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2013年6月26日

演劇「OPUS/作品」出演者インタビュー (段田安則、相島一之、近藤芳正) 

若手演出家の現在の視点にスポットを当てたシリーズ「Try・Angle─三人の演出家の視点─」第一弾は小川絵梨子演出による「OPUS/作品」。弦楽四重奏団のメンバーが繰り広げるほろ苦いコメディに、個性的で魅力的な俳優たちが揃った。つい最近、天才ピアニストのホロヴィッツを演じた段田安則、東京サンシャインボーイズで多くの共演をしてきた相島一之と近藤芳正。映像でも活躍する三人が揃うのは実は舞台では初めて。とは言え、リラックスした雰囲気の座談会は爆笑の連続で、本番への期待もふくらんでいく。  

インタビュアー◎沢 美也子(演劇ライター)


 
段田安則
三人にとって初めてづくしの「OPUS/作品」

─相島さんと近藤さんは劇団東京サンシャインボーイズで共演が多かったですが、段田さんとは?

相島 ● 段田さんとは初めてですね。映像ではTBSの「浪花少年探偵団」がありますけど。
段田 ● そうです。
相島 ● あのときくらいですよね。近ちゃんはあるんですか?
近藤 ● デビューに近い時に、TBSの「私の運命」でね。それ以来、やってないんじゃないかな?
段田 ● やってないですね。この三人での舞台共演は初めてです。
近藤 ● 嬉しいですね、段田さんと共演できるのは。舞台はいろいろ拝見していて、先日も「ホロヴィッツとの対話」を観て、とても面白かったです。
段田 ● 僕もお二方の舞台は観ていて、今回楽しみなんです。ただ初めての方というのは、普段知っていても、芝居をやったら「お!」とか「えー? やりにくい」とかあるかもわからないし(笑)。でもこのお二方には安心してます。
相島 ● 段田さんは、それこそ僕がまだ学生で演劇をやっていたころから、夢の遊眠社で見ていますから。今回ご一緒できるというのは本当に光栄です。近藤くんとはもう長いつきあいで。
段田 ● お二人はどっちが先に東京サンシャインボーイズに入ったんですか?
近藤 ● もともと相ちゃんは劇団員だけど、僕は全く劇団員じゃないんですよ。客演でした。
段田 ● え! 劇団員だとずっと思ってました。
相島 ● 近ちゃんは毎回ゲストで呼ばれて、三谷幸喜の信頼が超厚かったんです。僕とか梶原善に「こういうダメ出しは、初めて参加する近藤さんにしなきゃいけないのに、どうして僕は君たちにするんだ」とか「近藤さんはできていて、どうして君たちはできないんだ」とか、そんな感じですよ。
段田 ● つかこうへい事務所の平田満さんと同じですね。「平田の芝居が正解だ。平田の芝居を見ろ」と、つかさんがおっしゃってたと風間杜夫さんから聞いたことがありますね。
近藤 ● 今、思い出しました。段田さんは青年座の養成所で僕の先輩なんです。僕が入ったころ、段田さんはもう夢の遊眠社に参加していましたけど。

─それで「OPUS/作品」ですが、台本を読んで、作品についてどんな感想をお持ちですか?

相島 ● 人間ドラマとして、とても面白いなと思いました。台本の中にも「カルテットは、結婚するようなものだ」というような台詞がありましたけれど、確かにそれに近いような、深いものがあるんだろうなと。人間関係が二時間のドラマの中で微妙に揺れ動いて、面白いですね。ただ、翻訳劇コメディ特有の「難しさ」があると思います。細かいジョークというか、笑いのポイントが日本人と少し違うので、翻訳のコメディって。そういうところを現場で、演出家と役者がクリアしていくのが、翻訳コメディの醍醐味なんでしょうね。
段田 ● 僕も面白い本だなと思いましたね。これが日本初演なんだということで、そこに自分が出られるのはラッキーと思いましたね。私は確か第一ヴァイオリンで……リーダーみたいな役だったと思うんですね。
近藤・相島 ● 間違いなくそうです(爆笑)。
段田 ● 確か、なんて言ってちゃダメですね(笑)。ト書きで「左手は動かすな。右手だけ動かせばいい」とあって、そこに救われました。本当に弾いていると思わせるのは、ヴァイオリンの場合、絶対に無理ですからね。でも演奏しているシーンが多いんですよね。
近藤 ● 多いですね。どうすればいいのか。
段田 ● ほとんどが楽器を持っているシーンだから、持っている様くらいはちゃんとしないとね。
近藤 ● 僕が惹かれているのは、最初のト書きで、登場人物全員で四重奏を奏でるみたいな、一種の曲のように流れていくのを望んでいると書いてあったことですね。これはどの台本でもやったことがないと思って。わりと、他人の台詞を聞かないほうなので、いい訓練になるなあという(笑)。リハビリとして他人の台詞を聞く勉強をしたいです。
相島・段田 ● 爆笑

 
相島一之
─段田さんは第一ヴァイオリンのエリオット、相島さんが第二ヴァイオリンのアラン、近藤さんはチェロのカールですね。

近藤 ● エリオットはゲイですよね。キスシーンありましたからね。(ヴィオラの)ドリアンと。
段田 ● 女性とキスじゃなかったのか……。ゲイの役は映像ではありましたけど、舞台では初めてです。
相島 ● ゲイの役って難しそうで。おかまバーのママさんとかなら突き抜けている部分があるから、もういいんじゃないのと思えるけれど、結構リアルに男性を愛するとか想像しづらくて。どうなんですか先輩?
段田 ● でも、ゲイの人と言ってもあんまり変わらないですよね。
相島 ● 見た目は変わらないですね。
段田 ● ですよね。何か、ふとした仕草をしたときの「あっ」って思う感じくらいだと思いますよ。あんまり、特にゲイだからどうしなきゃっていうのは思ってないんですけどね。ゲイは僕だけですか? 
近藤 ● 加藤(虎ノ介)くんが演じるドリアンがゲイだよね。で、アランは女好き。相ちゃんの女好きの役って今までないよね?
相島 ● 映像だと結構あるんだけど、ディープなというか、ちゃんとした女好きっていうのは(笑)あんまりないですね。
段田 ● じゃあ、わりと、僕も相ちゃんも初めての役柄をやるわけですね。
相島 ● そうですね。
近藤 ● カールはマイペースなんだけど、それにはある理由があって。そういう事情を抱えた役、僕は初めてです。
段田 ● 三人とも初めての役柄なんですね。
相島 ● そうですね。面白いのは、カールの一言で関係が保てているんですよね。もめていると、カールが収める。
段田 ● そういうのは、会社とか学校とか、何かのグループとかでは役割があって、「こいつが緩和剤になってまとまる」ということは日常でもありますよね。
相島 ● ありますね。
近藤 ● そういう意味では、僕は、カールとは正反対ですね。
段田 ● まとめないの? 乱すほう?
近藤 ● わりと放っておくほう。黙って見ているタイプ(笑)。

 
近藤芳正
役割分担と情熱でカルテットを維持!?

─音楽家の役ですが、難しいところはありますか?


段田 ● ホロヴィッツを演じた時は、ピアノを習いましょうか、と三谷さんに聞いたのですが、やらなくていいということに(笑)。ただ、音楽家に見えないのが一番まずいので、音楽家の雰囲気が出ればいいなと思って、それには楽器の持ち方ひとつ、動きだけにかかわらず、お客さんが納得できる風情でいなきゃなと。自分ではできているつもりでも、ただの日本のじじいに見えてるのでは?と、不安だったんですけど。今回はヴァイオリン弾きのリーダーみたいな感じが、見えればいいなと思いますけどね。
近藤 ● 僕は本当にリズム感に自信がないので、みんなと一緒の動きをするって、本当に苦手なんですよ。人と一緒に何かをするって苦手なんで、今から、これ、どうやってやるのかなって不安です。カルテットに向いてない。
相島・段田 ● 爆笑
相島 ● 僕は三谷の「オケピ」に出ましたが。
近藤 ● しかも、バンドやってるしね。
相島 ● はい。バンドでは歌とハーモニカ担当で、ギターはコード押さえる程度ですけど。「オケピ」では戸田恵子さんがヴァイオリンをやっていて、すごく上手で、弾いているみたいに見えました。「演奏してらっしゃったんですね」と言うお客さんが多かったです。
近藤 ● それは左手をみんな動かしてたってことだよね?
相島 ● 本当にやっているようにやってた。曲に合わせて。僕はすごく面白い設定の役で、サックス奏者だけど、サックスだけでなく、クラリネット、フルート、ギター、マルチにこなす設定で、そうすると絶対に無理なんですよ。同時に二つの楽器の音が出てると嘘になってしまう。そういう場合は、三谷とか音楽監督と相談しながらやっていました。でも今回は、確かに難しいかもしれないですね。段田さんがおっしゃったように、プロのヴァイオリン奏者に見えなかったらどうしようもないですから。それは、指導の方がいらっしゃるので、ある程度詰めてやらないとダメなんだろうなと思っていますけど。

 
─カルテットの話ですが、ひとつのチームと考えると、チーム維持のコツは何だと思われますか?

相島 ● たくさんあると思うんですね。ちゃんと目標設定することだとか、バランスを取ることだとか。いろんなものが必要で、皆が役割分担できたら長く続くんじゃないかな。たとえばアランの場合は、わりとジョークを言ったりして、まめまめしく動いていますよね。
近藤 ● 僕は、ひとつのところに所属するのがすごく苦手なんです。リハビリもかねて、自分でプロデュース公演をやってますけど。劇団七曜日にいた時は、なぜか、名前ばかりの「幹部」というものになっていましたが、人をまとめるって本当に大変だったんです。反対に、役者は劇団運営とは違う作業で、勝手なところで出来たりするのが楽しいと思っていて。個人主義でいたいというところがあるので、チームを維持するとか、あまり考えないですね。
段田 ● 僕も人と一緒に何かやるというのは苦手で嫌いなんですけどね。唯一、今はもうやっていない草野球をみんなでやるのは楽しかったんですけど。それ以外、だいたい団体とか嫌いでなんで。どういう集まりであれ、たぶん、嫌な仕事とか、面倒くさい仕事とか、チームのために情熱を持ってやっている人がひとりでもいると、「俺も頑張ろう」と思うのでは。それだけじゃないでしょうけど、情熱をもった人間がいれば、どんなもめごとが起ころうと続いていくような気がしますね。
近藤・相島 ● 誰か頑張っている人がいるとね。
段田 ● 今回は、もしも「やってらんねえよー」と思ったときに、相ちゃんが一生懸命に取り組んで、女好きの役を稽古場の隅でどんどん掘り下げている姿を見れば、「頑張ってるな、じゃあ俺も」というふうになると思います。そんな感じで、この作品は相島さんにかかっています。
相島・近藤 ● 爆笑

(新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2013年6月号より)

 


公演日程:2013年9月10日(火)〜29日(日)
チケット料金(税込):A席 5,250円  B席 3,150円

チケット好評発売中

新国立劇場ボックスオフィス 03−5352−9999

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