バレエ&ダンス公演関連ニュース

【インタビュー】『String SAGA』振付/宝満直也

振付家・宝満直也による『String SAGA 』が世界初演される。
ダンサーとして所属していた頃から、新国立劇場バレエ団の若手振付家育成プロジェクトで積極的に創作を重ね、退団後は全幕バレエをはじめ数々のバレエ作品を手がけてきた。
ついに振付家として新国立劇場バレエ団に登場し、ダンサーたちとともに創作を進める彼に、新作への思いを聞いた。


インタビュー・文●加藤智子 〈ライター〉

「ジ・アトレ」2026年4月号より



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リハーサルより 撮影:奥田祥智


久石譲「Viola Saga」との出会いから生まれた完全新作

─新国立劇場バレエ団に振付家として戻ってこられましたね。いまのお気持ちをお聞かせください。

宝満 退団から約十年、いつか新国立劇場に振付家として呼ばれるようになりたいという気持ちで過ごしてきたので、今回のオファーをとても嬉しく思います。吉田都芸術監督が、日本の振付家を育てたいというスタンスでいてくださったからこそ実現したことだと思っています。


─この新作はどのようにして構想された作品なのでしょう。

宝満 まずは、音楽との出会いがありました。久石譲さんの「Viola Saga 」という、2023年に東京オペラシティで初演された協奏曲です。フィリップ・グラスを敬愛されている久石さんのあの素晴らしい楽曲からは、本当にいろんな音が聞こえます。この音楽で創ろう、創るからには、いまヨーロッパの第一線で活躍している振付家の作品と並んでも恥ずかしくない作品を、と思いました。衣裳はmatohu さんという和のテイストを大切にされているブランドの方、美術は数々の舞台を手がけていらっしゃる長峰麻貴さん、照明は吉本有輝子さんにお願いしました。吉本
さんは、坂本龍一さんの舞台作品『TIME 』の照明を手掛けられ、振付家ダミアン・ジャレの作品にも参加されている方です。

─matohu さん、長峰さんとは過去にも一緒に創作をされていますが、吉本さんとはどんなご縁があったのですか。

宝満 自分で伝手をたどり、オファーさせていただきました。クリエーションは、いままで自分がいなかった場所に行けるチャンス。会ってお話するだけでなく、一緒に仕事をして、その方に本領を発揮していただいた時にこそ、自分自身に大きな気づきや成長があると思います。面識もない、ずっと"格上"の方ですが、あえて、お願いしました。
僕は昨年、文化庁新進芸術家海外研修制度で、9カ月間ドイツのベルリンに滞在しました。ヨーロッパの人にとって、日本は思っていた以上に東の遠い国なんだなと感じましたが、同時に、漫画やアニメをはじめ日本のカルチャーがすごく注目されているという実感も。自分が日本のクリエイターであるという意識が生まれ、日本のクリエイターチームで創作をと、より強く思うようにもなりました。

─久石さんの楽曲「Viola Saga 」に敬意を払われ、作品タイトルは『String SAGA 』に。"String "という言葉には、どのような思いを込められたのでしょうか。

宝満 「サーガ」は北欧神話の冒険譚、壮大なストーリーを彷彿とさせますが、久石さんは日本語の「性(さが)」の意味をかけていらっしゃると知り、惹かれました。そうして僕がモチーフにしたのは、ストリング=糸。紡績の工程には、原料から繊維を撚り出す作業があり、捻ったり引き伸ばしたりしてどんどん強度を上げていきます。それは、スタジオに、また舞台に立つダンサーたちの姿に重なります。例えば今回の出演者の一人、小野絢子さんは、ダンサーである以前に小野絢子という人です。そこに鍛錬や熱意、経験という別の糸が撚り合わさり、"ダンサーの小野絢子"になる。パートナーという別の糸が合わされば、パ・ド・ドゥが生まれる。さらに音楽という色彩が加わると、より鮮やかになり、周りのダンサーや舞台美術、お客さまとも撚り合わさって──と、可能性はどんどん広がります。ストリングスは弦楽器という意味ですから、そこも含めて、このワードを取り上げることにしたんです。

物質としての"糸"から広がるイマジネーションを6つのパートで

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リハーサルより 撮影:奥田祥智

─作品はいくつかのパートで構成されるそうですが、それぞれのコンセプトについても教えてください。

宝満 Twist (撚る)、Tension (張る)、Intertwine (絡まる)、Flick&Spin (弾く、紡ぐ)、Tangle (縺れる)に最後に全員で踊るWeave (織る)が加わった6つのパートです。「撚る」は、異なる原料をより合わせて違うものを作り出すイメージ。「張る」=テンションという言葉は、バレエダンサーにとって馴染み深い言葉です。「絡まる」は身体が絡まっていく感じで、「弾く、紡ぐ」は糸車のようにスピンして弾ける動き、「縺れる」では、人と人との縺れ、人間関係の縺れのようなところにフォーカスします。最後の「織る」は、全員でタペストリーを織っていくイメージに。「蜘蛛の糸」や「運命の赤い糸」といった表現もあるように、お客さまは、物質としての糸から、さらにイマジネーションを広げていただけるのではないかなと思います。

─各パートでメインを担うダンサーは、経験豊かなダンサーから若手までと実に多彩です。どのような基準で選ばれたのですか。

宝満 全幕作品の場合はその役柄に合う人を選びますが、今回は音楽のイメージに合うダンサーを選ばせていただきました。それぞれの特性が合わさり、いろんなシーンが表現され、皆で一つの絵を創っていく。その先に何が見えるのか──まだ完全にイメージできているわけではないけれど、それを見たくて創作しているように思います。ダンスに没頭している若いダンサーたちはすごくキラキラしているし、経験豊富なダンサーたちには、何かを投げかけた時のキャッチの速さ、工夫がある。ともに刺激し合ってもらえたらと思いますし、ダンサーが心地良いところだけでやっても、新しい扉は開けません。ダンサーたちが、やったことのないことを何とか乗り越える時の、一瞬のスパークみたいなものが好きなんです。

─昨年のドイツでの経験は、今回の創作に活かされていますか。

宝満 創作のスタートはベルリンのアパート。一人で踊ったりビデオを撮ったりして進めていました。現地ではカンパニーのダンサーとして舞台に立っていたのですが、ダンサーのためのワークショップにも参加、クリスタル・パイトの出世作といわれるソロを学ぶ機会もありました。彼女の振付はとても複雑ですが、それをただ巧くやるだけでは成立しない。ダンサー自身の工夫、イマジネーションを乗せないと踊りにならないということがよくわかりました。ドイツで得たものは大きいと思います。

─初演を楽しみにされている皆さまにメッセージをお願いします。

宝満 新国立劇場でこのような機会をいただけることは、他のクリエイターたちにとっても希望です。ダンサーとして七年間を過ごした後、新国立劇場バレエ団がどのように変化してきたかは把握してきたつもりですが、お客さまには、ダンサーたちのさらに新しい表情を観ていただけるよう、皆で創りあげていきたいと思います。

2025/2026シーズン 新国立劇場バレエ団 ダブル・ビル String SAGA/暗やみから解き放たれて

2026年7月3日(金)~5 日(日) 全4回公演
新国立劇場 中劇場

公演情報