高校生のためのオペラ鑑賞教室
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平成17年度新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室 G.プッチーニ 蝶々夫人

「蝶々夫人」スタッフ、キャストからのメッセージ

2004/2005 シーズンの最後を飾る栗山民也演出オペラ「蝶々夫人」は、6月24日(金)に新演出の幕を開けました。今回の鑑賞教室も、その舞台をそのままに、高校生のためのオペラ鑑賞教室として公演されます。演出の栗山民也氏のこのプロダクションにかけるメッセージ、そして、6月24日〜7月9日公演において、ひと足早く舞台に登場した蝶々夫人役 大村博美さん、指揮のレナート・パルンボ氏のコメントをお届けいたします。この鑑賞教室が、高校生の皆様にとりまして、思い出深い公演となりますよう願っております。

インタビューイメージ

【インタビュー】

(新国立劇場・情報誌「ジ・アトレ」99号インタビューより)

【オペラトーク】
「蝶々夫人」についてスタッフ、キャストが語るオペラトークが6月9日(木)に新国立劇場・中劇場にて、トーマス・ノヴォラツスキー芸術監督の司会で開催されました。

(オペラトークより)


栗山民也(演出家・演劇芸術監督)

(新国立劇場・情報誌「ジ・アトレ」99号インタビューより)

栗山 写真1

2000年のオペラ「夕鶴」に続いて「蝶々夫人」の演出を手掛けることになりました。どのような舞台装置をイメージされていますか。

 舞台は抽象的なものにしようと考えています。ステージは両側に半円のような壁が張り出す、真ん中には扉のついたキューブがあります。そこが蝶々夫人の家にもなるのですが、上下から螺旋を描くようにスロープでつなげて、長崎の丘の途中にあることを示しています。その扉には窓のような穴があって、星条旗がはためいていますが、ストーリーの進行に合わせてその影が濃くなったり、おぼろげになったりして情感や登場人物の心情を象徴しています。


オペラの代名詞ともいえる古典中の古典ですね。

 僕はチェーホフ(ロシアの作家)の演劇を取り上げる時も同様ですが、その作品を取り上げることで現在の私たちとどうつながっていて、どのような意味を持っているのかということを第一に考えます。それはオペラを演出する上でも変わりません。今の時代に「蝶々夫人」という作品がどのような有効性をもっているかということが大切なのです。

 「蝶々夫人」の初演は1904年ですから、ちょうど一世紀前に作られたことになります。ところがこの作品を見ていると、恐ろしいことに占領という問題をはじめ、西洋と東洋の主従の関係という歴史的構造は何も変化していないのだと驚かされます。百年前に現在の世界の構造が予見されたドラマとして提示されているのです。それがとても怖い。文明の衝突がテーマの一つになっています。

 文明の衝突という言葉を使いましたが、この物語は宗教の差異、対立でもあります。婚礼の場面では伯父のボンゾがキリストに改宗したことに怒り、怒鳴り込んできます。それをずっと引きずりながら、第二幕の幕開けでもイザナギ、イザナミに祈るスズキを出して宗教との対立が明示されます。人間が神を信じること、神はどんな形で僕らの前に現れるのでしょうか。
人間は何かにすがるものです。すがるものをなくした蝶々夫人はどうするのか。神不在の時代といわれるけれど、今の人々はみんな、そんな宙ぶらりんな状況におかれています。古典の作品を今に甦らせるのに最も問題になるのは神の問題です。

栗山 写真2

ピンカートンはどれだけ蝶々さんを愛していたか気になるところですね。

 第一幕の後半にあれだけの長い二重唱が用意されているのですから、単なるその場の欲望だけで二人の関係は成立しないでしょう。歌の中で徐々に二人の距離感が近づいていくようにしたいと思います。しかし、最後はピンカートンの略奪です。十五歳の少女に対してのことですから、そのことは正確な男女関係として描きたいと思います。


悲劇の幕切れはどのようになりますか。

 残された混血の子供が果たしてどこを見ているのか、それを示して幕を下ろしたいなと考えています。一方にはすでに死んだ日本の母がいて、奥の高いところにはこれから連れていかれるだろうアメリカの星条旗がはためき、その真ん中にその子がいる。その目線は、果たしてどっちを向いているのか。

栗山 写真3

演出プランを練るにあたってポイントとなることは何でしょうか。

 ノヴォラツスキー オペラ芸術監督が、2004/2005シーズンのオペラの年間テーマとして掲げられた「女たちの運命」を考えてみたとき、女の物語という意味からも舞台はある意味で胎内ではないかと思いました。ある生命を包み込むものです。そういった点でも、何かしら円形であり、丸みを帯びたものであり、その中でドラマが起きていきます。星条旗は円形を切り裂いた果てに見えるという構造です。

舞台に現れる具象は大切ですが、リアリズムでセットを作ってしまうと、例えば家は家でしかなくなってしまいます。それよりも舞台から客席へと向かっての空間を何色に染めるかが大切です。そこが温かいのか冷たいのか、あるいはどのような風が吹いているのかなど、それをつくっていく作業が大きな意味での舞台装置であり、演出と思っています。ポピュラリティーの高い作品ですから、これまでの舞台のイメージからわざと離れていくというのではなく、お客様の想像力のなかで膨らんでいく舞台にしたいと思っています。広場の空間に参加していただくことによって、より豊かなものがその中で生まれてくるのではないかと考えています。

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大村博美(蝶々夫人役)

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