イングランド(1)

LONDON ナショナル・シアター

「今、国立劇場として、その名にふさわしい挑戦に立ち向かう絶好の時を迎えています。この国が変わりゆく様を、作品を通して語りたい。新しいコミュニティや新世代の現状を伝えたい。過去を背景に、現在の姿を問い直したい。」
ナショナル・シアター芸術監督 ニコラス・ハイトナー

多彩な上演作品と、人と人が出会う劇場

テムズ川にかかるウォータールー橋を渡った南岸サウスバンクは、ロンドンで最も人気がある文化的中心地として知られています。その一角に位置するナショナル・シアター・オブ・グレートブリテン(英国国立劇場、NT)は、世界で最も活気がある劇場と言っても過言ではありません。建物内には、扇型の観客席のあるオープンステージで1100人を収容するオリヴィエ劇場、プロセニアム形式のステージで900人を収容するリトルトン劇場、上演空間の形が自由自在に変わるブラックボックスタイプで300人を収容するコテスロー劇場の3劇場を擁しています。上演されるほとんどの作品が自主制作プロダクションで、新作から古典劇、さらには世界的レパートリーまで、同じ週に多彩な作品を観られるよう、公演スケジュールを工夫しています。

2012年のラインアップには、世界初演作6本、アイルランド、トリニダード・トバゴ、アメリカ、ギリシャ、スペインの古典劇、シェイクスピア劇2本、18、19世紀のイギリス人劇作家バーナード・ショーやオリヴァー・ゴールドスミス作品の再演といった演目が並んでいます。

演劇に加え、無料の展覧会やコンサート、屋外のサマーフェスティバルを開催、広々としたホワイエやテムズ川を見渡せるテラスなど、飲食を楽しめる場所が数多いのも特徴です。著名人によるトークや討論会、インタビュー、バックステージツアーへの参加も可能で、ナショナル・シアター学習プログラムは子供から大人まで幅広い年齢層に活用されています。建物は週7日間、年52週間、月曜日から土曜日は午前9時半から午後11時まで、日曜日は正午から午後6時まで開いています。

稽古場はもちろん、大道具製作や背景画を描く作業場、衣裳や小道具の製作室、最近大活躍のデジタル・プロダクション&デザイン室もあります。これらすべてを一つの建物内に抱える劇場は珍しく、約2万平米の敷地内には、1000人近いスタッフが働いています。近隣には、劇作や作風を掘り下げることを目的とするナショナル・シアター・スタジオがあり、劇作家、俳優、演出家たちが、上演を控えるプレッシャーを感じずに、試行錯誤を重ねています。また、上演作品用に製作された衣裳や小道具を、プロ、アマを問わず多くの劇団公演や、コスプレ・パーティーに貸し出しています。

劇場の多いロンドンにおいて、全劇場入場者数の3分の1をナショナル・シアターが集客していま。毎年約20本の新作をサウスバンクにある3つの劇場で上演し、そのうち、人気作品をロンドンのウェスト・エンドで上演したり、国内外へのツアーも実施。現在は、ニューヨークとトロントを含む北米ツアーを行っており、オーストラリアやベルリンでも開幕を控えている作品があります。海外公演を含めると、NT 作品に足を運ぶ観客数は、週5万人を超え、オフィシャル・ウェブサイトなどを利用して、リハーサル風景や劇作家へのインタビューなど、ナショナル・シアターが発信するデジタルコンテンツを楽しむ人々も急増しています。「ナショナル・シアター・ライブ」では、世界22カ国の映画館でNT 作品を随時生中継しています。

その歴史は来年の「NTフューチャー」へ

イギリスで最初に国立劇場建設計画が持ち上がったのは1848年。ロンドンの出版業者ウィリアム・エフィンガム・ウィルソンが発案し、当時の有力者の多くがこれに賛同しました。劇作家のハーレー・グランヴィル・バーカーとウィリアム・アーチャーが1903年、具体的な建設案を提示したものの、国立劇場設立法案が議会を通過したのは1949年のことでした。

ウォータールー駅の近くにあったオールド・ヴィック劇場が、晴れて創設されたナショナル・シアター・カンパニーの仮住まいとなり、1963年、ピーター・オトゥール主演の『ハムレット』がこけら落とし公演となりました。この劇場で12年間にわたり数々の成功を収め、そのうち10年間は、イギリスが誇る名優ローレンス・オリヴィエがカンパニーを率いました。

のちにナショナル・シアターの本拠地となるサウスバンクにある劇場は、デニス・ラスダン卿が設計。ここでの開場記念公演もまた『ハムレット』(タイトルロールを演じたのはアルバート・フィニー)で、1976年10月25日、エリザベス女王が正式に開場宣言をしました。1988年10月、カンパニー設立25周年を記念して、女王は劇場に「王立」の冠名称を授与。正式名称は「ロイヤル・ナショナル・シアター」となりましたが、今も「ナショナル・シアター」の名で親しまれています。

2011/2012年シーズンの収入は、8千万ポンド(約100億円強)という記録的な数字を達成した。アーツカウンシルからアームズ・レングス原則のもと配分されている国家文化振興助成金は、収入全体の23%にあたる1830万ポンド(約23億円)。それ以外は、チケット収入、協賛・寄付金や物販収入です。イギリス中の芸術団体同様、国の財政支出削減政策により、ナショナル・シアターも近年、助成金額が減らされています。

2013年には、開場50周年を迎えるにあたり、7000万ポンドをかけてサウスバンクにある劇場を再開発する一大プロジェクト「NTフューチャー」を進めています。劇場の歴史、作品、技術、アーティスト、スタッフ等NTに纏わるすべてをわかりやすく、アクセスしやすくすることにより、より幅広い層の人々に劇場の活動を知ってもらえるようにすること、それが、私たちの目指す未来だと思っています。

ナショナル・シアター・オブ・グレートブリテン
広報部長 ルシンダ・モリソン

www.nationaltheatre.org.uk別ウィンドウで開きます

<2012.10.3発行『リチャード三世』公演プログラムより>