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2020年 初台アート・ロフト特集記事「ファンタジー展」徹底解説!~後編~
「初台アート・ロフト」として新たにオープンした新国立劇場のギャラリースペース。どなたでもお気軽にご覧いただくことができます。その最初の展示である「ファンタジー展」。今回の特集では空間クリエーションを担当された衣裳作家・桜井久美さん(アトリエヒノデ代表)にお話を伺っています。
前編に引き続き、展示の解説、そして「ファンタジー展」に込められた想いについて伺っていきます。
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■ それぞれの展示
経験と試作から生まれた提案のインスタレーション
---- それでは上手側(正面玄関から右側)のご説明を
桜井:最初にあるのは「マノン」ですね。実は「マノン」のネットウィッグは私のライフワークの一つなんです。過去にKCI(京都服飾文化研究財団)で、18世紀の衣裳展「華麗なる革命」というものがあったときに、70点くらいの頭をアートしろという指令が来ました。最初は考えすぎていろんなことを試していたんですが、同時期に防虫ネットを使ってインスタレーションをするという案件を手掛けていて、そこから着想を得て、「華麗なる革命」でネットウィッグを作ってみたんです。それ以来、髪の毛に非常に興味を持つようになりました。例えば、18世紀の頭ってぺちゃんこでカールがいっぱいついてたりするんですけど、それがだんだん大きくなっていって、船を乗っけてみたり、最終的にはカーリーヘアの大きいやつみたいになって、そのあとはグリークスタイルになってという変貌を重ねるんです。人間の体から生えてくるものを、いろいろな国の人が、この700年くらいの間にアートし続けてきたんです。それはすごいことだと常に賛美しています。
マノンはちょうど18世紀の頃なので、オペラ座の展覧会のときにクリエーションしたものがあったのでそれを出してみました。
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---- そのお隣はまた印象的な空間が作られていますね
桜井:「魔笛」のコーナーですね。パパゲーナとパパゲーノという鳥さん夫婦です。このコーナーはインスタレーションを面白くクリエーションしていて、太陽輝く明るい空間の中で愛し合う二人が囁きあう様子をイメージしています。それこそ、今のコロナの暗いイメージを吹き飛ばす勢いで、私の想像する最大限の明るい空間を再現してみました。インスタレーションに使われてる素材は、残った端切れを輪ゴムで絞り染めにしたものです。どのご家庭にもある素材で面白いアートを作っています。そういうことも含めて、今後のアート・ロフトのワークショップなどで取り上げたら親子で楽しめるんじゃないかという、提案のインスタレーションにもなっています。
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---- なるほど。上手の奥の展示はどのようなイメージで作られましたか?
桜井:「エレクトラ」には思い入れがあります。母親と娘の衣裳を展示しているんですが、母親というよりかは父親に近い状態の役回りなので、その関係性を象徴するようなインスタレーションにしたつもりです。展示自体を一つのオブジェとして、二人の人間の距離感などが哲学的に伝わるようにしてあります。物語の内容を知っている人にはピンとくると思いますし、物語を知らない人もその迫力を通して何かを感じ取っていただければと思います。「エレクトラ」の衣裳に関してはパッチワークという手法が使われています。母親の衣裳のマントだけで18種類くらいの素材をパッチワークにしていて、それにペイントも加えて、ちょっとクレイジーなくらいのパッチワークがされています。多分、衣裳を作った人がすごく楽しんだんだろうなということが想像できる作品です。
![画像13](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/39456776/picture_pc_16bd250be0d5e210a8ea37e4e5bb5748.jpg)
![画像14](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/39456783/picture_pc_4b70321c9edfcf4949f2f1895e2f8ad3.jpg)
![画像15](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/39456793/picture_pc_2c5557e2fd37ce7774076267011e17cf.jpg)
■ 衣裳が表現するのは"ヒト"
展示を通して今の社会に込めた願い
---- 今回は二階ブリッジの奥にも展示が広がりました
桜井:あの空間は天井も高いし、素敵なんだけど全然使われていなかったんですね。今回、劇場スタッフさんからもご提案いただいて、展示してみることにしました。初めての空間づくりの素材として選んだのは、バレエのチュチュです。それをあの空間でアートしたらどうなるだろうと。浮かんでいるチュチュと、オブジェのようにインスタレーションしているチュチュと。あとはチュチュを作っているアトリエの作業台を模したもの。結果的に素敵に仕上がったんじゃないかと思います。あの空間ではこれからワークショップや講演会、コンサートなどをやっていきたいと考えています。
![画像16](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/39456933/picture_pc_34e4a401b75a542919bdc891b7da0649.jpg)
![画像18](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/39456962/picture_pc_8d6b03a01792a4e4cb32471b62ae2b37.jpg)
![画像19](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/39456986/picture_pc_47e0eb7992fac1f75d05a50a4c1da152.jpg)
---- 衣裳だけでなくマネキンや空間の造形、素材の細かな点に至るまで興味深い展示ですね
桜井:衣裳というのは人間を表現するものです。一人でいる人間などいるわけがないので、つまり空間の中に人がどういるかっていうことなんですね。だから当然装置のことも気になるし、空間の中でその人間が何をしているかっていうのが一番重要になります。今回の「ファンタジー展」のように多種多様な人物が関わっているというのは楽しいですし、広がりが感じられます。コロナでこんな世の中だけど、みんな仲良く生きましょうよというメッセージも込めて・・・。そして、「魔笛」の空間のように明るくいさえすればコロナも吹っ飛ぶと私は思っているんですけど、どうでしょう?(笑)
---- そうありたいと願っています。ありがとうございました
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お話を通して感じたのは、空間クリエーションにおける桜井さんの自由な想像力と、丁寧な手仕事の数々です。空間の中でマネキンたちは、息をしているようにそれぞれのドラマを表現しています。まるで、今なお人生の一瞬を生きているかのようです。
お近くにお寄りの際はぜひ足をお運びください。
新国立劇場 初台アート・ロフト『ファンタジー展』について☞☞☞詳細はこちらもご覧ください
対談者:桜井久美さん
パリ・オペラ座の衣裳部へ押しかけて衣裳を学び、 その後、オペラ・バレエなどの衣裳を担当してヨーロッパ各地の劇場で3年半働く。
帰国後、衣裳デザイン、リアリゼイト、製作室としてアトリエ・HINODEを設立。一連のスーパー歌舞伎や紅白歌合戦、オリンピックセレモニー衣裳などを幅広く手がける。
早稲田大学、文化女子大学、武蔵野美術大学にて講師を勤める。
2011年4月より、城西国際大学 映像芸術コース「表現芸術・衣裳」の非常勤講師に着任。