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2006/2007シーズン演劇 (芸術監督からのメッセージ)
 
人間の対話を……
 
一つひとつの新しい作品を創り出すとき、まず今の時代と真っ直ぐに向き合い、机の上にあるその一つの戯曲のなかから、演劇という舞台芸術の力で一体何が可能なのかを、いつも出発点として考えます。もちろん、人間や世界を描くことで、一つの絶対的な解答が見つかるはずなどありませんし、また見つける必要もないでしょう。しかし、その作業のなかで私たちにとって必要な無数の真実のいくつかに、必ず出合うことができるはずだと考えます。

 現代の社会はITによる情報文化の驚異的な拡がりによって、毎日夥しいほどの新たな情報が、それも一方通行で私たちの生活圏に暴力的に流れ込んでいます。多様性は必要でしょうが、無責任で独りよがりな情報があまりにも無秩序に氾濫しているように思えるのです。今、少し立ち止まって、その迅速さと便利さに楽々と身を委ねてしまう前に、人間のいろいろな対話が創り出したいろいろな物語を、もう一度見つめ直して見ることが必要だと思うのです。その数多くの物語には、自分と違った価値観をもつ者や世界に対して、必死に言葉や行動などのあらゆる力を使って、他者を深く理解し、分かり合おうとするいろいろな人の姿が描かれています。そして、その人間の言葉や表情や小さなしぐさといったものには、コンピュータ機器よりも、より機微で豊かで確かな感情を人に伝える大きな力があるということを、今こそ大事に考えたいのです。

 演劇は、時代時代によって幾多のスタイルが生まれてきましたが、どのカタチであれ観客との間にはいつも強いコミュニケーションを要求してきました。しかしながら、20世紀の終わりごろから、そのコミュニケーションを必要としない、またあえて拒絶するような関係が拡がり、そのような孤立した人々の風景を描く物語が多く見られるようになってきています。人間たちの冷戦時代が、そのまま映し出されているのです。だからこそ、人と人とがもう一度、言葉や身振りによって対話することで、ぶつかり、触れ合い、そこから新たな価値を発見できる現実に立ち向かうことが必要だと思うのです。それは、人間のもつ肉声による対話という普通のことなのですが、それこそが、私たちの生活に今いちばん失われているもののように思えるのです。

 舞台芸術というものは、その一瞬一瞬に消えていくものです。他のさまざまなメディアと違って何度も繰り返し再生できないものだからこそ、深くいつまでも私たちの記憶のなかに、強い力となって生き続けていくものだと信じます。

 劇場でお会いしましょう、そして、楽しく笑える喜劇や、人間や世界の断面を執拗に抉った悲劇や、遠い時代に生きた人間たちの声の記憶が綴られた歴史劇など、いろいろなドラマを通して、人間の言葉を、人間の対話を取り戻しましょう。
栗山民也
演劇芸術監督
栗山民也
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