アレッサンドリーニ:ヨーロッパでバロック・オペラの上演が多いのは確かです。それはオペラに限った現象ではなく、17、18世紀の音楽全般の人気が高いのです。すでに40年ほど前からこの現象は始まり、コンサートやオペラのレパートリーとしてすっかり定着しています。バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディなどは一般的なクラシック音楽の世界でも有名ですが、彼らと比べて知名度の低い作曲家たちの紹介も進んできました。モンテヴェルディ、カヴァッリ、リュリ、ラモーなど数多くの作曲家がいます。魅力的で素晴らしい作品が数多くあり、それらは私たちの音楽世界をより豊かなものにしてくれています。

ヘンデルは、バロック・オペラの中でも特に人気がある作曲家です。

アレッサンドリーニ:ヘンデルは当時、国際的なオペラ作曲家でした。彼は多国籍文化を身につけた芸術家であり、劇場のために音楽を書く才能があったのです。オペラのメカニズムを理解していたし、聴衆の好みを熟知していました。そのために彼は、オペラの商業的な必要と、作品の音楽的な意義を合致させることができたのです。ヘンデルは常に大きな注目を集める充実した作曲家であると同時に、音楽市場をよく知り、キャリアを築くすべを知っていました。

でも当時ヨーロッパのオペラ界を席巻していたのはイタリア人作曲家たちですよね?

アレッサンドリーニ:その通りです。当時の人々にとって知名度が高かったのは、ヨーロッパ各都市を旅行するイタリア人作曲家たちでした。ポルポラ、ボノンチーニ、そしてヴィヴァルディ。当時のほとんどのイタリア人作曲家はオペラの分野で活躍していたのです。彼らはヨーロッパ中で仕事をしており、ガルッピなどはロシアにも招かれています。一方、ヘンデルが高く評価されたのはロンドンでした。彼はドイツ人で、ハンブルクでキャリアをスタートさせましたが、イタリアに何年か滞在した後ロンドンに移住しました。その後は英国に永住し、大成功を収めたのです。

『ジュリオ・チェーザレ』はヘンデルのオペラの中でも一番よく知られている作品です。ジュリアス・シーザーとクレオパトラという、歴史上あまりにも有名な人たちが主人公だからでしょうか?

アレッサンドリーニ:『ジュリオ・チェーザレ』が人気があるのは、ヘンデルのオペラの中で最も早く再発見されたオペラだから、ということがあります。1950年代からすでに上演されていましたし、今日に至るまで人気のオペラであり続けています。カバリエ、サザーランドなどの数多くのスター歌手たちも歌ってきました。声楽的にとても難易度の高いアリアがあり、スペクタクルな見せ場も多いのです。音楽に特徴があり、素晴らしいものであることも大きな理由です。

バロック・オペラの演奏といえばピリオド楽器を使用することも多いですが、今回は東京フィルハーモニー交響楽団がピットに入ります。

アレッサンドリーニ:はい、今回はモダン楽器を使ったオーケストラによる演奏になります。大劇場の場合は劇場のオーケストラが演奏することが多いです。私がこれまで『ジュリオ・チェーザレ』を指揮したボローニャ歌劇場、マドリッド王立歌劇場などでも同じスタイルでした。それに加えて、通奏低音のグループがバロック時代の楽器を演奏します。

モダン・オーケストラにバロックの様式を伝える時に大事なことはなんですか?

アレッサンドリーニ:伝えるべき情報はたくさんあります。弓の使い方、バロック時代ならではのフレージングや装飾音について。フレージングの捉え方自体もバロック時代とロマン派以降は違います。でも一般的には常に、様式的な問題よりも、音楽的な内容を重要視するようにしています。それにオーケストラはプロの集団であり、歌劇場での仕事は様式を学ぶための学校ではありません。オーケストラには必要なことを素早く伝えることが重要です。

作曲家の書法を読み解き
彼らの考えを尊重したい

マエストロは指揮者、チェンバロ奏者、オルガン奏者、若いアーティストの教育など多面的な活動をなさっています。ご自身の古楽アンサンブル、コンチェルト・イタリアーノとの長年の録音活動では、数多くの輝かしい賞を受賞されてきました。その音楽への情熱はどのようにして生まれ、それをどう持続しているのですか?

アレッサンドリーニ:約40年もこの仕事をしているので、音楽への情熱がどのように私の中で生まれたかはもう忘れてしまいました。継続への力は、長年の仕事によって、バロック音楽のいくつかの根本的な道理を発見することができたことです。17世紀と18世紀の特徴の違い、イタリア、フランス、ドイツのバロック音楽の違い……。40年も音楽を追求して、実力も蓄え、これまでに得た知識、情報などを総括する時期に入っていると思います。

音楽学者としても探求を続けていらっしゃいます。

アレッサンドリーニ:この種の音楽は、いくつかの重要な特徴について通じていなくてはなりません。我々音楽家にとって音楽学の知識を持つことは義務のようなものなのです。17世紀、18世紀にその音楽がどのように演奏されていたかをできるだけ正確に知らねばなりません。特に私がとても興味があるのは、作曲家それぞれの書法を読み解くことです。どのような理由でその手段を選んだのか、作曲家の考えをできる限り尊重したいと思っています。

マエストロはバロック音楽の様式について第一人者であるだけでなく、その演奏は音楽表現が卓越していると高い評価を得ています。ちなみにインタビュー記事などによると素晴らしい料理人でもあるそうですが、音楽と料理、どちらも創造のためのファンタジーが必要ではないでしょうか?

アレッサンドリーニ:確かに私は料理が得意です(笑)。この二つの活動には実際、共通点が多いと思います。いくつもの要素をひとつにまとめて化学反応を起こす。それに他の人のために何かを作る喜びもあります。料理を食べてもらう、音楽を聴いてもらう。どちらも大切なコミュニケーションの方法です。

最後に、日本の聴衆へのメッセージをお願いします。

アレッサンドリーニ:『ジュリオ・チェーザレ』を観てください。バロック・オペラを聴いたことがない方にも素晴らしい経験になると思いますので、勇気を出して劇場に来てくださいね!