R.シュトラウス ばらの騎士
元帥夫人:カミッラ・ニールント
オックス男爵:ペーター・ローゼ
オクタヴィアン:エレナ・ツィトコーワほか

ジョナサン・ミラー1

演出:ジョナサン・ミラー プロフィール

ジョナサン・ミラー氏はオペラの演出のみならず、シェイクスピアのBBCシリーズなどの映像演出や演劇も手がけている。オペラ演出で一番有名なのは、「リゴレット」をニューヨークマフィアの世界に置き換えたマフィア・リゴレット。私は2004年に氏と初めて仕事をしたが、予想通りのスパイスの効いた演出家で、その上、医学博士でもある。ミラー氏の専門は医学だが、ほかに動物学、社会人類学も学んでいて、その視点で人間を観察することを演劇においても、オペラにおいてもテーマにしている。
氏は自然な人間の身体行動を舞台に求める方である。「オペラ歌手といえばやはりこう手を広げて歌う」「モナコだったらこうやって突き上げて高音を出す」などと、オペラ的な演技を求める演出家もいるが、氏は全く逆で、手を広げようものなら、「じゃああいつの手は切り落とそう」と言うくらい嫌がる演出家である。何を持っているんだ、この先は何があるんだ、と。自然な動きを表現することを彼は求めていて、極力オペラ的な表現はなくす。しかしそれがいかに難しいかは、オペラ歌手の普段のリサイタルを見ていてもわかる。リサイタルでもやはり手を使って、体を開いて歌う。もちろんそれが声楽的に横隔膜を使うという意味で歌いやすいのだが、ミラー氏の場合は自然な、もしかしたらお客様に伝わらないかもしれない、細かい演出が沢山ある。私たちも稽古場で、それは登場人物の感情の移り変わりとしてはいたって有効だと思うが、お客様にはそこまで見えるのかなという疑問を抱くことはたくさんあった。