イングランド(2)

ロンドンの中心部にあるユニコーン・シアターは、英国では数少ない、2歳から21歳の観客に向けた演劇制作に特化した専用劇場である。

ユニコーンの創設は1947年12月、もともと国内の劇場や学校を訪れることを目的とした小さな巡業劇団だったが、質の面で妥協することなく、子どもたちに貴重な(そして多くの場合生まれて初めての)演劇体験をさせることに心血を注ぐ革新的存在で、高い評価を得ていた。創設者のキャリル・ジェンナーは、英国中の子どもたちすべてが、楽しく有益で日々の暮らしに密接した演劇を観られようになること、子どもたちを未来の観客としてではなく、れっきとした観客のひとりとして扱うことを描いていた。現在も、ユニコーンは英国でもっとも古いだけでなく、最大の規模を誇る、もっとも卓越した子ども向けの劇場として知られている。カンパニーは、小さなワゴン車に乗って巡演していた日々から長い道のりを経て、今では常設の専用劇場をもつまでになった。ロンドンのタワー・ブリッジ近くにあり、ガラスとコンクリートでできた建物は、英国王立建築家協会賞を受賞している。この現代的で、わくわくするような建物には、2つの劇場と2つのリハーサルルーム、そして4つのフロアに、それぞれパブリックスペースがあり、毎年7万人を超える子ども・若者・家族連れを迎えている。しかし、どれだけカンパニーが成長しようと今も変わらないのは、影響力のあり、人々の行動すべてを特徴づけるような芸術と子どもたちを引き合わせるという、私たちの原点とも言うべきその中心的役割である。

ユニコーンは、大劇場でも小劇場でもない。アーツカウンシルから年間約百万ポンド(約1億3200万円)の助成金を得ており、政府が支援するロンドンの劇場の中では4番目ぐらいの規模で、国内の一般的な地域のレパートリー劇場とほぼ同じだ。

毎年、10本から15本の新作を制作。家族の休日を台無しにする恐ろしい海賊が出てくる『ザ・レジェンド・オブ・キャプテン・クロウズ・ティース』や、現在、クリスマス・シーズンに合わせて上演中のチューダー朝イングランドを舞台に若き国王と貧しい少年の物語を描いたマーク・トウェイン作『王子と乞食』などの大規模なファミリー向けの作品から、科学をどう使えば傷ついた心を癒やせるかをパペットやアニメーションなどを用いて表現する物語『サムシング・ヴェリー・ファー・アウェイ』のようなスタジオ内で作られる小規模な作品まで、多岐にわたる。ユニコーンの作品の多くが学校向けに制作されているので、古典的名作を積極的に取り入れている。2012年に上演した作品に、『ザ・マン・ウィズ・ザ・ディスタービングリー・スメリー・フット』(ソフォクレス『ピロクテーテス』改訂版)、『ハウ・トゥー・シンク・ザ・アンシンカブル』(ソフォクレス『アンティゴネ』改訂版)、『ア・ウィンターズ・テイル』(シェイクスピア『冬物語』の<新翻案>版)、『ア・サウザンド・スライミー・シングズ』(コールリッジの詩『老水夫の歌』原作)などがある。古典レパートリーの存在意義は、長く愛されていることだけでなく、再構成され、再解釈され、再利用されることにあると信じている。古典は遠巻きに賞賛するものではなく、自分たちにも身近なものとして今もここにあるのだと、芝居を観にくる若い方々に感じてもらいたいからだ。

また、ユニコーンでは、カンパーニア・ロディージオ(イタリア)、スタジオ・オルカ(ベルギー)、ヘット・フィリアル(オランダ)、アイリー・コーエン(スコットランド)など、世界的に活躍する演劇カンパニーやアーティストの公演もいくつか主催している。

さらに、少し変わった新しい試みとして、年に1、2回、子どもにまつわる大人向けの芝居も作っている。題材として、特別に子どもや子ども時代を取り上げた作品で、私たちが日々影響を与えている子ども社会での、大人たちの役割を考えてもらうための、大人向けの作品を上演している。クリス・グッド作『モンキー・バーズ』は、ユニコーンでの上演前に2012年のエディンバラ・フェスティバルで初演され、大人が耳を貸してくれないと感じたとき、子どもは何を思い、どれほど不安になるか、これまでの通説に一石を投じた。

活気に満ちた世界有数の都市の一員として、ユニコーンは異なる背景をもつ人々との対話を積極的に促進するために、国際協力や国際交流に特に力を入れている。ユニコーンでヤング・カンパニーを抱えているのも、それが理由のひとつになっている。毎週、ロンドン在住の若者60名が、出演者、劇作家、演出家、スタッフとして活動し、彼らが制作した作品はしばしば、ユニコーンのラインアップに登場している。最近、ヤング・カンパニーで上演した『ハウ・ワズ・イット・フォー・ユー?』というコメディタッチの作品は、2012年のロンドン・オリンピックによって、ロンドン市民が享受するといわれていた恩恵が実際にもたらされたのかを問いかける芝居であった。2013年には、ほかの劇場や国外の若手カンパニーを招くための可能性を検討している。異なるバックグラウンドをもつ人々を結びつけ、よりよい未来を築くために必要な相互理解を深めることができる芸術によって、国際交流に貢献するためだ。ユニコーン・シアターの真骨頂は、私たちが住む世界の多様性を作品に反映し、誰でもチケットが買えるように手ごろな価格を設定することにある。少なくとも一度くらい、誰もが体験できるようでなければ、芸術は宝の持ち腐れになる。

もちろん、子どもや若者に向けた作品を制作するためのアプローチは、作る人の数だけあるだろう。活動を続け、メッセージを発するにあたり、ユニコーンのスタッフには常に心に刻んでいる信念がある。たとえば、私たちは何よりもまず演劇の作り手であり、教育者ではないということ、今日、劇場に来てくれた観客に対して責任があるということなどだ。もちろん、青少年向けの演劇を制作する限り、作品に教育的要素はつきものだし、教師が舞台について詳しく説明でき、子どもたちの学習の助けになるよう、学校で使用できる学習プログラムも幅広く揃えている。しかし、子どもたちがいったん客席につけば、私たちは未来の観客を作ろうとすることはなく、以前からの方法で子どもたちを教育するつもりもない。目の前に座っている子どもたちのために、彼らがここで目にする芝居と、劇場の外ので日常生活とのあいだに、結びつきを作りたいと思っている。そうすれば、私たちの日々の暮らしを豊かにしてくれる芸術を、子どもたちが徐々に楽しむようになることだろう。

ここで紹介したのは、私たちの活動の概要に過ぎない。もしお子さんとロンドンにいらっしゃる際には、劇場へお出かけください。タワー・ブリッジの角を曲がったところでお待ちしています。または、インターネットで、ぜひunicorntheatre.comをご覧ください。

[ユニコーン・シアター 芸術監督 パーニ・モレル]

<2012.12.23発行『音のいない世界で』公演プログラムより>