R.シュトラウス ばらの騎士
元帥夫人:カミッラ・ニールント
オックス男爵:ペーター・ローゼ
オクタヴィアン:エレナ・ツィトコーワほか

シーン2(第1幕)

次に、先にも少し触れた、元帥夫人が第1幕のフィナーレで、愛人のオクタヴィアンをキスもせずに帰してしまったので、オクタヴィアンに“ばらの騎士”としていってくださいというメッセージを伝えるよう子供に言って、一人部屋に残るシーンを見てみよう。歌も何もない、ただオーケストラと演技だけのシーンだが、ミラー氏は夫人が孤独であることを表すためにタバコを小道具として使っている。火のつけ方、立つ位置など、いろいろ彼は指導しながらこのシーンを作っていった。

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ここはミラー氏が非常にこだわって作ったシーンで、当然ながら元帥夫人と2人だけで作っていったのだが、タバコの持ち方から、吸い方、それもすぱーっと本当に深く吸ってしまったら意味が違ってしまう、その辺も含めて指導して作っていったシーンである。また、我々の視点から言えば、最初はミラー氏はもっと窓辺に立ってタバコを吸っているシーンを希望したのだが、実は窓辺に立つとこの窓の桟の影が顔に落ちてしまう。少し立ち位置をずらしたら顔に影が映らなくて済むのだが、今度は鏡台との位置関係が難しく、お客様によっては見えない人が出てきたりするので、もう少し手前に来てという指示を出して窓からは少し離れた状態に立ってもらった。もちろん、ミラー氏は、もともと窓のごく近くで外を眺めながらたそがれている姿を見せたかったのに、技術的な理由でこのように変えてしまって申し訳ないとは思ったのだが、私は後で実際に舞台を見てこの立ち位置でよかったなと思った。もう少し窓に近づくと、伯爵夫人の姿がすごく小さくなってしまう。そして、この本当に大きな、現実的にはあり得ないぐらい大きな空間に一人たたずんでいる姿はすごく印象に残ってよかったシーンだと思っている。