<作品について>
日本の古典に題材としたオペラ二作品の同時上演。平成の歌舞伎界を支える十二代目市川團十郎がオペラ初演出に挑みます。特に『鳴神』は市川家の「家の芸」である歌舞伎十八番のひとつ。市川宗家自らの演出によってオペラがもつ時間と空間の奥行きがいかに変幻を見せるか期待が高まります。
『鳴神』の初演は文楽形式オペラとして映像で製作され、吉田玉男らが操る文楽人形の繊細な名演が、1974年のテレビオペラの国際コンクール、“ザルツブルク・オペラ賞”
グランプリを獲得しました。高僧でさえ色香に迷い破戒堕落するという人間の弱さを描写する筋立ては、普遍性に富んだもの。前半の濡事と後半の荒事が対象を見せるユニークな構成がオペラでも適用され、独特の見せ場を創ります。一方の『俊寛』は平家物語に書かれた史実が題材。能・文楽・歌舞伎と様々な形を通じて語り継がれる孤独と別離の物語が、切々と胸を打ちます。オペラは能を底本とし、1964年にラジオで放送初演、65年に舞台初演が行われました。
團十郎演出は、日本の伝統芸能に培われてきた“芸”をオペラに持ち込みます。新境地への歌手陣の挑戦にご注目ください。また同時に、日本の舞台に特有の平面的な美をオペラの舞台に応用する趣向。作品への深い理解に裏打ちされた演出は、演技にも美術にも目を見張る効果を生み出すことでしょう。
<ものがたり>
<鳴神>
昔、山奥に鳴神上人とよばれる高僧がいた。ある時、宮廷に不満を抱いた鳴神上人が世界中の竜神を滝壷に閉じこめたため、人々は干ばつに苦しめられる。困った帝は、美しい官女の雲の絶間姫を上人のもとへ遣わす。絶間姫が色仕掛けで上人を誘惑し、酒を飲ませて眠らせて、滝に張ったしめ縄を切って竜神を解き放つと、たちまち豪雨となり国中が潤う。目覚めた上人は雷神と化して荒れ狂い、雲に飛び乗って絶間姫を追うが後の祭りである。
<俊寛>
平家全盛時代の九州、鬼界が島の海岸。平家討伐の陰謀が発覚した俊寛は、丹波少将成経と平判官入道康頼と共に流刑となっている。成経・康頼と俊寛は、都での生活や残してきた妻に思いを馳せる。そこへ、赦免使を乗せた船が到着。成経と康頼は大赦となったが俊寛は島に残すよう命ぜられたこと、そして俊寛の妻が清盛に逆らい打ち首となったことが伝えられる。生きる望みを失って慟哭する俊寛をひとり残して、一行は船出するのだった。
|