Interview インタビューInterview インタビュー

期待の新星シュカリザーダが語る
チェーザレ像

ジュリオ・チェーザレ

アイタージュ・シュカリザーダ

Giulio Cesare

Aytaj SHIKHALIZADA

オペラパレスでついにバロック・オペラ初上演となる注目の公演、『ジュリオ・チェーザレ』。タイトルロールを歌うのは、アゼルバイジャン共和国バクー出身のメゾ・ソプラノ、アイタージュ・シュカリザーダ。バクーとウィーンで研鑽を積み、2018年にヴェルサイユ歌劇場『アルジェのイタリア女』イザベッラでヨーロッパ・デビュー、今シーズンからベルリン州立歌劇場のオペラ・スタジオのメンバーとなり着実に評価を高めている、26歳の新星だ。シュカリザーダにとってバロック・オペラは、ウィーンで研鑽に励んだ特別なレパートリー。初めての日本で、ジュリオ・チェーザレを初めて歌う、現在の心境をうかがった。

<ジ・アトレ10月号より>

バクーとウィーン、その両方で学んだことで今の私がいます

アゼルバイジャンの首都バクー出身で、その後ウィーンでも研鑽を積まれたシュカリザーダさん。この夏はブレゲンツ音楽祭『エウゲニ・オネーギン』にオリガ役でご出演ですね。

シュカリザーダ: はい。いま稽古の最終段階です(※取材時)。ブレゲンツの周囲の自然が素晴らしく、また、仕事のチームワークのよいので、初日が待ち遠しいです。オリガ役は大好きです。単純な人物にも見えますが、とても心がオープンで子どものように天真爛漫で、常に明るさを生み出す人。オリガ役を私はそのように解釈します。

演じる役は演劇的に解釈されるのですね。シュカリザーダさんがこれまで演じた役を拝見すると、まだ若いにもかかわらず、人物を掘り下げる洞察力があることが分かります。

シュカリザーダ: そのように見ていただけて光栄です。そのかなりの部分はバクー音楽院での受けた教育によって鍛えられました。バクーでは、音楽の勉強だけに留まらず、舞台上でドラマを表現する俳優としての勉強を並行して行うカリキュラムになっています。歌を歌うだけなら「歌手」ですが、舞台に上がるということは「俳優」だ、というふうに教えられます。

アゼルバイジャンのように旧ソ連の国々に共通するのが、舞台人の演劇的な技量の高さです。おそらく学校教育に基礎があるのだろうと思っていました。

シュカリザーダ: はい。旧ソ連の国はそれぞれ固有の文化を持っているので、舞台人を志す私たちは、自分の出身国の作品だけではなく隣国・他国の文学や音楽も広範囲に学ばなければいけない、そういう環境でした。物語のドラマ性や人物のパーソナリティを俯瞰し、つかむ、という技量は、そのような環境でおのずと培われるのです。
 私の場合はバクーのあと、ウィーンでも学ぶ機会を得ました。ウィーンは西ヨーロッパ的な環境で、教え方もバクーとは違う点があります。その両方で研鑽を積んだことで、今の私があります。旧ソ連と西側は、やはり違った文化価値を持っています。

バクーで勉強を始めたのは何歳のときですか?

シュカリザーダ: 6歳のときです。音楽専門の学校に入りました。ですが、普通の小学校の教育も必須でしたので、私は2つの学校に通ったんです。母が音楽教師をしていたこともあり、彼女からも手ほどきを受けました。8歳のときはピアノを志していたので、声楽はピアノの次に考えていました。ですがだんだんと興味が増して、13歳頃に歌をメインに考えるようになりました。そして高等の音楽院に進む頃には、歌手になろうと決めていたのです。

その頃、憧れていた歌手は誰ですか?

シュカリザーダ: チェチーリア・バルトリさんです。歌のクオリティが高く、憧れの対象でした。それから、ディミトリー・ホストフスキーさん。ロシアのメゾ・ソプラノでは、エレーナ・オブラスツォワさんもお手本でした。彼らのようなスター歌手になりたいという思い、それは大きな励みになります。同時に、人間的にも優れた人物でありたい。それが私の最大の憧れであり、目標です。

日本に来たことは?

シュカリザーダ: まだありません。日本映画などを見てとても興味を持っていました。日本という遠い国で歌ってみたい、という思いは以前からあったので、新国立劇場からお話をいただいたときは、願いが叶うときがついに来た!と思いました。しかもジュリオ・チェーザレ役で。本当に楽しみです。

私の描くチェーザレ像を完璧な形でお見せしたい

ジュリオ・チェーザレ役は過去に歌っていますか?

シュカリザーダ: いいえ。初めて歌います。ウィーンではとても力を入れてバロック音楽を探求しました。専門の先生と二人三脚で、「どうすればバロックのレパートリーを、その本体のやり方で正しく表現できるだろうか?」という命題に心血を注いだのです。その成果を皆さんに見ていただきます。バロック音楽には非常に豊かな表現の幅があり、作品にとって最も美しい方法を違わずに選ぶことは難しい判断でもあります。私自身が「これが好きだ」という歌い方も、先生方や、指揮者の方々と意見が食い違うことがあります。単純ではないのです。

チェチーリア・バルトリさんをお手本にしたとおっしゃいましたが、そもそもバロック音楽に魅力を感じていたことが、彼女を尊敬する理由でもあるのですか?

シュカリザーダ: それもありますが、もっと本質的に、勉強の流れでそうなったのです。狭いレパートリーに偏るつもりはありません。まずベッリーニやロッシーニなど、自身の声に無理のかからない曲に魅力を感じ、流れでバロック音楽に目覚めたのはウィーンという環境に身を置いたことが大きいです。ウィーンは、モーツァルトやヘンデルを探求するには恰好の環境です。その歌い方の鍛錬を積んだことにより、よりバロック音楽に興味が向いていったのです。バルトリさんの歌い方にも、もちろん多くを参考にしましたけれどね。

ジュリアス・シーザーは、史実では、クレオパトラに出会った時には壮年期の男性でした。しかしヘンデルは彼を若者として描いています。シュカリザーダさんの演技的解釈は?

シュカリザーダ: 若すぎず、けれど年を取りすぎてもいず、というスタンスを取ります。年齢にして40歳ぐらいでしょうか。なぜかというと、そのような充実した年齢の男性ならば、クレオパトラとの緊張感ある関係を実現できるからです。彼女は非常に頭のいい女性でした。若すぎる青年では太刀打ちできません。しかし、老獪な壮年男性としてしまうと、オペラが成立しません。とにかく、クレオパトラとの関係性に焦点を絞ります。彼女は簡単には打ち倒せない、手ごわい相手なのです。さて、これからもう勉強です。皆さんに、私の描くジュリオ・チェーザレ像を完璧な形で舞台でお見せしたいのです。

指揮者のリナルド・アレッサンドリーニ、演出家のロラン・ペリーと一緒に仕事をしたことはありますか?

シュカリザーダ: いいえ、初めてです。お二人とも著名な方ですので、私にはまたとない大事な経験になると思います。加えてとてもレベルの高いチームとご一緒できる機会を与えていただいたことにも、とても感謝しています。

私たちも『ジュリオ・チェーザレ』というオペラを観る貴重な機会に期待しています。プレッシャーを感じますか?

シュカリザーダ: 私の初めてのジュリオ・チェーザレ役を皆さんにお見せできることは、この上ない喜びです。その場所が日本ということで、さらにスペシャルなエネルギーが漲ってきます。このエネルギーが、私の魂にこれまでになかった彩を加えてくれるだろうことが、もう分るんです。未知の場所に行くことが大好きです。日本はきっと、私の心の一部になることでしょう。4月には劇場でお目にかかりましょう。