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『くるみ割り人形』振付 ウエイン・イーグリング インタビュー

今年の『くるみ割り人形』開幕まであと2週間。新制作当時に振付のウエイン・イーグリングがコンセプトやプランを語ったインタビューを再掲します。

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新制作『くるみ割り人形』を振付するのは、かつての名ダンサーであり、オランダ国立バレエ、イングリッシュ・ナショナル・バレエの芸術監督を務めたウエイン・イーグリング。

新国立劇場では2014年に『眠れる森の美女』を新制作、2016年に『Men Y Men』を日本初演し、ダンサーたちと良い関係を築きつつある彼が、新国立劇場のためにどんな『くるみ割り人形』を作ろうとしているのか。そのプランを語っていただいた。

インタビュアー◎守山実花(バレエ評論家)
ジ・アトレ誌 2017年6月号より抜粋

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こんぺい糖の精となったクララと王子のグラン・パ・ド・ドゥ

【コンセプトは「少女クララの成長」です】

――このたび新制作される『くるみ割り人形』の振付をイーグリングさんがなさいます。新国立劇場バレエ団から依頼されたとき、どのように思いましたか。

イーグリング(以下E) まず頭に浮かんだのは、新国立劇場で上演した『眠れる森の美女』の衣裳デザイナーでもあるトゥール・ヴァン・シャイクと私が一緒に作った『くるみ割り人形』のことです。これは私が最初に振り付けた『くるみ割り人形』で、オランダ国立バレエで初演しました。その後、イングリッシュ・ナショナル・バレエでも『くるみ割り人形』を作りましたので、新国立劇場は三回目の作品となります。新しい『くるみ割り人形』を作るのですから、当然ながらこれまでとは違うものを目指したいと思っています。より良い、 より〝正しい〞方向の作品になるように。

――オランダ国立バレエの『くるみ割り人形』を拝見しましたが、プロローグには凍った川をスケートするシーンがあり、ヨーロッパの冬の日常風景がさりげなく入れられているのが印象的でした。

E 美しい冬の情景を入れたいと思って作った場面です。新国立劇場版でも似たようなシーンを入れるつもりですが、日本だから日本の情景を入れるのではなく、ヨーロッパの都市をイメージした情景にする予定です。  
私としては、場所や時代を特定することなく、より普遍的なスタイルにしたいと思っています。第二幕には民族舞踊がありますので、スペインの踊りならフラメンコや闘牛、中国の踊りは京劇風、というようなイメージはありますが、作品全体に細かな時代・地域の設定はしないつもりです。

――イーグリングさんの『くるみ割り人形』の見どころは何でしょう。

E コンセプトは「少女クララの成長」です。12歳のクララは、クリスマスパーティでドロッセルマイヤーの甥に出会います。彼はアカデミーの生徒で18歳。ハンサムな彼はクララにとって眩しく、憧れの存在です。そんな彼を思いながらクララが眠りにつくと、彼女の夢の中で、甥はくるみ割り人形となって、ねずみの兵隊と勇ましく戦っています。夢の中のクララは彼にふさわしい大人の女性に成長しており、二人は恋に落ちるのです。
これが私の『くるみ割り人形』の物語で、第一幕前半の少女クララは年相応のバレエ学校の生徒が踊ります。そして、夢の世界で大人になったクララを、大人のダンサーが演じます。

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見た目は怖いがチャーミングなねずみの王様

【新国立劇場のダンサーたちはより強くなっています】

――他にもイーグリング版ならではの役はありますか?

E ねずみの王様は、踊りを存分に披露する役になります。そもそも作品の題は「くるみ 割り人形とネズミの王様」ですから、ねずみは大活躍しないとね。ドロッセルマイヤーはいろいろなトリックを見せますが、最後、物語のすべては彼の魔法だったのかもしれない、とそんな風に思わせる存在にしたいと考えています。
第一幕のパーティの場面には、少女クララ、弟フリッツのほかにも、子どもをたくさん登場させます。パーティの場面のあとは、女の子は子ネズミ、男の子はおもちゃの兵隊としても登場しますから、子どものダンサーも大切です。
私は、子どもを舞台に登場させるのが好きなんですよ。そうすることで、彼らと同世代の若い観客が劇場に来るでしょうし、舞台を観て「自分もあの中で踊ってみたい」とバレエを習い始める子もいるかもしれませんからね。

――新国立劇場版として新しく作る踊りは何でしょう。

E 雪の精のシーンに関しては、ロシア版の振付に少し手を加え、構成的にかなり満足のいくものとなりました。また、古典作品におけるコール・ド・バレエの男性は女性のサポート役がほとんどですが、男性ダンサーにも女性ダンサーと同等の重要性を担わせ、より高いレベルの踊りを求めたい。そのための踊りをつくります。男性ダンサーがもっと活躍できるよう、挑戦してもらいたいですから。
今回の『くるみ割り人形』で、ダンサーはたくさんの異なる役を踊り、作品の中でたくさんの挑戦をしてほしいと願っています。



2023/2024シーズン『くるみ割り人形』

2023年12月22日(金) ~ 2024年1月8日(月・祝) 全17回公演
新国立劇場 オペラパレス

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