マンスリー・プロジェクト情報


[リーディング公演]
テネシー・ウィリアムズの「絶望を見つめる眼差しの変遷」

テネシー・ウィリアムズが生涯かけて残した戯曲はその数、多幕劇が25作品以上、一幕劇は40作品以上にものぼります。それらの戯曲には大抵、「絶望の渕に追いやられた人」が登場します。そういう人間をことさらに描き続けることで、「人と人が理解し合うことの難しさ」「人が根源的に抱える孤独」をさまざまな形で浮かび上がらせていく。それがウィリアムズという劇作家の姿勢だと言えるかもしれません。

『風変わりなロマンス』の登場人物たちも皆、絶望的状況にあります。イタリア人労働者の「小さな男」は指が不自由で、工場で得た職を失い、精神病院に入れられる。男が部屋を借りる「下宿の女主人」は寝たきりの夫、アル中の義父を抱え、鬱々とした日々から抜け出せない……。

『風変わりなロマンス』が書かれたのは、ウィリアムズがプロとしてデビューしてから2年後の1942年頃。45年にウィリアムズは『ガラスの動物園』で一躍脚光を浴び、さらに1947年には『欲望という名の電車』でピュリッツァー賞を受賞、劇作家としての地位を確固たるものにします。しかしウィリアムズ自身の成功とは裏腹に、登場人物たちの絶望的状況はさらに拍車がかかっていきます。

『話してくれ、雨のように……』は1950年頃の作品で、ウィリアムズは既に劇作家として絶頂期にあるにもかかわらず、この作品に登場する失業中の「男」とその恋人の「女」の絶望は抗いようがないほどに深く、行き場のない孤独が徹底して描かれています。

ウィリアムズは自分自身や家族の姿を作品に色濃く投影した作家として捉えられることが多いですが、まだ無名だった頃の『風変わりなロマンス』の結末にはかすかな救いがあるのに対し、劇作家として名声を得てから書いた『話してくれ、雨のように……』はどこにも救いがありません。そして、この5年後に『やけたトタン屋根の上の猫』が書かれるわけですが、『風変わりなロマンス』『話してくれ、雨のように……』と年代順に作品に触れていくと、ウィリアムズ自身の「絶望を見つめる眼差しの変遷」が鮮やかに浮かび上がってくるようです。

演出家 古城十忍


古城十忍(こじょう・としのぶ)
劇作家・演出家。劇団「ワンツーワークス」代表。熊本大学法文学部卒業。熊本日日新聞政治経済部記者を経て、1986年に「劇団一跡二跳」を創立。2008年の解散まで劇団全60公演の脚本・演出を担う。最近の主な作品に『流れる庭―あるいは方舟―』、ドキュメンタリー・シアター『誰も見たことのない場所』、『中也が愛した女』など。2005年、文化庁新進芸術家派遣でロンドン及びダンディ(スコットランド)に留学。09年、新たなカンパニー「ワンツーワークス」を始動。来年1月に新作『蠅の王』を上演予定。
現在、日本劇団協議会常務理事。09年4月より、新国立劇場演劇研修所講師。


第3弾となるリーディング公演「T.ウィリアムズ 一幕劇から」(「風変りなロマンス」「話してくれ、雨のように」)が11月13日(土)および17日(水)に新国立劇場小劇場にて開催されました。

他者と理解し合うことの困難さ。人が根源的に抱える孤独。現在上演中の演劇公演「やけたトタン屋根の上の猫」の作者であるアメリカの劇作家、テネシー・ウィリアムズが描き続けた普遍的なテーマに、新国立劇場演劇研修所第5期生の若い俳優たちが挑みました。

お客様からは「リーディング公演というものを初めて観に来たが、想像力をかきたてられ、とても面白かった」、「知らない戯曲のリーディングをまた聴きたい」とのご感想をいただきました。

また、研修生に対しては、「難しい演目を熱演した若きホープたちにエールを送りたい」、「難役を若い研修生が元気に挑戦するのが楽しかった」などの応援メッセージをいただきました。
どうもありがとうございました。

「風変りなロマンス」 (写真:江川誠志)
出演:片桐レイメイ、井上沙耶香、大里秀一郎、日下論、
岩田結、藤本強、菊池夏野

「話してくれ、雨のように…」 (写真:江川誠志)
出演:梶原航、山崎薫、川口高志、北澤小枝子

※スタッフ(演劇研修所第5期生)
演出助手:林田航平、音響助手:織田瞳子、舞台監督助手:藤本強、
演出部:菊池夏野、古川七彩