新国立劇場について メニュー

2013年5月30日

9月公演「OPUS/作品」演出家、小川絵梨子インタビュー

演出家:小川絵梨子
三十代の若い演出家たちによる新シリーズ「Try・Angle ─三人の演出家の視点─」の第一弾は、緻密で繊細な演出で高い評価を集める小川絵梨子の演出による「OPUS/作品」。これは2006年にアメリカで初演された作品で、弦楽四重奏団のメンバーたちを描いたシニカルなコメディだ。重厚な作品が多かった小川にとってはコメディの演出は大きな“挑戦”でもある。
         インタビュアー◎沢 美也子(演劇ライター)


〜せっぱ詰まった弦楽四重奏団のシニカル・コメディ
劇中には、ベートーヴェンのOp.131
私もいろいろトライ≠オます〜 

 
 新国立劇場でのお仕事は初めてなので、まだ緊張していますが、声をかけていただいたのはとても嬉しかったです。若手の演出家に自由に創作できる場を与えるという、芸術監督の宮田慶子さんのお話に勇気をもらいました。日本では作・演出を兼ねる方が多いので、私のような演出だけの人間は少数派ですが、そこにスポットを当てていただいたのはありがたいです。トライアングル≠フトライ≠ヘ文字通り挑戦する≠ニいう意味なんだな、と深く思っています。こうした機会はまずないですから。

 作品選びから任せてくださって、どの作品にするか迷ったのですが、最終的に「OPUS」を選択しました。私は戯曲のジャケ買いというか、表紙だけで本を買ったりするのですが(笑)、これも自分で持っている戯曲のひとつでした。コメディですが、ベタベタではなく、シニカルなんですね。笑いが自分のツボにはまってしまって(笑)。カルテットは小さな集団ですが、集団がすったもんだするって、結構好きなんです。一昨年、演出した「12人」もそうでしたし。「OPUS」は、非常に切羽詰った状況に置かれた人たちのドラマで、大事な演奏会を前に、演奏のことばかりでなく個人的なことでも揉めたりしています。その中からひとりひとりのエゴや、人生が見え隠れするのが面白いなと。もちろん、せつない部分もあるのですが。揉めごとだらけでも最終的には、純粋に自分たちの音楽=作品に向かっていく話で、それは登場人物たちが生き方を見つけていく話でもあります。

 彼らは、みんな個性的で、ちょっと常識外れ(笑)。でも、ただの変な人になってはいけないので、「こういう人いるよね」と思ってもらえるようにしたいと思っています。コメデイは本当に難しくて、これもまた私にとってはトライなんです。これまで、私はわりと重めの芝居が多くて、「きっとまた硬い作品なんだ」と思われることがあるんですね(苦笑)。三月に演出した「ピローマン」は、かなりダークなコメディでしたけど。笑っていいんだということを、明示しないといけないかなと思っています。特に、この作品はドタバタの笑いではなく、ストーリーと会話で作るコメディなので。気持ちのすれ違いや齟齬があって、状況がどんどん悪化していって、それが悲惨すぎて笑う、登場人物があまりに自分勝手すぎて笑う、といった要素が強いので、きちんと筋が通っていないと、ただの変人の集まりになってしまいます。筋を通しつつ、笑いも作る、そのバランスが課題だなと思います。音楽が入る作品というのも、またトライ≠ナす。私は元々、あまり音楽を使わないんです。BGMは、どこか自分が負けた気がして(笑)。効果音は別として、音楽の雰囲気で場の空気や人の感情を盛り上げることが、どこか自分がすっきりしないんです。でも、今回は音楽がもう一人の出演者として存在しているので、このことは大きな手掛かりになると思っています。実は音楽は大好きなので、ふんだんに使えるのはうれしいことでもありますね。劇中に出てくるベートーヴェンの作品一三一(弦楽四重奏曲第十四番)はとても難しい曲なので、どうしようかと今模索中です。

 コメディなので、呼吸や間など、俳優さんたちとのやり取りの中から生まれるものも多いと思いますから、構えないで臨みたいです。

 
おがわ・えりこ
東京都出身。聖心女子大学卒業後、ニューヨークへ渡り、アクターズスタジオ大学院にて演出を専攻する。卒業後、リンカーンセンター・ディレクターズラボに参加。平成17年度文化庁新進芸術家海外派遣制度2年制派遣員。現在、ニューヨークと東京を拠点に活動する。近年の演出作品「今は亡きヘンリーモス」の翻訳において第3回小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞。「12人〜;奇跡の物語」「夜の来訪者」「プライド」で第19回読売演劇大賞・杉村春子賞、同賞・優秀演出家賞を受賞。

〜新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2013年5月号より〜
 


OPUS/作品 
2013年9月10日(火)〜29日(日)
チケット前売開始 2013年6月23日(日)10:00〜
A席 5,250円(税込)
B席 3,150円(税込)
ボックスオフィス 03−5352−9999

公演詳細はこちらから