W.A.モーツァルト フィガロの結婚
  アルマヴィーヴァ伯爵 伯爵夫人 ケルビーノ
初演(2003.10) C.ロバートソン J.ワトソン E.ツィトコーワ
再演(2005.4) W.ブレンデル E.マギー M.ブリート
再々演(2007.10) D.ロート M.コヴァレヴスカ 林美智子

アンドレアス・ホモキ

演出:アンドレアス・ホモキ プロフィール

アンドレアス・ホモキ氏の「フィガロ」を私たちは「段ボール・フィガロ」と呼んでいる。初演は2003年、再演が2005年、再々演が2007年と、3回上演されたプロダクションである。そのうち、ホモキ氏自身が演出したのは1回目で、2・3回目は私が再演演出家として演出を担当したが、本当に大変なプロダクションであった。

このプロダクションでは、最初、舞台全体が引っ越しの荷物としてのたくさんの段ボール箱に囲まれていて、その段ボールをいろいろ移動させたり、洋服ダンスを入れたりして、シーンを描き分けている。しかしこの段ボールがくせモノで、ある物は人が上に乗っても大丈夫なように木の枠が入っていて、実際に人が上るシーンもあるのだが、間違ったところに上ってしまうと普通に壊れてしまう。稽古の時が難しくて、「そこの段ボール箱を回ってくれ」と私たちが演出席から指示しても、「どれもみな段ボール箱ではないか、どうやって区別したらいいのか」と言われて、非常に緊迫する場面がたくさんあった大変なプロダクションだった。しかしこの段ボール箱の装置は実は非常に緻密につくられている。私はこの劇場で20人以上の演出家の助手をつとめてきたが、ホモキ氏は私が最も感銘を受け、尊敬する演出家である。

彼は多国語に通じ、しかも言葉だけでなくオーケストラも歌も歌詞も全部頭に入っていて、楽譜を持たずに稽古をした。演技指導も非常に説得力がある。前芸術監督ノヴォラツスキー氏が就任第一作目にホモキ氏の演出による『フィガロの結婚』を選んだことは非常に氏の目指した劇場のあり方として象徴的なことだと思う。
舞台は段ボール箱で四角く囲まれているのだが、幕が進むにつれ、象徴的な事件が起こるたびに傾いて壊れていく。床も最初はフラットだったのが傾いていく。これは階級社会の崩壊を表している。

2003年公演より

衣裳も最初はロココ調のとても装飾的な衣裳を伯爵や伯爵夫人は着ていて、他方フィガロやスザンナは黒く、みすぼらしくはないが飾り気のない衣裳、普通の何も飾りのないシャツのような服を着ている。それが幕が進むにつれてどんどん衣裳を替えていって、最終的に、4幕の最後にはみんな真っ白な下着姿で、裸足で、しまいにはかつらも取って、誰も見た目の区別がつかないような状態になるのだ。これは、本当に皆さんが生まれながら持っている階級とか関係ない人間としての個性、平等性というものを最後は表している。だから、4幕ではフィガロと伯爵も見分けが殆どつかない、まるで同じ格好をしている。その辺がポイントになっている。