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【インタビュー】『街の灯』アラスター・マリオット
アラスター・マリオットが語る『街の灯』バレエ化の挑戦
新国立劇場バレエ団が2026/2027年シーズンに上演する新作『街の灯』。チャールズ・チャップリンの不朽の名作映画を原作に、英国の振付家アラスター・マリオットが全幕バレエとして新たに創作する。 放浪者(トランプ)と盲目の花売り娘の物語を、バレエとしてどう表現するのか。リハーサル開始を前に、マリオットが創作の背景と新国立劇場バレエ団への期待を語った。
インタビュー・文●實川絢子 〈舞踊ジャーナリスト〉
「ジ・アトレ」2026年7月号より
精密に設計されたチャップリンの動きとクラシック・バレエの融合
―今回、なぜ『街の灯』をバレエ化しようと思われたのでしょうか。
マリオット(以下M) 長い間、全幕バレエにできる物語を探していました。私は子どもの頃からチャップリンのファンで、コンクールでチャップリンの格好をして踊ったこともあるんです(笑)。バレエは女性中心の作品が多いので、『街の灯』は男性が主人公である点も魅力的でした。チャップリンが演じる放浪者(トランプ)は、喜劇性と哀愁を併せ持ち、誰もが共感できる存在。そして、この物語の核心は、何も持たない彼が他者に最も大きなものを与えるという点にあります。視力を失った少女に光を取り戻し、彼女と祖母のために家まで用意する。裕福であれば容易な行為を、無一文の彼が刑務所に入ることまでして成し遂げるからこそ感動が生まれると思うのです。
―チャップリンの動きは、すでに振付のようですよね。一方で、あなたのダンス言語はクラシック・バレエに根ざしています。その要素をどう融合させていますか。
M チャップリンの動きは非常に精密に設計されており、タイミングも含めてほとんど振付です。一方、私が今回重視したのは、その一つひとつのジェスチャーが物語から自然に生まれることです。彼の動作は、「ありがとう」や「ごめんなさい」の仕草ひとつにしても独特で、そこにほんの少しだけバレエ的な要素を加えて押し広げると、自然とダンス作品になっていくのです。
―盲目の花売り娘の身体表現については。
M 当初は不安もありましたが、テレビで盲目のダンサーが踊る映像を見て可能性を確信しました。重要なのは、"見えない人らしい動き"を模倣することではなく、彼女が何を感じているかです。彼らは音や気配を頼りに世界を感じている。そしてトランプは彼女を決して離さず、常に導き支える存在であるからこそ、彼女は舞台上で安心して動くことができるのです。
映画の世界を舞台ならではの表現で描く
―時代設定は、映画と同じなのでしょうか。
M はい、ちょうど狂騒の1920年代の終わりと大恐慌のはざまです。富と貧困の対比は作品の重要な軸となります。
―ディック・バードが手掛ける舞台美術と衣裳は、白黒でなくカラーだそうですね。
M 白黒にするかカラーにするかは議論がありましたが、当時は単にカラーで撮影する技術がなかっただけ。ディックは時代考証に優れたデザイナーで、チャップリン・オフィスから提供された資料をもとに、衣裳の色や縫製など細部まで徹底的に作り込んでいます。映画ではグレーに見えるベストは実際には黄みがかった色で、ネクタイは青。帽子の内側には金色で"C.C."のイニシャルも入っていたんですよ。
―映画の細部に忠実でありつつ、バレエという異なる形式で表現するにあたっては、さまざまなチャレンジがあったかと思います。
M 映画にはクローズアップがありますが、舞台にはありません。その代わり空間全体で表現する必要があります。例えば小さな家の中という設定であっても、踊るためのスペースを確保しなければならない。また、映画のように自由な場面転換もできません。何を見せるべきかを整理し、それを舞台上でどう見せるかを緻密に設計しました。手紙を読む場面なども、観客にその内容をどう伝えるか、工夫が必要です。解決策を見つけたのですが、詳細は秘密にしておきます(笑)。
―この作品の見どころは。
M 映画をそのまま再現するのではなく、かなり整理しています。削ったシーンもありますが、その分、映画にはないキャラクターを登場させるなどして、重要な場面や要素を強調しています。特にナイトクラブのシーンは大幅に拡張し、群舞や、映画スターのプリンシパルカップルによる見せ場を加えました。クラシック・バレエの要素を盛り込める場面は、実は非常に多かったんです。
さらに大富豪の家の場面では、映画では意地の悪い執事が登場しますが、バレエではそこにメイドも加え、この二人が大富豪の財産を狙う設定にしました。映画に登場する泥棒の役をこのペアに置き換えることで、振付としての広がりも生まれました。
―ボクシングの場面も登場するのですよね。
M これは絶対に外せませんでした(笑)。実は映画でも、あの複雑な動きはヴォードヴィルのダンサーが演じています。つまり最初から"ダンス的"な場面なんです。
新国立劇場バレエ団ダンサーたちの挑戦
―音楽はどのように扱われるのでしょうか。
M チャップリン自身が映画のために作曲したスコアを使用し、サイレント映画音楽の専門家であるティモシー・ブロックがそれをフルオーケストラ用に編曲しました。映画では数秒で終わるような場面も、バレエでは長いパ・ド・ドゥにするため音楽の拡張が必要になりましたが、その中心にあるのは常にチャップリンの旋律です。
―ラストシーンについては、様々な解釈が可能です。
M 「見えるようになったのかい?(You can see now?)」「ええ、見えるわ(Yes, I can see now)」という有名なセリフ(字幕)には、視力の回復と同時に、娘が恋した相手が裕福な紳士ではなく貧しいトランプであったと気づくという"真実の認識"の二重の意味が込められています。ただ舞台ではクローズアップが使えないため、その感情をどう身体だけで表現するかが大きな挑戦になります。この結末は、アメリカではハッピーエンドとして、フランスやイタリアでは悲劇として受け止められることもあるそうです。チャップリン自身もその後を明確には描いておらず、観客の想像に委ねられている点こそが、この作品の魅力だと思います。日本の観客の皆さんがどう受け止めるか、今から楽しみにしています。
―新国立劇場バレエ団のダンサーに期待することは。
M 昨年の『ジゼル』での指導を通し、新国立劇場バレエ団のダンサーたちの演技が飛躍的に成長したのを目の当たりにしました。西洋では「日本人は感情を内に込めがち」と見られることも多いですが、日本のダンサーが感情を解き放ったときのパワーはとてつもない。この作品は挑戦になるかと思いますが、今の彼らだからこそ踊れる作品だと思っています。

Alastair MARRIOTT
1988年に英国ロイヤルバレエに入団、96年ソリスト昇格、2002年にプリンシパル・キャラクター・アーティストとなり、03年より振付家としての活動を始める。ロイヤルバレエでは、アシュトン、マクミラン、バランシンの作品などに幅広く出演し、19年に振付に専念するため退団。ロイヤルバレエのために7つの1幕作品を振り付け、最新作である19年『アンノウン・ソルジャー』はオリヴィエ賞候補となった。その他、舞踊批評家協会賞に3回ノミネート、ロシアのゴールデンマスク賞にノミネートされている。英国ロイヤルバレエ学校のために3作品、ロイヤルオペラ『ロシア皇后のスリッパ』、女王陛下誕生日のガラのために『イン・ザ・グラス・ハウス』を振り付けている。その他、10年ロイヤル・バラエティ・パフォーマンスのためのパ・ド・ドゥの振付や、ダーシー・バッセルへの『キス』『赤い靴』の振付も手掛け、12年ロンドンオリンピックの閉会式ではクリストファー・ウィールドンとも協働した。20年にはパリ・オペラ座バレエ団のために、マチュー・ガニオのソロ作品『月の光』をパリのガルニエ宮で発表。最近では、新国立劇場バレエ団のために吉田都演出『ジゼル』のステージングと改訂振付を担当した。
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