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【作品紹介】映画『街の灯』

文●村山章 〈映画ライター〉

「ジ・アトレ」2026年7月号より

比類なきチャップリンの芸術性が堪能できる映画史に輝く最高傑作

 チャールズ・チャップリンといえば映画史上最大の"喜劇王"であり、監督、脚本、主演、音楽、プロデュースをひとりでこなしたマルチな映画作家でもあった。そのチャップリンが1931年に発表した『街の灯』は、完成までに3年を費やした渾身の一作であり、笑いと涙の最高傑作として今も色褪せることなく語り継がれている。

 『街の灯』は、チャップリン自身が演じる放浪者(日本では放浪紳士とも呼ばれた)と、盲目の花売り娘の可笑しくも切ない恋物語だ。ちょびヒゲにダブダブのズボン、サイズの小さい上着を窮屈そうに身にまとい、ステッキを振り回してドタドタと歩く姿は喜劇王としてのトレードマークであり、1914年からチャップリンが演じ続けてきたおなじみのキャラクターでもあった。

 またチャップリンは映画に音声が付く以前からのスターであり、『街の灯』も必要最低限のセリフがテキストの画面で表示される「サイレント映画」の形式を取っている。ただし「古い映画だからサイレントなのね」と合点するのはちょっと待っていただきたい。『街の灯』の制作当時、すでにハリウッドはサイレントから音声が付いたトーキーへと移行する過渡期にあり、サイレント映画は時代遅れになろうとしていたのだ。

 しかしチャップリンは、身体の動きで笑いや物語を伝える表現に深い芸術性と娯楽性を見出しており、あえて時代の潮流に逆らって、『街の灯』をサイレント映画として制作したのだ。もちろん言葉に頼らずに世界中の観客を楽しませてきた実績と経験も後押しをしたのだろう。ただしチャップリンは、ただ古びつつあった形式にしがみついたわけではない。それどころか、映画に音が付けられることを最大限に活用した。チャップリンは自ら映画音楽を作曲し、映像と音楽の歩調をピッタリ合わせて物語を盛り上げてみせたのである。



チャップリンが全曲手がけた音楽とバレエの高い親和性

City Lights (クレジット入).pngのサムネイル画像

 また、物語を語る上で、音が非常に重要な役割を果たしていることも言い添えておきたい。放浪者が花売り娘と初めて出会い、お互いに惹かれ合う大切なシーンを、チャップリンは試行錯誤を繰り返して何度も撮り直した。幾度も撮影を中断してはやり直し、このシーンだけで数ヶ月かけたというのだから恐れ入る。

 特にチャップリンが苦心したのは、目が見えない花売り娘がチャップリン扮する放浪者をお金持ちの紳士だと信じてしまう流れを、いかにして観客に伝えるかだった。裕福な紳士だと勘違いされた放浪者は、好意を寄せる花売り娘の苦境を救うために、なんとしても大金を稼ごうと奮闘することになるのだ。

 チャップリンがついにたどり着いた解決策は、当時まだまだ高級品だった自動車のドアの音だった。放浪者がたまたま道端に停まっていた自動車の後部座席に入り込み、歩道へと通り抜けると、その先で娘が花を売っている。そして花売り娘は車のドアが閉まる音を聴いて、放浪者のことを自動車の持ち主だと思い込んでしまうのである。

 前述した通り、当時はすでに映画に音が付いていた。バタンというドアの音を、効果音として添えることもできただろう。しかしチャップリンは、劇中のセリフと同様に、このドアの音もサイレントのままにした。

 劇中では三度、花売り娘がドアが閉まる音を聞く場面がある。しかし音楽が流れることはあっても、直接的な音は聞こえてこない。われわれ観客は、ドアの音が聞こえるごとに変化する花売り娘の気持ちを、役者の動きと表情から読み取るしかない。だからこそ、直接は聞こえてこないドアの音が、どんなセリフよりも雄弁であることを思い知るのである。

 つまりチャップリンはこのシーンで、映画が誕生した時から備えていた「映像で伝える力」の可能性を追求したといえる。物語の流れも、登場人物たちの心の動きも、観客はただ見てさえいれば手に取るようにわかるのだ。ただし音楽の力も熟知していたチャップリンは、映像に音楽を加えることで、エモーショナルな喜びを幾倍にも増幅してみせた。『街の灯』が今も古びないのは、セリフや効果音がないことを除けば、現在の映画の見せ方となんら変わらないからでもある。

 この度、『街の灯』が初めてバレエの舞台になるという。チャップリンとバレエ、それは親和性が高いはず(そういえば『ダンシング・チャップリン』という先達もある)。とりわけ『街の灯』は、全編がチャップリンによって作曲され、振り付けられた一種の音楽劇であり、また言葉に頼らない身体表現の極致でもある。映画と舞台では表現形式が違うものの、チャップリンのスピリットを受け継いだ、新しくて懐かしい『街の灯』が生まれるに違いない。


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2026/2027シーズン 新国立劇場バレエ団『街の灯』<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>

2026年10月23日(金)~11月1 日(日) 全10回公演
新国立劇場 オペラパレス


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