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2012年11月2日

オペラ「トスカ」 カヴァラドッシ役
世界の歌劇場で喝采を浴びるサイモン・オニールインタビュー

 
 今、飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍をみせるテノール、サイモン・オニール。
特に、「ワルキューレ」ジークムント役では世界の主要歌劇場を総なめ、著名な指揮者からの指名が引きも切りません。契約書が山のように積まれ、サインをするだけでも大変な時間がかかってマネージャーをやきもきさせているという逸話が飛び出すほどの売れっ子テノールが「トスカ」で新国立劇場に初登場します。


 今回「トスカ」カヴァラドッシ役で稽古場を突き抜ける歌声と明るい笑顔をふりまくサイモン。彼の魅力をご紹介します。

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---- サイモンさんは、パルジファルとジークムントでこのところ世界の主要歌劇場への登場、そして著名な指揮者たちとの共演という輝かしいキャリアを築かれています。
でも、キャリアのスタートは比較的最近なんですね。


サイモン(以下S):そうなんです。本当にあっという間にトップレベルの劇場で歌わせてもらえる機会を得ました。2004〜5年頃からMETで尊敬するプラシド・ドミンゴのカヴァー(いざというときの代役)をするようになって、そして2007年には彼とのダブルキャストとして本番を歌わせてもらえるようになりました。プラシドの代表的なレパートリーのひとつであるカヴァラドッシもその頃から勉強していたことになります。今ではワーグナーのレパートリーが年間の出演のほとんどを占めていますが、イタリアオペラもフランス、ロシアのレパートリーも大好きです。イタリアオペラは私にとって大事なもので、中でもやはりカヴァラドッシ、カラフ、そしてオテロは特に好きな役ですね。オテロはだいぶ前から誘われており、まだまだと思って断っていたのですが、2014年にいよいよ舞台で初めて歌うことになりました。



■音楽大好き少年からオペラ歌手に

---オペラ歌手になったいきさつを教えてください。

S:私は、ニュージーランド出身です。小さい頃から、ずーっと音楽家になりたいと思っていました。なので、ピアノ、テューバをずっと習って、少し大きくなるとジャズバンド、ロックバンド、あらゆるジャンルの音楽を楽しみました。そして16、7才の頃、合唱団に入りました。当初の目的は、女の子との出会いを求めてだったんですが(爆笑)。
それから本格的に声楽を勉強するようになり、ニュージーランドで音楽大学を卒業、それから24才でニューヨークに渡りました。マンハッタン音楽院、ジュリアード音楽院の大学院を経て、いきなりMETに出入りすることになりました。それがドミンゴのカヴァーをすることにつながるのです。本当に幸運でした。2006年のMETの日本ツアーにカヴァーで参加したのが私の初来日でした。

---新国立劇場のトーキョー・リングに出演した名バス歌手ドナルド・マッキンタイア(2002年「ワルキューレ」フンディングに出演)に師事されましたね。

S:ドナルドにはロンドン在住時を中心に、ワーグナー作品について本当に色々なことを教えてもらいました。ドナルドは同じニュージーランド出身で、これまでの50年間、世界のワーグナーオペラを支えてきた実力者です。人柄も素晴らしい。厳しいけれど誠実で、私が歌う劇場に世界中どこでも飛んできて助言をくれ、支えてくれるんです。素晴らしい恩師です。


■2013年ワーグナーイヤー。世界中の劇場を席巻するジークムント

---さらに、世界の主要な歌劇場での活躍が続きますが、著名な指揮者と共演する経験から何を得られますか?

 
S:これまでにバレンボイム、レヴァイン、ゲルギエフ、パッパーノ、ムーティをはじめ世界でも本当の巨匠と言われるマエストロと共演することができ、本当に幸運です。それぞれ皆インテリジェンス溢れる芸術家、そして人間としてもたいへん魅力的です。彼らの教えは自分のスコア(楽譜)に事細かに全て書き込んであり、私の宝です。

---今後10年間にどのような役に挑んでいきたいですか?

S:私はいわゆるアラフォーですが、ワーグナー作品の中ではパルジファル、ジークムント、ローエングリンなどまだ若い役が多いので(笑)、この先ジークフリート、トリスタンなどに取り組んでいけたらいいですね。イタリアオペラでは、先ほども言ったオテロへの準備がようやく整ったというところです。

--- 2013年の一年間の「ワルキューレ」ジークムントの契約が凄いことになっていると聞いています。いったいいくつのプロダクションで歌うのでしょうか?

S:ミュンヘン、パレルモ、MET、ウィーン、スカラ座、またミュンヘン、そしてベルリン…この7つですね。自分でも大変なことになっていると思います(爆笑)。私は「ワルキューレ」という作品が大好きですが、それにしても多いですね。ジークムント役についていえば、まず剣を持って、女の人を抱えて、という基本の演技をすれば7プロダクション何とかこなせるはず、なんて冗談を言っているほどです(笑)。



■常にポジティブシンキング。落ち込む時間がもったいない

---とてもポジティブな性格なんですね。落ち込む暇はあるのでしょうか。

 
 そう、かなりポジティブな性格です。物事を後ろ向きに考える必要があまりないと思うんです。人生は短いですから。もちろん、私にだって悩みはあります。ちょっとメタボ気味とか(爆笑)・・・でも良い仕事をしたい、楽しく生きたい、と思っていると立ち止まっている時間がないのです。特に音楽的には、何事からも学びたい、吸収したいという欲求に従っていくと、本当にポジティブでいるしかないんです。

 もし、自分が寂しいという瞬間があるとすれば、家族と離れていなくてはならないことでしょうか。私には妻と3人の子どもがいます。そのうち2人は男女の双子です。ワーグナーのオペラみたいでしょう(笑)。一年のうち9ヶ月は離れて過ごしますから稽古が終わってSkypeで連絡を取り合うときが至福の時です。でも、それも売れっ子になればなるほどそういう時間が増えるんだというポジティブシンキングに変換するしかないのです。そして、行く先々で新しい友達、仲間が出来ることを楽しんでいます。今回も東京で素晴らしい指揮者の沼尻さん、共演者、スタッフとめぐり合えました。再演演出の田口道子さんは、このプロダクションが作られた過程やカヴァラドッシの立ち回り方を事細かに教えてくれました。得がたい経験です。このような出会いにいつも感謝しています。


■イタリアオペラへの愛・・・東京でのカヴァラドッシに期待大

---では、今回歌うカヴァラドッシについてお話しください。

 カヴァラドッシは、真に勇敢で心の強いキャラクターです。先週までジークムントを歌っていた私にとって、全く違う歌唱法、役づくりが必要になりますが、やはり惜しむことなく声を前に出せること、高らかに歌い上げられること、そして何よりプッチーニの美しい音楽に浸れることがテノール歌手にとって最大の魅力ではないでしょうか。
 これまでにベルリンやハンブルクでも歌っていますが、今回日本で初めてカヴァラドッシを歌えることをとても光栄に思っています。


---日本のファンにメッセージを。

 私は、日本が大好きです。何度でも訪れたい国です。母国ニュージーランドは、人口こそ日本よりはるかに少ないですが、いろいろな意味で似ており、親日家がたくさんいます。
「トスカ」公演で皆様が楽しんでいただけるよう、全力でがんばります。劇場でお目にかかれるのを楽しみにしています。

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日本でもっと歌いたいのでオーディションを受けさせてくれないか、と真顔で語るサイモン。
彼がいま世界中で求められる理由を、ご自身の耳でお確かめください。
新国立劇場「トスカ」にどうぞご期待ください。


★サイモン・オニール ウェブサイトこちら。動画もご覧いただけます。

★オペラ「トスカ」は11月11日(日)〜23日(金・祝)まで。
公演情報はこちらから