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平成15年度文化庁国際芸術交流支援事業

神々の黄昏
GÖTTERDÄMMERUNG
ワーグナー:「ニーベルングの指環」第3日
【全3幕】<ドイツ語上演/字幕付>
オペラ劇場 OPERA HOUSE


特別協賛:POLA

★☆★ オペラトークのご案内 ★☆★
<スタッフ>
 
台本・作曲 :リヒャルト・ワーグナー
指揮 :準・メルクル
演出 :キース・ウォーナー
美術・衣裳 :デヴィッド・フィールディング
照明 :ヴォルフガング・ゲッベル
舞台監督 :菅原多敢弘
合唱指揮 :三澤洋史
合唱 :新国立劇場合唱団/二期会合唱団
管弦楽 :NHK交響楽団
   
主催 :新国立劇場/日本オペラ団体連盟
協力 :日本ワーグナー協会
特別協賛 株式会社ポーラ化粧品本舗

<キャスト>
 
2004年 3月26日
(金)
27日
(土)
29日
(月)
31日
(水)
4月1日
(木)
4日
(日)
ジークフリート クリスティアン・フランツ    
ジョン・トレレーヴェン        
ブリュンヒルデ ガブリエーレ・シュナウト      
スーザン・ブロック      
アルベリヒ オスカー・ヒッレブラント
グンター ローマン・トレーケル
ハーゲン 長谷川 顯    
ユルキ・コルホーネン        
グートルーネ 蔵野 蘭子
ヴァルトラウテ 藤村 実穂子
ヴォークリンデ 平井 香織
ヴェルグンデ
フロスヒルデ 大林 智子
第一のノルン 中杉 知子
第二のノルン 小山 由美
第三のノルン 緑川 まり

<公演日程>
 
2004年 3月26日(金) 27日(土) 29日(月) 31日(水) 4月1日(木) 4日(日)
14:00開演        
16:00開演    
予定上演時間:6時間(休憩2回含む)
開場は開演の60分前です。

<前売り開始日>
  2004年1月25日(日)10:00〜

<チケット料金>
 
席種 S席 A席 B席 C席 D席 E席
料金 23,100円 18,900円 14,700円 11,550円 7,350円 4,200円
※料金は消費税込みです
@チケットぴあ

神々の黄昏のちらしワーグナーの「ニーベルングの指環」とは
音楽評論家 三宅幸夫


ワーグナーの『ニーベルングの指環』四部作は、上演にのべ十数時間を要する超大作。これを持てば世界を支配できるという指環をめぐって、天上の神々(代表はヴォータン)、地上の巨人族(同ファーフナー)、そして地下の小人族(同アルベリヒ)が激しい争奮戦を繰り広げます。英雄ジークフリート(ヴォータンの孫)も、この呪いに満ちた世界を救済する希望を託されるのですが、あっけなくハーゲン(アルベリヒの息子)の策略にはまって殺害されてしまいます。そして、その妻ブリュンヒルデ(ヴォータンの娘)が火葬の炎に身を投じると、世界は火災と洪水によって破局を迎えることになるのです。──このように『指環』は人類史の一時代が没落してゆく、その発端、その過程、その結末を描いた物語として読むことができます。ワーグナーは『指環』によって、愛を失い、権力と富のみを追い求める19世紀の資本主義社会を批判したわけですが、その批判の矢は現代に至るまでの長い射程を有しています。ヴォータンは槍の柄を削り出して世界樹を枯らしてしまい、アルベリヒはラインの河底に潜在していた黄金を強奪し、愛を呪って指環を作り上げます。つまり『指環』には、世界没落の発端は「自然収奪」にあるという、まことにアクチュアルなテーマも込められているからです。したがって、時と所を限定しない『指環』の上演にとって「演出」が大きな役割を果たすのは当然の帰結といえるでしょう。

トーキョー・リング これまでの展開

2001 ラインの黄金

キース・ウォーナーの演出は序夜『ラインの黄金』の幕切れを、新築なったヴァルハル城の広間に読み換えました。神々の権勢を誇示する(精神病院のようにもみえる)白亜の殿堂には七色の風船が降りそそぎ、世界中の神々が招待されて新築披露パーティーが催されています。主神ヴォータンは、自己資金なしに自社ビルを建ててしまった若手経営者さながら、大満足のていで「遠大な構想」にとりつかれ「かくして城に挨拶を送ろう」と歌い上げます。もちろん「遠大な構想」とは、自分は手を出さず、自分の血を引いた英雄に指環を奪還させようという計画にほかなりません。まだ生まれてもいない次世代の人間にツケを回すとは、すぐれてアクチュアルなテーマではありませんか。このヴォータンのエゴイストぶり、ヴァルハル城の偉容は、黄金を奪われてホームレスとなったラインの娘たちの歌声「上にいるのは卑怯と欺瞞のかたまり」によって鋭く相対化されるのです。

2002 ワルキューレ
『ワルキューレ』では長大な第2幕が圧巻でした。舌鋒するどくヴォータンの欺瞞をあばく妻フリッカ、これまでの経緯を映像で見せられて愕然とする愛娘ブリュンヒルデ。父親への尊敬と信頼が根底から揺るがされる瞬間です。そして双子の兄妹ジークムントとジークリンデが「遠大な構想」の最初の犠牲者となります。婚姻の神でもあるフリッカはタブー(不倫と近親相姦)を破った兄妹を許さず、ヴォータンは自己保身のために二人を見捨てる決断をするほかありません。この夫婦と親子の相剋は神々の世界というよりも、むしろ現代の不毛な家庭に近く感じられたものです。そして、ジークリンデは箱庭のように閉ざされた演技平面のなかで無益に出口を探し求め、ジークムントは犬死に同然の最期を迎えるのですが、まさにこの破局のさなかに、ヴァルハルの栄光より、哀れな妹を選び取ったジークムントの「愛の尊厳」がブリュンヒルデへと受け継がれてゆくのです。

2003ジークフリート
『ジークフリート』の第2幕といえば、かなりのワグネリアンでも辞易する長丁場ですが、今回のように短く感じられた舞台は観たことがありません。ドイツの森のメルヒェンは現代アメリカの父子家庭に移され、ジークフリートが実父ジークムントの形見である名剣を、電子レンジと冷凍冷蔵庫の温度差を利用して再生するという寸法です。奇抜なアイデアを速射砲のように連発してくる演出ですが、それが単なる冗談に終わらないところがウォーナーのウォーナーたるゆえんでしょう。養父ミーメは、ジークリンデが難産のすえジークフリートを生み落として死んでいったと語りますが、彼の演技はそれと裏腹に、自分がジークリンデを犯して締め殺したことを暗示します。コミカルな台詞と身振りで観客を笑わせておきながら、一瞬のうちに、ジークフリートが無意識のうちにミーメを憎悪する原因となった殺人、つまりは『指環』物語の知られざる暗部をのぞかせるのです。

ものがたりと見どころ
さて『神々の黄昏』の序幕では、まず運命の女神ノルンたちが過去・現在・未来について語り、神々の終末が近いと予言します。そして蜜月を過ごしたジークフリートとブリュンヒルデが、旅立ちにあたって「離れてはいても、誰が二人を分けえよう」と力強く唱和するのですが、すでに二人の仲を割く「裏切り」は眼前に迫っています。
第1幕、ギービヒ一族の館を訪れた英雄は、忘却の薬を飲まされて、あっけなくブリュンヒルデのことを忘れてしまいます。彼はグートルーネに一目惚れし、グンターと義兄弟の誓いを交わし、グンターの花嫁としてブリュンヒルデを獲得すると約束します。それもこれも、すべてはアルベリヒの息子ハーゲンの策略。── 一方、ブリュンヒルデのところにヴァルトラウテがやってきて、指環をラインの娘たちに返すように懇願しますが、彼女は夫の愛の形見である指環を手放すつもりはありません。指環に執着した崇りか、彼女は隠れ頭巾でグンターに変身した夫に力づくで征服され、指環を奪われてしまいます。忘却の薬を飲まされた経緯はあるにせよ、『指環』のなかでも最も残酷な場面でしょう。
第2幕、アルベリヒとハーゲンの対話で『黄昏』がヴォータンとアルベリヒの代理戦争であることが明らかにされます。そして結婚式に集まった公衆の面前で、ブリュンヒルデは自分がジークフリートの妻であり、拉致の夜に夫に手ごめにされたと告発します。代理求婚のしきたりを守ったと主張するジークフリートは、ハーゲンの槍の穂先で真実の誓いを立てなくてはなりません。怒り狂うブリュンヒルデ、指環を狙うハーゲン、そして顔に泥を塗られたグンターは、ジークフリートを殺害することで意見の一致をみます。
第3幕、ラインの娘たちが指環の呪いについて警告しますが、ジークフリートは取り合いません。そこへ狩りの一行がやってきて、彼は勧められるままに自分の冒険物語を歌って聞かせます。ハーゲンが記憶回復の薬を飲ませたため、彼はブリュンヒルデに出会ったいきさつまでに語ってしまい、ハーゲンは偽誓を理由に彼の背中に槍を突き立てます。ジークフリートの遺骸が運び込まれたギービヒの館では、ハーゲンが指環の権利を主張してグンターを殺害。ブリュンヒルデが神々を告発しつつ、夫を火葬する炎のなかに飛び込むと、火災と洪水によって神々が支配していた旧世界は消滅します。この破局のあとに来るのは、同じような歴史の繰り返しなのか、それとも、よりよい世界なのか……結論は開かれたままなのです。


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