東京裁判を紙芝居屋さんの目から見るという発想から、音楽入りの叙事詩劇にするという表現を得て誕生した第1部
『夢の裂け目』、補佐弁護人としてA級戦犯の裁判に関わった弁護士夫婦に焦点をあて、「人道と平和に対する罪」など東京裁判の核心に迫った第2部
『夢の泪』。風化させてはならない日本の記憶を、庶民の目線で見つめ、笑いと音楽をふんだんに盛り込んだ「夢」シリーズは、井上ひさしならではの重喜劇として、高い評価と多くの観客の支持を得ました。
今回の『夢の痂』は、東京裁判をどのように把握し、これからどう生かしていけばいいのかということを命題に、井上ひさし独特の視点から、日本人を、日本の社会を考える舞台が描き出されます。とりわけ、東京裁判は、「戦争の責任はA級戦犯にあって天皇も国民もみんな被害者であった」というひとつの線引きであり、戦争責任・戦後責任に対する曖昧さが、「悪いのはあいつで、俺たちは悪くない」と常に線引きしていく現在の国民の無責任さにつながり、そしてその無責任さを考え直さないと国際社会では生きていけない、といった問題意識から本作は発想されます。
敗戦後の昭和22年頃、作戦立案した戦争責任をとろうとして自殺を企てるが、未遂に終わってしまう陸軍の高級将校を中心に、東北のとある町で出会った人々と、そこで起きる事件をとおして、敗戦後の日本人の生活や社会が活写されます。東京裁判の現代史的な意義を追及する深刻すぎて滑稽な音楽劇仕立ての重喜劇の完結編!演出の栗山民也ほか円熟のスタッフ、角野卓造・三田和代ら多彩かつ充実のキャスト・ミュージシャンで贈ります。重く深いテーマを、面白く楽しく魅せる井上ひさしワールドをご堪能ください。