オペラ芸術監督 大野和士


新国立劇場を支えて下さる皆様へ。

本日は、新国立劇場開場25周年を迎える2022/2023シーズンについて、大きな喜びを持って皆様にお伝え致したいと思います。来シーズンには、2年前に公演中止とせざるを得なかったプロダクションや出演者に帰って来てもらえるよう尽力しましたので、皆様にもぜひご期待いただき、温かく迎えていただきたいと思います。

2シーズン前にバロック・オペラシリーズ第1弾として計画され、リハーサルも進んでいたヘンデルの『ジュリオ・チェーザレ』がシーズン冒頭の新制作となります。ロラン・ペリーの豪華な舞台とドラマティックな演出に加え、バロック音楽の大家、指揮者アレッサンドリーニの再度の来日、チェーザレ役にはマリアンネ・ベアーテ・キーランドを配して新たなる船出を待つばかりです。

続いて新国立劇場に初めて登場する作品は、ムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』。王位簒奪によって新たにロシア皇帝に就いたゴドゥノフのうわべの栄光と内面にひろがる罪の意識と恐怖が作曲者の天才によってこれほど深く強烈な音楽ドラマとしてオペラ史に刻印されたことに、いまだ私たちは驚嘆の念を禁じ得ません。
ポーランド国立歌劇場との共同制作で、演出は、近年ポーランド人として初めてメトロポリタン歌劇場のシーズン開幕に『トリスタンとイゾルデ』公演を任された、才人マリウシュ・トレリンスキ。私達はエクサンプロヴァンス音楽祭でプロコフィエフの『炎の天使』を演奏して以来、今回の『ボリス・ゴドゥノフ』の話を進めてきました。彼はこのオペラを古色蒼然とした単なる歴史物としてではなく、現代に生きる誰もの中に巣食う自分自身の存在への恐怖、コンプレックス、故に陥る孤独に光を与え、ドラマを今日に蘇らせます。
平面的な2層の舞台上には様々なキューブ状の部屋が設えられ、このオペラに多い、登場人物のモノローグがその中で語られる不思議な空間を創り出します。大僧正ピーメンだけは、少し時代がかった装飾的な装いで、彼が歴史を見続けている証人の役割を果たす効果は絶大です。ボリス役には、世界にこの役で名を馳せているエフゲニー・ニキティン、ボリスの悲劇とロシアの運命を予言する聖愚者ユロージヴィ役にはパーヴェル・コルガーティン。皇帝の大罪を見透かし常にその心に毒を盛るシュイスキー役にはマクシム・パステル。宿屋の女将、またボリスの2人の子供の乳母を演じる女声歌手は、清水華澄、金子美香ら日本のトップクラスの歌手で占められます。また、このオペラは、大合唱の活躍するオペラとしても知られていますので、新国立劇場合唱団の本領を発揮する機会ともなりましょう。

さて3つ目の新制作は、ベルカントシリーズの延長線上として、『リゴレット』を持って参りました。
これは、ビルバオやバレンシアで上演されたエミリオ・サージの演出による堅固な舞台セットに色彩と光が映える舞台。指揮者には待ちに待った、イタリア・オペラ指揮界の重鎮マウリツィオ・ベニーニ。ジョルジュ・ペテアンのリゴレット、ハスミック・トロシャンのジルダと、今をときめく歌手たちの饗宴もお楽しみいただければと思います。

私のこれまで4シーズンは年4演目の新制作を続けて参りましたが、このシーズンは3本の新制作といたします。日本人作曲家委嘱シリーズやダブルビルは継続して企画していきますので、今後のシーズンにご期待いただきたいと思います。
そして、2020年に予定していた新国立劇場の誇るレパートリー公演が、多少の指揮者、キャストの変更を伴いながらもこのシーズンに組み込まれています。
『ドン・ジョヴァンニ』の公演には、2020年に予定していた『コジ・ファン・トゥッテ』の出演者がほとんどそっくり移っての上演となります。

『タンホイザー』は世界的ヘルデンテノール、ステファン・グールドがタイトルロール、スロヴェニアの名花、サビーナ・ツヴィラクのエリーザベト、ヴォルフラムは、一昨年の『夏の夜の夢』でディミートリアスを歌うはずだった、ダニエル・オクリッチです。
『ホフマン物語』『サロメ』は、驚異的なことに指揮者、歌手ともに2年前のキャスティングがほぼそのまま戻ってこられることとなりました。この日を待っていたエネルギーを存分に注いでくれることでしょう。

『アイーダ』には指揮者リッツィほか、スター歌手たちが揃い、5年に一度の新国立劇場の祭典に華を添えてくれます。『ファルスタッフ』では、名バリトン、ニコラ・アライモのタイトルロールと、フォード役のメキシコの新星ホルヘ・エスピーノとの声の饗宴が期待されます。また、若い恋人役フェントン、ナンネッタには、ドン・ホセやピンカートンを演じるなど進境著しい村上公太と日本の名花、三宅理恵を配するなど、ヴェルディ最後のオペラに最高のキャストが揃います。

そして、シーズン最終作は『ラ・ボエーム』。ミミにアレッサンドラ・マリアネッリ、ロドルフォにはアメリカのスティーヴン・コステロ、ムゼッタにヴァレンティーナ・マストランジェロと若々しい顔ぶれに、須藤慎吾をはじめとするボヘミアンが引き起こす愛と哀しみのドラマを、私の指揮でお届けします。このプロダクションを持って新しい時代の狼煙をあげるために。


オペラ芸術監督 大野和士


新国立劇場を支えて下さる皆様へ。
本日は、新国立劇場開場25周年を迎える2022/2023シーズンについて、大きな喜びを持って皆様にお伝え致したいと思います。来シーズンには、2年前に公演中止とせざるを得なかったプロダクションや出演者に帰って来てもらえるよう尽力しましたので、皆様にもぜひご期待いただき、温かく迎えていただきたいと思います。

2シーズン前にバロック・オペラシリーズ第1弾として計画され、リハーサルも進んでいたヘンデルの『ジュリオ・チェーザレ』がシーズン冒頭の新制作となります。ロラン・ペリーの豪華な舞台とドラマティックな演出に加え、バロック音楽の大家、指揮者アレッサンドリーニの再度の来日、チェーザレ役にはマリアンネ・ベアーテ・キーランドを配して新たなる船出を待つばかりです。

続いて新国立劇場に初めて登場する作品は、ムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』。王位簒奪によって新たにロシア皇帝に就いたゴドゥノフのうわべの栄光と内面にひろがる罪の意識と恐怖が作曲者の天才によってこれほど深く強烈な音楽ドラマとしてオペラ史に刻印されたことに、いまだ私たちは驚嘆の念を禁じ得ません。
ポーランド国立歌劇場との共同制作で、演出は、近年ポーランド人として初めてメトロポリタン歌劇場のシーズン開幕に『トリスタンとイゾルデ』公演を任された、才人マリウシュ・トレリンスキ。私達はエクサンプロヴァンス音楽祭でプロコフィエフの『炎の天使』を演奏して以来、今回の『ボリス・ゴドゥノフ』の話を進めてきました。彼はこのオペラを古色蒼然とした単なる歴史物としてではなく、現代に生きる誰もの中に巣食う自分自身の存在への恐怖、コンプレックス、故に陥る孤独に光を与え、ドラマを今日に蘇らせます。
平面的な2層の舞台上には様々なキューブ状の部屋が設えられ、このオペラに多い、登場人物のモノローグがその中で語られる不思議な空間を創り出します。大僧正ピーメンだけは、少し時代がかった装飾的な装いで、彼が歴史を見続けている証人の役割を果たす効果は絶大です。ボリス役には、世界にこの役で名を馳せているエフゲニー・ニキティン、ボリスの悲劇とロシアの運命を予言する聖愚者ユロージヴィ役にはパーヴェル・コルガーティン。皇帝の大罪を見透かし常にその心に毒を盛るシュイスキー役にはマクシム・パステル。宿屋の女将、またボリスの2人の子供の乳母を演じる女声歌手は、清水華澄、金子美香ら日本のトップクラスの歌手で占められます。また、このオペラは、大合唱の活躍するオペラとしても知られていますので、新国立劇場合唱団の本領を発揮する機会ともなりましょう。

さて3つ目の新制作は、ベルカントシリーズの延長線上として、『リゴレット』を持って参りました。
これは、ビルバオやバレンシアで上演されたエミリオ・サージの演出による堅固な舞台セットに色彩と光が映える舞台。指揮者には待ちに待った、イタリア・オペラ指揮界の重鎮マウリツィオ・ベニーニ。ジョルジュ・ペテアンのリゴレット、ハスミック・トロシャンのジルダと、今をときめく歌手たちの饗宴もお楽しみいただければと思います。

私のこれまで4シーズンは年4演目の新制作を続けて参りましたが、このシーズンは3本の新制作といたします。日本人作曲家委嘱シリーズやダブルビルは継続して企画していきますので、今後のシーズンにご期待いただきたいと思います。
そして、2020年に予定していた新国立劇場の誇るレパートリー公演が、多少の指揮者、キャストの変更を伴いながらもこのシーズンに組み込まれています。
『ドン・ジョヴァンニ』の公演には、2020年に予定していた『コジ・ファン・トゥッテ』の出演者がほとんどそっくり移っての上演となります。

『タンホイザー』は世界的ヘルデンテノール、ステファン・グールドがタイトルロール、スロヴェニアの名花、サビーナ・ツヴィラクのエリーザベト、ヴォルフラムは、一昨年の『夏の夜の夢』でディミートリアスを歌うはずだった、ダニエル・オクリッチです。
『ホフマン物語』『サロメ』は、驚異的なことに指揮者、歌手ともに2年前のキャスティングがほぼそのまま戻ってこられることとなりました。この日を待っていたエネルギーを存分に注いでくれることでしょう。

『アイーダ』には指揮者リッツィほか、スター歌手たちが揃い、5年に一度の新国立劇場の祭典に華を添えてくれます。『ファルスタッフ』では、名バリトン、ニコラ・アライモのタイトルロールと、フォード役のメキシコの新星ホルヘ・エスピーノとの声の饗宴が期待されます。また、若い恋人役フェントン、ナンネッタには、ドン・ホセやピンカートンを演じるなど進境著しい村上公太と日本の名花、三宅理恵を配するなど、ヴェルディ最後のオペラに最高のキャストが揃います。

そして、シーズン最終作は『ラ・ボエーム』。ミミにアレッサンドラ・マリアネッリ、ロドルフォにはアメリカのスティーヴン・コステロ、ムゼッタにヴァレンティーナ・マストランジェロと若々しい顔ぶれに、須藤慎吾をはじめとするボヘミアンが引き起こす愛と哀しみのドラマを、私の指揮でお届けします。このプロダクションを持って新しい時代の狼煙をあげるために。

プロフィール

東京生まれ。東京藝術大学卒。バイエルン州立歌劇場にてサヴァリッシュ、パタネー両氏に師事。1987 年トスカニーニ国際指揮者コンクール優勝。世界各地でオペラ公演及びシンフォニーコンサートで聴衆を魅了し続けている。90~96 年ザグレブ・フィル音楽監督。96~2002年バーデン州立歌劇場音楽総監督。92~99 年、東京フィル常任指揮者を経て、現在同楽団桂冠指揮者。02~08 年モネ劇場音楽監督。12~15 年アルトゥーロ・トスカニーニ・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者、08~16 年フランス国立リヨン歌劇場首席指揮者を歴任。15年から東京都交響楽団、バルセロナ交響楽団音楽監督。22年にはブリュッセル・フィルハーモニック音楽監督に就任予定。オペラでは、07年にミラノ・スカラ座にデビューし、メトロポリタン歌劇場、パリ・オペラ座、バイエルン州立歌劇場、グラインドボーン音楽祭、エクサンプロヴァンス音楽祭などへ出演。渡邉暁雄音楽基金音楽賞、芸術選奨文部大臣新人賞、出光音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、エクソンモービル音楽賞、サントリー音楽賞、日本芸術院賞ならびに恩賜賞、朝日賞など受賞多数。紫綬褒章受章。文化功労者。17年にはリヨン歌劇場がインターナショナル・オペラ・アワード「最優秀オペラハウス2017」を獲得し、フランス政府より芸術文化勲章オフィシエ、リヨン市からリヨン市特別メダルが授与された。18年9月より新国立劇場オペラ芸術監督。新国立劇場では98年『魔笛』、10~11年『トリスタンとイゾルデ』、19年『紫苑物語』『トゥーランドット』、20年『アルマゲドンの夢』、21年『ワルキューレ』『カルメン』、子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ『Super Angels スーパーエンジェル』、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を指揮している。22年7月には『ペレアスとメリザンド』を、22/23シーズンは『ボリス・ゴドゥノフ』『ラ・ボエーム』を指揮する予定。