シェイクスピア戯曲では両家の対立や迫り来る時間が大きな要素であるが、一方、マクミラン振付の当作品ではロメオとジュリエットの感情的心理的側面が強調され、ストーリーが悲劇へと突き進む大きな要因は、ジュリエットの一途で激しいロメオへの愛である。戯曲では両家の和解で物語は終わるが、バレエでは若い二人の死で幕を閉じる。

戯曲では会話で表現される二人のやり取りは、バレエではパ・ド・ドゥで表現される。 ロメオとジュリエットのパ・ド・ドゥ ─最初の出会い、有名なバルコニーシーン、仮死状態の墓廟―での2人のほとばしるような喜び、幸福感、絶望の感情が身体を通して余すところ無く語られる。バレエが持つ表現力の多様性と深さを堪能していただきたい。

初演は1965年2月9日英国ロイヤル・バレエ。当時のスターダンサーのマーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフ主演のガラ公演として上演され、カーテンコールが43回、40分に及ぶという画期的な成功を収めた。マクミランはそれまでのバレエの表現に飽き足らず、リアリティや登場人物たちの感情が存分に表現されるようなバレエを創ろうとしていた。

マクミランの描くジュリエットは淑やかなルネサンス期の女性ではなく、強い意思を持った情熱的な女性として描かれる。物語のイニシアチブをとるのはロメオではなく、ジュリエットだと言っても過言ではないだろう。

プロコフィエフの音楽はマクミランのこの振付の重要なインスピレーション源で、音楽も雄弁に物語の悲劇性を描く。マクミラン版で特筆すべきは、ジュリエットが悲劇へと突き進むことになる一大決心をする直前の場面の音楽と振付。演劇的な表現の奥深さの真骨頂と言えるこの場面は必見。