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2013年5月28日

"登場人物の複雑で曖昧な感情を歌手、オーケストラに音楽で語らせたい"
オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」指揮者イヴ・アベル最新インタビュー!

今回「コジ・ファン・トゥッテ」の指揮をするのは、メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場など世界の一流歌劇場で華々しく活躍しているイヴ・アベル。絶賛を博した2011年6月「蝶々夫人」以来の待望の登場となります。リハーサルの合間を縫って、アベル氏にお話しを伺いました。

 
―今回が2回目の新国立劇場登場となります。新国立劇場の印象は?

前回の「蝶々夫人」の際、新国立劇場のあらゆる面についてプラスのイメージを持ちました。劇場スタッフのプロ意識の高さ、合唱、オーケストラの高い水準と柔軟性、そして皆さんが準備万端で私を迎えてくださったことに感激しました。実は前回「蝶々夫人」のリハーサル中に、新国立劇場で「コジ・ファン・トゥッテ」が上演されていて、私も公演を観てるんです。創造力に溢れ知的でありながら、演劇的にはとても正確で、とても気に入りましたね。

−「コジ・ファン・トゥッテ」の音楽的な特徴は?

「コジ・ファン・トゥッテ」はオペラの中でも、完璧な様式美が備わっている作品です。3組のカップルからなる登場人物が入り混じり、二重唱から六重唱までの重唱、そしてアリアを歌うのですが、そのすべてがアーチを描くかのような古典的な様式美を持っており、イタリアのパラッツォ(宮殿)を思わせます。音楽そのものは非常に人間的で、多くの問いを私たちに投げかけてきます。誠実さだけではなく、人の感情、人はなぜ人に惹かれるのか、どういう時に一線を越えてしまうのか、そのような問題が喜劇という形態をとりながら描かれており、深い人間考察がなされています。

 
オーケストラとのリハーサル風景
−「コジ・ファン・トゥッテ」を指揮する上で難しい点、興味深い点は?

モーツァルト作品はいかようにも指揮できます。スコアに書いてあることだけをシンプルに演奏しても、自分の創造力や解釈を加えて演奏しても、どちらも素晴らしいのです。これはモーツァルトの音楽の奇跡ですね。個人的には、登場人物のグレーな部分、人間的な部分を歌手から引き出していきたいと思っています。登場人物の性格、感情には、白黒はっきりする場面もあれば、いわゆるグレーゾーンもあります。これがモーツァルト&ダ・ポンテの素晴らしいところで、その複雑で曖昧な部分が音楽で描かれているのです。さらにオーケストラにも、伴奏にとどまらずに登場人物のひとりとして音楽でそのグレーゾーンを語らせていきたいですね。
今回のキャストは全員すごく知的で、この作品に描かれている人間の真実を追究しています。キャストとディスカッションを重ねて、新しい解釈が生まれたりもしています。創造的でとても良い雰囲気でリハーサルは進んでいますよ。

―アベルさんには息子さんがいらっしゃるそうですね。以前、別のインタビュー記事でアベルさんが子育てと指揮者のお仕事を関連づけてお話しされているのを読みまして、興味深く思いました。

現代社会はコンピューターやゲームに囲まれており、芸術は危機に晒されています。子どもたちが、オペラ、バレエ、演劇、音楽、文学、美術など可能な限り多くの芸術形態に触れることはとても大事で、必要なことだと思っています。人間を高めてくれるのが芸術ですから。今の子どもたちはインターネットやゲームで簡単に楽しめてしまいますから、育児は戦いです。私の息子はピアノを習っているんですが、ピアノを弾くまでのプロセスは、楽譜を見て、その内容−音の高さ、長さ、速さ、強弱などの情報を頭が指先に伝えて、肉体で行動に移すというものです。苦労して練習し、上手く弾けた時の喜び、満足感は、ボタンひとつで楽しめるゲームとは異なります。人間としての充実感はそういうプロセスから生まれると思っています。
皆さん、ぜひ今回の「コジ・ファン・トゥッテ」にお子さんを連れてきてください。特にティーンエイジャーの子どもたちに観ていただきたいですね。モーツァルトは全く古くなく、モダンに感じていただけると思います。

−最後にお客様へのメッセージを。

ぜひ「コジ・ファン・トゥッテ」にお越しになって、貴方自身への問いかけを感じてください。この作品には、皆さん、そして日本の文化や社会に当てはまるものもあるはずです。音楽史上の最高傑作を聴いて、見て、感じて、公演後どう感じたかを皆さんで話しあってください。私も皆さんとお話ししたいです!
 

新国立劇場 2012/2013シーズンオペラ公演
「コジ・ファン・トゥッテ」
2013年6月3日〜15日
公演情報はこちら

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