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2020年 初台アート・ロフト特集記事「ファンタジー展」徹底解説!~前編~

新展示「ファンタジー展」オープン!
演目の垣根を越えて広がる新しい展示空間


新国立劇場のギャラリースペースである公開空地は、「初台アート・ロフト」という名前で生まれ変わりました。過去公演の衣裳を展示するだけでなく、空間全体をアートとしてクリエーションすると同時に、貴重な衣裳を文化資産として修繕・保存することにも力を入れています。また、今後は衣裳展示だけでなく、ギャラリースペースを利用したワークショップや講座なども開催し、文化や芸術の発信基地になるべく変身中です。
今回は記念すべき第一回目の展示企画、「ファンタジー展」を監修されている衣裳作家・桜井久美さん(アトリエヒノデ代表)。各展示に込めた想いを伺いました。

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■ どこまでも広がる"おもちゃ箱"
演目の境を越えた大胆な衣裳展

 

---- 「ファンタジー展」の制作にあたって意識されたことはありますか?

桜井:アート・ロフトを通して、他の衣裳展や小道具展にはなかった新しい方向性を見たいと思いました。様々な演目の衣裳がミックスして展示された一つのアート空間をつくりたいと思ったんです。舞台というのはリアルな生活からかけ離れた空想の世界なので、それぞれの演目の衣裳や人々を共存させたら面白い"おもちゃ箱"ができるんじゃないかと。それでクリエーションしたのが「ファンタジー展」です。

 

---- 演目の垣根を越えて、展示自体が一つの作品となっているわけですね

桜井:そうですね。舞台の衣裳を制作するのもやりがいのある仕事ですが、それをまた別の空間で、衣裳とか小道具に命を与えて別のストーリーを展開していくというイメージです。マネキン自体をクリエーションさせていただくこともあるし、マネキン自体が面白いアートなときはそこからのイマジネーションで何かを重ねていくこともあります。油絵的な感覚に近いかもしれません。違う物体に命を与えるという、とても楽しい作業です。「コスチューム・アート・インスタレーション」という名前を付けたんですけど、他でもやっていないことだと思うので、ぜひアート・ロフトで普及させたいです。

 

---- 新国立劇場は建築物としてもかなり特徴的です

桜井:すごくモダンで革新的な建物なんですが、もっと有効活用できそうなスペースも多いですよね。展示作業をしながら歩いていると色々な発見があります。「ここにこういう人間がぶわーっと並んでたら面白いかな」とか、「何かが浮かんでいるような展示をしたら面白いかな」とか。ストーリーが考えられる空間になっていると感じます。まだ開拓できていない場所がたくさんあるので、劇場の外も含めて空間づくりをしていきたいです。舞台芸術やオペラやバレエって、一般の人には敷居が高いと思われがちですが、そういう人たちにも親しみやすいような空間づくりを心掛けたいです。そのためにはここは最適な空間だと思います。

 

■ 各展示を解説!
 空間造形やマネキンまで見どころ満載!

 

---- 各展示のご説明をお願いします

桜井:では、劇場玄関から入って下手側(左側)から。最初に展示されているバレリーナ二体に関しては、ロマンティック時代の代表的な衣裳と思います。各バレエ団によって花の精になったり薔薇の精になったりして、デザインもちょっとずつ変わってくるんですが、二つともロマンティック・バレエ・チュチュという衣裳です。作りが非常に繊細で、ロマンティック・バレエの中の妖精という存在を見事に表しています。

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---- 可憐なイメージですよね。そのお隣にもバレリーナが一体いますが

桜井:隣の展示に関してはマネキンに着目していただきたいなと。展示してあるマネキン人形は、全て、株式会社 七彩さんにお願いしているんですが、非常に素晴らしいつくりをしています。トウシューズを履いて片足で立っているバレリーナの姿というのは再現するのが難しいと思うのですが、それが見事に再現されています。まるで黄金比率のようなバランスでマネキンが立っています。この、マネキンのつくりの良さというのは個人的にも再発見でした。その素晴らしさを感じ取ってもらえるように展示したつもりです。

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---- その隣には、楽しげな人たちが展示されていますね

桜井:「観客コーナー」ですね。普段は、「~物語コーナー」のようにテーマ分けして展示をするんですが、今回はファンタジーなのでその境はありません。代わりに、それを想像させるための観客が必要になってくると考えました。ミックスして生まれた新たな展示、そのアートを見ている人たちです。それで、様々な演目から登場人物を引っ張ってきて「観客コーナー」を作りました。一緒になり得るはずもない人々が、パーティーのように仮面を被って並んでいたらどうかな、と。最初はオペラグラスで覗き込んでいるというジョークをしたかったんですけど、オペラグラスが重たくて断念しました。それで仮面舞踏会のようなマスクを思いついたんですけど、結構成功なんじゃないかと思っています(笑)。

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---- その次のブースも、ミックスが際立っているように感じますが

桜井:男子三人ですね。それぞれの演目も違うし、そもそもバレエとオペラの衣裳が並んで展示されているという点でかなりユニークかなと思います(笑)。身体表現であるバレエと、声を使って演技をするオペラの衣裳では制作時の考え方も変わります。ブースに展示されている「蝶々夫人」はオペラの中でも伝統的なクラシック形式で、「ラ・シルフィード」もクラシック時代の長たる演目です。その伝統的な二つの演目衣裳の中に、まったく新しい、クリエイティブな日本のモダンバレエ衣裳が混在している。この三つが揃うということ自体、まずありえない発想で、もしかしたらこれこそ一番のファンタジーかもしれません(笑)。

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---- 下手側最奥のブースはいかがでしょう

桜井:あそこには糸車が置かれているんですが、それも別の演目で使用されていたものです。衣裳と並べてみたら、別々の演目とは思えないほどマッチしています。小道具というのはなかなか注目されることも少ないですが、役者に非常に近しい場所にあるものだと思います。役目を終えた小道具は保管され、また別の公演で使われることもあるんですけど、アート・ロフトで新たな命を吹き込みたいと思って並べてみました。また、一階には小道具だけを展示しているスペースがあります。並べられた小道具たちが、おもちゃ箱の蓋を開けてこちらを見ているような展示にしてあります。朝と夜で配置が変わったりするかもしれないので、楽しみに見ていただけると嬉しいです。

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---- 衣裳もさることながら、下手側の柱造形も印象的ですね

桜井:ギャラリースペースは一個ずつのバルコンがあって、それぞれに柱が真ん中に建っているんですけど、それを工夫して変えたいと思ったんです。考え抜いた末、白い大きな紙をくしゃくしゃにしてみました。そしたら結構アートになったんです。遠くから見たら雲のようにも見えるし、これを利用すればガウディのような雰囲気が出せるかもと思いつきました。試しに柱にくっつけて、そこからガウディ風に伸ばして来たら相当イケてると思って(笑)。それとバレエの衣裳がすごく合うんですよ。それで、ギャラリーの下手側はみんなガウディ風にしました。私は相当気に入ってますね(笑)。

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第一回目となる今回はギャラリーの片側について解説いただきました。
次回は反対側の解説、そしてこの空間クリエーションに込めた桜井さんの想いについて伺っていきます。そこには、現代の人々に「生きるエネルギー」を伝えようとする気持ちが込められていました。

>>>後編に続く

 

新国立劇場 初台アート・ロフト『ファンタジー展』について☞☞☞詳細はこちらもご覧ください

 

対談者:桜井久美さん

パリ・オペラ座の衣裳部へ押しかけて衣裳を学び、 その後、オペラ・バレエなどの衣裳を担当してヨーロッパ各地の劇場で3年半働く。
帰国後、衣裳デザイン、リアリゼイト、製作室としてアトリエ・HINODEを設立。一連のスーパー歌舞伎や紅白歌合戦、オリンピックセレモニー衣裳などを幅広く手がける。
早稲田大学、文化女子大学、武蔵野美術大学にて講師を勤める。
2011年4月より、城西国際大学 映像芸術コース「表現芸術・衣裳」の非常勤講師に着任。

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