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2013年7月3日

新国立劇場創作委嘱・世界初演のオペラ「夜叉ヶ池」
公演評が日本経済新聞に掲載されました

6月30日(日)に千秋楽を迎えた新国立劇場創作委嘱・世界初演オペラ「夜叉ヶ池」の公演評が日本経済新聞2013年7月2日夕刊に掲載されましたのでご紹介いたします。

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新国立劇場「夜叉ヶ池」
異界感、巧みに視覚化


 泉鏡花原作のオペラが流行らしく、東京では昨年から新作旧作の上演が続いている。
 今回の新国立劇場の新作「夜叉ヶ池」は、現実と幻想、和風と洋風とが入りまじる鏡花の妖異世界を再現して、オペラの音楽とドラマが高い完成度を示した点で、なかでももっとも優れた公演だ。
 最大の功績は香月修の作曲と、香月と演出の岩田達宗が共作した台本。鏡花の台詞は、それ自身が音楽的な響とリズムをもつ逸品だが、現代人にわかりやすく、西洋音楽の語法に合わせて単純化し、重唱や同時進行など、オペラならではの手法にのせていた。
 特に、ヒロイン百合(幸田浩子)の美しい子守歌を「扇の要」として重視したこと。これは音楽面で印象に残るだけでなく、夫の晃(望月哲也)への愛と激しい執着を象徴する「赤子」の存在を強調する結果となり、それがもうひとりのヒロイン、妖怪白雪(岡崎他加子)との相似性と共感への鍵となることで、現世の人間の愚かな欲がまねく惨劇の効果も、高めていた。
 ロマンティックで厚めの響きの管弦楽(十束尚宏指揮の東京フィルハーモニー交響楽団)をクライマックス以外では控えめとし、テンポよく進めたのも適切な処置だった。
 岩田が演出した舞台は、回り舞台とスライディングステージの駆使による間延びのない迅速な進行と、想像性豊かな空間づくりが見事。
 わずかな昇降が魔界への入口となる、鏡花独特の高低差による異界感も巧みに視覚化されていたし、終景で晃の友人学円(黒田博)が幻視する、山上の湖底深くに沈む大鐘のイメージも忘れがたい。
 新国立劇場の優れた財産となるプロダクションだろう。6月25日、中劇場。
(音楽評論家 山崎 浩太郎)

2013年7月2日 日本経済新聞夕刊
※山崎浩太郎氏の許諾を得て掲載しています
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