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2004/2005シーズンオペラ (芸術監督からのメッセージ)
 
2004/2005シーズンは、このすばらしいオペラハウスの芸術監督としての2シーズン目となります。2003/2004シーズンは新国立劇場の新たなる章の幕開けとなりました。劇場から世界に向けて発信した力強いシグナルによって、新国立劇場が競争力をもった創造的な歌劇場であるという認識を得ました。今後も世界の冠たる歌劇場と肩を並べるべく、邁進しつづけたいと思っています。今シーズンもまた、国内、海外の一流アーティストが新国立劇場に集い、ユニークですばらしい舞台を創り出すことでしょう。皆様も、新国立劇場と共にオペラ史を巡る新たな旅へ出かけましょう。今年のテーマは《女たちの運命》です。来る1年間、私たちの興味の中核をなすのは、魅力溢れる女性たちです。彼女たちの夢、献身、自己犠牲、希望、決断、そして愛に、その焦点をあわせていきたいと考えています。
 

 
『カヴァレリア・ルスティカーナ』/『道化師』 
 
2004/2005シーズンはピエトロ・マスカーニとルッジェ―ロ・レオンカヴァッロによるオペラではじまります。ここで私たちが向かい合うのは、サントゥッツァとネッダ、いずれも希望に裏切られてしまう二人の女性です。両作品とも、イタリア・オペラの伝統でもある感情の世界を描いています。演出はグリシャ・アサガロフ氏、美術・衣裳にルイジ・ペレーゴ氏、そして指揮に阪哲朗氏を迎えて創り出すプロダクションは、真のイタリアの精神、情緒に満ちた作品として必ずや心に残るものとなるでしょう。
 
『エレクトラ』
 
リヒャルト・シュトラウスによる古代ギリシャを舞台とした傑作が今シーズンの二つ目の新制作となります。『エレクトラ』を選んだのは、音楽的な意味でこの作品が一つの挑戦であることはもちろんのこと、何にもまして、この作品が父の徳を決して裏切るまいと固く誓った娘の父への強い愛の物語であるからです。父を擁護するためにはどんな献身もいとわない強い意志がそこにあります。1909年の『エレクトラ』初演以来、この作品における女性の役柄は才能ある歌手全てに共通する登竜門となっています。指揮のウルフ・シルマー氏はリヒャルト・シュトラウスの音楽に大変造詣が深く、今までにないすばらしい解釈を見せてくれることでしょう。
 
『ルル』
 
今シーズン3つ目の新制作となります。これは20世紀オペラを代表する作品の一つで、女性の持つ魅力の神秘を描いたオペラです。"無邪気な女性"のはりめぐらした蜘蛛の巣に、世の男性は皆囚われてしまうようです。世界的な演出家の一人であるデヴィッド・パウントニー氏と指揮者シュテファン・アントン・レック氏が、ルルの魅惑を説得力ある表現で描き出してくれるでしょう。また、佐藤しのぶ氏が、私のたっての希望としてルル役を受けてくださったことに、心から感謝しています。ルル役は、佐藤しのぶ氏の芸術性の新たな一面を私たちに見せてくれることでしょう。
 
『おさん-「心中天網島」より』
 
今シーズンの日本人作曲家による作品として、久保摩耶子氏によるオペラを世界初演いたします。彼女の作品には前々から強い魅力を感じておりましたが、そういった中で、この新しい作品が私の興味をそそったのです。このオペラの物語は、まさに私が現代オペラに求めていた物語そのものでした。現代の私たちの心を揺り動かさずにはおかない要素があります。互いに絡み合う運命の流れの中に生きる二人の女性と一人の男性。逃れられない運命がそこにあるのです。
 
『コジ・ファン・トゥッテ』
 
ここまでの作品で私たちが経験した数々のドラマから、今度はユーモラスに、何がなんだか分からない混乱の嵐に巻き込まれる二人の女性に目を向けていただきたく思います。この『コジ・ファン・トゥッテ』は『フィガロの結婚』に始まったモーツァルト・チクルスの一環でもあります。若手演出家の中でも、野心的で深遠な物語性のある作品作りをしているコルネリア・レプシュレーガー氏と指揮者ダン・エッティンガー氏による『コジ・ファン・トゥッテ』は、さらに舞台美術と衣裳のダヴィデ・ピッツィゴーニ氏を迎えて彩り豊かで特別な作品となることでしょう。
 
『フィデリオ』
 
レオノーレほど、その献身的な愛で人々の心を強く揺り動かすオペラの登場人物は他にいるでしょうか。夫、フロレスタンに対する彼女の深く限りない愛は、牢獄の扉を開き、弾圧を解き、そして鎖をも断ち切っています。私たちは、演出家マルコ・アルトゥーロ・マレッリ氏特有の表現方法によって、この類をみない愛の姿を目の当たりにすることでしょう。ベートーヴェンの解釈においては卓越した存在である指揮者ミヒャエル・ボーダー氏が、ぴったりと息のあったパートナーとして取り組みます。
 
『蝶々夫人』
 
ジャコモ・プッチーニは一度も来日していないのにもかかわらず、二つの文化の狭間で引き裂かれてしまった日本女性の悲劇を誰よりも理解していたようです。これは単なるロマンスの物語ではありません。プッチーニは、異文化に住む人間の感情をその無知さゆえに軽んじてしまう外国人の姿を、厳しい目で描いているのです。その一方で、女性の最上の徳を描かせたら並ぶ者のない巨匠プッチーニは、このかけがえのない女性を特別な想いを込めて語りかけています。蝶々さんは自らの誤解に気づきながら、その愛に妥協することはありませんでした。この蝶々さんの物語を雄弁に語ることができるのは、優れた日本人演出家だけであると私は確信しています。栗山民也氏が私の申し出を快く受けてくださり、指揮者のレナート・パルンボ氏と共にこの演目に取り組んでいただけることを大変喜ばしく思っています。
 

 
以上、新制作に加え、『ラ・ボエーム』『椿姫』『マクベス』そして『フィガロの結婚』の再演が決定しています。今シーズンも、東京フィルハーモニー交響楽団と東京交響楽団がこの歌劇場ならではの音楽を紡ぎだしてくれることでしょう。さらに新国立劇場合唱団のメンバーによる熱心な取り組みも大変に楽しみな要素の一つです。同様に、日本国内はもとより世界各国から集まる歌手陣が、再登場、もしくは初めてこの新国立劇場のステージで皆様と出会う日を心待ちにしています。彼らは、各々の芸術性を結集して、私たちの心を揺り動かし、私たちの夢を実現させてくれることでしょう。

2004/2005シーズン、挑戦への幕が開きます。
皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

オペラ芸術監督
トーマス・ノヴォラツスキー
Thomas Novohradsky
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