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2012年3月6日

『さまよえるオランダ人』3/8初日迫る!
ニキティン、ウィルソン、竹本、望月 最新インタビュー

          最終舞台稽古風景より
3月8日の『さまよえるオランダ人』初日を前に、最終舞台稽古が無事終了しました。
ここで、タイトルロールのエフゲニー・ニキティン、ゼンタのジェニファー・ウィルソン、マリーの竹本節子、舵手の望月哲也の最新インタビューをご紹介いたします。
“このプロダクションは日本において大変意義深い”(ニキティン)、 “芸術は文明が後世に残す遺産である”(ウィルソン)、“マリーはゼンタだった”(竹本)、 “清涼剤のような心のアクセントに”(望月)と、公演への期待が膨らむ大変貴重なメッセージが集まりました。
 

  
公演情報ページは下記をご参照下さい。
☛;新国立劇場2011/2012シーズンオペラ「さまよえるオランダ人」ダイジェスト動画付き特設サイト

 
 
           最終舞台稽古風景より
■エフゲニー・ニキティン(オランダ人)
オペラ歌手になられたこれまでのキャリアについてお聞かせください。
港町ムルマンスク(ロシア連邦北西部にあり北極圏最大都市)で両親が音楽家の家庭で育ちました。船乗りに憧れて船員学校に入りましたが、父の勧めで地元の音楽学校に移り、その後サンクトペテルブルグの音楽院に入りました。在学中にマリインスキー劇場のアカデミーに合格。最初は小さい役でしたが、25歳のときマリインスキー劇場のMET客演公演『戦争と平和』ドロホフという大きな役でゲルギエフに抜擢されました。ゲルギエフは子犬を水に投げ込んで泳ぎを教えたようなものですね。次の大役はマリインスキー劇場の日本公演『さまよえるオランダ人』のタイトルロールでした。その後、ゲルギエフのワーグナー路線に倣って私もワーグナーに取り組むようになり、今ではワーグナー歌手として今年の夏、栄誉あるバイロイト音楽祭でオランダ人を歌えるようになりました。バイロイトでタイトルロールを歌う初めてのロシア人なんですよ。自分で選んだ道というより、音楽が私自身を育ててくれました。今、自分の進む道を自分で考えられる、芸術家人生で一番大切な時期に入ったところです。

ワーグナーをレパートリーの中心に、世界中で歌っていらっしゃいますが、今回のプロダクションで特別な点は何でしょうか。
このプロダクションは私がこれまでに参加したプロダクションの中でも一番トラディショナルかもしれません。でもそこがいいのです。ヨーロッパの文化を伝えるという点で、日本にこういったプロダクションがあるということは素晴らしいと思います。

最後に観客の皆さんにメッセージをお願いします。
劇場に足を運んで、ワーグナーの天才的な音楽を楽しんでください。物語が何を本当に語っているのか、力の及ぶ限りお伝えしたいと思っています。皆さんに忘れられない一夜をお届けできるよう、最善を尽くします。

 
 
           最終舞台稽古風景より
■ジェニファー・ウィルソン(ゼンタ)
ブリュンヒルデ、イゾルデ、トゥーランドットといったちょっと怖い女性たちをレパートリーにしていらっしゃいますが、普段のウィルソンさんはかわいらしい方です。どうやってこのような怖い女性たちになるのでしょう。
まず自分自身であるということが大切です。たとえば優しい性格をワーグナーのヒロインに持ち込むことは難しくありません。イゾルデは非常に怒っていると同時に激しく恋していますし、ブリュンヒルデは父親にかわいがられている女の子です。またゼンタは、おそらくワーグナーのヒロインのなかでも一番少女らしい少女です。音楽の中にもやわらかさ、女性らしさ、優しさが現れています。

ゼンタはこれまでも歌ってきていらっしゃいますが、今回のプロダクションでの特徴は何でしょう。
特に興味深く、また演じる側にとって得るものが多いのは、演出のマティアス・フォン・シュテークマンさんがゼンタを狂った少女として捕らえていないことですね。オランダ人とエリックという二人の男性の間で自分を考えています。単に誰かが来るのを待っているだけではありません。残念ながら自分の目標を実現するために一線を超えて行ってはしまいますが、そこにいたるまでを表現することが演じるものにとっての挑戦なのです。

オペラに触れたことのない方に向けて、さらに今回の公演をなぜ見なければならないか、一言メッセージをお願いします。
ひとつの文明が後世に評価されるのは残した芸術によるものです。私たちには芸術を遺産として後代に残していく必要があります。今回の公演は、素晴らしいキャスト、美しいプロダクション、素晴らしい指揮者に素晴らしい音楽なだけでなく、ワーグナーの作品の中でも一番近づきやすい作品です。ワーグナーの作品に触れてみたい人には最適だと思います。

 
 
           最終舞台稽古風景より
■竹本 節子(マリー)
ラストシーンで、ゼンタのショールをかき抱き悲しむマリーとはどんな女性なのでしょうか。
ゼンタの乳母であるマリーを演じるのは、2007年の初演から2回目になります。初演時、この役の解釈について、マティアスさんから「マリーは若い頃、ゼンタだったのです」と言われました。ゼンタに幽霊船とオランダ人の話を聞かせたのは、マリーです。ですから、マリー自身もこの話を始めて耳にした頃、ゼンタと同じような気持ちになったのです。ただ、マリーは周囲の人々と同じくこの話を伝説として理解し、ゼンタのように身をもって踏み込んでいくことをしませんでした。今回の再演でのリハーサルでは、こういうマリーの立ち位置を更に暗示できるような演技を、マティアスさんからリクエストされています。オランダ人とゼンタの間にいるマリーの動き、視線にまで注意を払っていますので、どうぞご期待ください。それから、2005年と10年に出演した『アンドレア・シェニエ』などでも同様の感想を持ったのですが、新国立劇場オペラは合唱団の皆さんなくしては語れないと思っています。歌いながら複雑な演技をこなし、場面転換ではキレの良い動きで物語の推進力となり、作品をより味わい深いものにしている最高の合唱団が新国立劇場にはいるということを、お客様も劇場の皆さんも誇りに思っていただきたいと願っています。

 
 
           最終舞台稽古風景より
■望月 哲也(舵手)
新国立劇場ではワーグナー作品への出演が続いていますね。
実は、私がワーグナー作品に出演したのは新国立劇場でのみなのです。2005年の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』、2010年の『トリスタンとイゾルデ』そして今回の舵手、次シーズンの『タンホイザー』と続きます。ウィーン留学中、ワーグナーを肌で感じ大変興味を持ちましたが、特にこの作品はイタリアのベルカント・オペラを思わせるような“声”を大切に書かれた作品なので、やりがいがあります。舵手は、同じテノールでもエリックという英雄的な色合いはなく、どちらかというと重厚な音楽の中で一種の清涼剤としてお客様の心のアクセントになる役柄です。演出のマティアスさんからも、構えずに軽やかな楽しさを感じるよう自由に演じてほしいと言われました。来シーズンは、モーツァルト最晩年の名作『魔笛』のタミーノ役を頂きました。ドラマティックなメロディーもあるすばらしい役です。自分自身のコンディションがとても良い状態にある今、日本人が得意とするチームワークあってこそのアンサンブル・オペラでタミーノを演じられることに、責任を感じつつ大変楽しみにしています。新国立劇場オペラに出演することで、世界のスターや躍進目覚しい歌手たちと一緒に稽古ができるので、日本にいながら世界を感じ、自分のレベルアップにつながる刺激的な場所です。次シーズンの出演演目『ピーター・グライムズ』『タンホイザー』『魔笛』も心待ちにしています。

 
 
マティアス・フォン・シュテークマン(演出)&ひびのこづえ(衣裳)両氏によるトーク・セッションUSTREAM配信のご案内。
☛;USTREAM配信(2/27実施)「さまよえるオランダ人」トーク・セッション