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2013年6月24日

演劇「エドワード二世」演出家・森 新太郎インタビュー 

同一人が劇作と演出を手がけることの多い日本の演劇界で、意欲的な芝居づくりを展開している三十代の演出家による新企画「Try・Angle―三人の演出家の視点―」。その第二弾では新国立劇場ですでに「ゴドーを待ちながら」を上演し、高評価を得た演劇集団円の森新太郎が、エリザベス朝演劇を代表するクリストファー・マーロウの「エドワード二世」に挑む。血みどろの権力闘争の果てに見える、人間の業と本質をあぶり出すための「作戦」とは?                

インタビュアー◎尾上そら(演劇ライター)


繰り返される謀略と裏切り、戦争の連鎖を「笑い」に転化する
作家のドライな視点がリアルな戯曲を
最高のキャストとともに、楽しんで創り上げたい
 
演出家:森 新太郎
僕が所属する円はシェイクスピアやウェブスター、そしてマーロウといったエリザベス朝演劇を上演する機会の多い劇団なんです。代表の橋爪功がエリザベス朝演劇に関して言う「野蛮でいい、歌舞伎のような面白さがある」という言葉に惹かれ、これまでも何作か読む機会はありました。新国立劇場でも実は、気になっている作家≠ニして挙げたのは「ゴドーを待ちながら」のベケットよりマーロウのほうが先。だから、今回のお話をいただいたときは今度こそマーロウをしっかり読みたいと思い、この戯曲を取り寄せていただきました。

イギリス王家の興亡を描く歴史劇というと、すぐにシェイクスピアの数作が例に浮かびますが、同時代の作家ながらマーロウの書く史劇はだいぶ印象が違う。読後にシェイクスピア作品のような高揚感がないんです。シェイクスピアの作品は主役がどんな悪党や弱い人間でも、その人物が自身を見つめ直して世界を深く捉える、精神が高みへと成長する瞬間が描かれている。でもマーロウの戯曲には、そんな厳かな瞬間がない。主役のエドワード二世はまさに象徴的な存在で、無反省かつ成長ゼロ。最後まで「俺は悪くない!」と叫び続け、観る者に哀しみや切なさのようなカタルシスを与えてはくれないんです。他の登場人物も似たりよったりで、そういう人間たちを生々しく舞台上に立ち上げることに、演出家としての僕は心惹かれます。

虚しい権力闘争の果てに一時的な勝敗はついても、本当の出口や希望の光を見つけた者は誰ひとりいない。作品に漂う停滞感は、非常に現代的かつリアル。また、残酷でシビアな場面が全編続きますが、そこが読み込むほどに僕の中では笑いに転化していったんです。当時の観客は、劇中の諍いを「またやってる、同じことの繰り返しじゃないか!」と笑い飛ばして観ていた。それこそが世界や人間をドライに見ていた、作家マーロウに狙いだったのではないか、と。

こういう史劇の楽しみ方は、新国立劇場の「ヘンリー六世」で気づかされたもの。三部作九時間のなかで繰り返される謀略と裏切り、戦争の連鎖を観続けるうち次第に笑えてきたんです。この作品では、もっと短時間かつアップテンポに同様の出来事が起こりますから、その愚かしさを笑えるくらい突き詰めてこそ批評性が加わり、面白い舞台になっていくと思います。

キャスティングも希望通りに上手くいきました。柄本 佑さんは名君である父と、その有能な重臣たちに囲まれたゆえの不幸とダメさ加減を体現できると確信しています。なにせエドワード二世は物語の始まりから失墜している稀有な主人公ですから(笑)。中村 中さんは「フランスの雌狼」と仇名される、王妃イザベルにピッタリの妖しい美しさと強さを併せ持つ方。他にも僕好みの、ゴツゴツした俳優ぞろいで稽古開始が待ち遠しくてなりません。

芸術監督の宮田慶子さんが、同世代三人の演出家が存分に競えるよう仕掛けてくださった激励企画。この刺激を楽しみつつ、三人の中で一番面白い作品を創りたいと本気で思っています。

 


もり・しんたろう
東京都出身。演出家。演劇集団円、会員。主な演出作品に、リチャード・ビーン作「ハーベスト」、デーア・ローアー作「最後の炎」(新国立劇場リーディング公演)などがあり、円では「ロンサム・ウェスト」「天使都市」「田中さんの青空」「孤独から一番遠い場所」「コネマラの骸骨」「死んでみたら死ぬのもなかなか四谷怪談―恨(ハン)―」「ガリレオの生涯」を演出。自身が主宰するモナカ興業でも活躍中。新国立劇場では2011年に「ゴドーを待ちながら」を演出。2009年、毎日芸術賞演劇部門・第11回千田是也賞、第64回文化庁芸術祭賞優秀賞受賞。


(新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2013年6月号より)

 
公演日程:2013年10月8日(火)〜27日(日)
チケット料金(税込):A席 5,250円  B席 3,150円

一般前売開始:7月28日(日)
会員先行販売:7月14日(日)〜24日(水)


公演詳細はこちらから (特設サイトへジャンプします)