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2012年2月24日

「さまよえるオランダ人」指揮者トマーシュ・ネトピル インタビュー!

プラハ国民劇場の芸術監督を務めながら、ヨーロッパ各地のオペラハウス、オーケストラで精力的に活躍するチェコ出身の指揮者ネトピル。次世代を担う若手指揮者として、世界中から注目と期待を集める逸材です。2010年にはベルリン・フィルにデビュー、今シーズンはバイエルン放送響、ゲヴァントハウス管に初登場し、オペラの分野ではザクセン州立歌劇場の「サロメ」「ルサルカ」で成功を収めるなど、八面六臂の活躍ぶりです。
新国立劇場デビューとなるネトピルが、ワーグナーのオペラに初めて挑む心境を熱く語りました。

<下記インタビューはジ・アトレ9月号掲載>

 
師はパヌラ、マッケラス、ジンマン
ベルリン・フィルのマッケラス追悼公演を指揮


――日本へは2007年にNHK交響楽団を指揮しにいらしていますね。ご自身のホームページの「バイオグラフィー」の冒頭にもN響が書いてあって嬉しく思います。あのときが初来日だったのでしょうか。

 実はあれは二度目の日本で、モーツァルトの「フィガロの結婚」序曲やドヴォルザークの作品を指揮しました。指揮者としては初訪日でしたが、いわゆる本当の最初はサー・アラン・チャールズ・マッケラス率いる室内管弦楽団のヴァオリニストとしてでした。ですから今回の新国立劇場の「さまよえるオランダ人」で日本は三度目になります。特に日本のオーケストラはレベルが高く、熱心で、聴衆も本当に音楽を心から愛している方々が多いので、今からとても楽しみです。さらに今回は三週間ほどの滞在になるので、多くの日本の方や文化と接することができれば嬉しいですね。そうそう、新たな和食との出会いも楽しみです(笑)。

――ヴァイオリンも勉強されていたのですか。

 そうです。両親はアマチュアですが、楽器も演奏する音楽愛好家で、私は音楽に囲まれて育ちました。なかでも父は私に将来ヴァイオリニストになってほしいと望んでいました。ですから幼い頃からヴァイオリンを学んでいたのです。でも、成長と共に指揮に対する思いが強くなり、音楽大学ではヴァイオリンと指揮法を学びました。

――それがあなたの指揮者としての強みにもなったのですね。

 そのとおりです。楽器を演奏できることは私にとっては大きな意味がありました。そしてさらには素晴らしい指揮者との出会いも忘れてはなりません。学生時代にはヨルマ・パヌラに師事しましたし、その後、デイヴィッド・ジンマンにはチューリッヒ・トーンハレ管に招いていただいただけでなく、多くのことを教えてもらいました。そして忘れてはならないのが、サー・マッケラスです。室内管弦楽団に在籍しながら彼からも本当に多くのことを学びました。

――そのマッケラスの追悼コンサートでベルリン・フィルを指揮なさいましたが、いかがでしたか。

 ベルリン・フィルを指揮することは私にとって、それはそれは素晴らしい、エキサイティングな体験でした。実は、サー・マッケラスは2010年9月にベルリン・フィルを指揮するはずでした。ところが彼が7月に亡くなられたため、そのコンサートは彼に捧げる追悼コンサートとなりました。そのようななかで彼の代わりに指揮台に立って欲しいと、サー・サイモン・ラトルから招待を受けたのですから、大変に光栄なことでした。私にとって大きな影響を与えてくれた尊敬すべき指揮者の追悼コンサートでドヴォルザークの交響曲第七番を指揮したことはとても大切な体験となりました。

――現在、プラハ国民劇場のオーケストラの芸術監督も務めていらっしゃいますが、やはり活動の中心はオペラなのですか。

 芸術監督の任には2009/10シーズンから就いていますが、シーズン中はオペラ二演目といくつかのコンサートが主となりますので、それ以外のチェコ内外での活動が現在は大変多くなっています。その中でオペラとシンフォニーとのバランスを保つようにしています。オーケストラを指揮する上で、コンサートとオペラの両方を指揮できることは私にとってとても有益なことであり、今後も両方の機会を大切にしていきたいと思っています。オペラでは声楽家、つまり人の声と仕事をすることになりますが、その息や動きと合わせることを通して学んだ、間とか強弱の幅といったものは私の音楽作りにおいて大きな意義を持っています。またオペラにおいては独特の指揮のテクニックも必要です。なにしろ、歌手、オーケストラ……全てをまとめていかなくてはいけないのですから。
 ただ、二人の子供も大きくなってきて、学校に上がる年齢にもなっているのですが、仕事で世界中を飛び回っているために家にいる時間が十分取れないのが現在の悩みといったところでしょうか。

 
音楽の語るべきことは、作曲家の手によって
スコアにすべて書き込まれている


――「さまよえるオランダ人」を指揮なさいますが、ワーグナーのオペラは今までに指揮をしていないようですね。今回が初めてですか。

 ええ、そうなのです。この「さまよえるオランダ人」や「タンホイザー」の序曲はコンサートで指揮をしてきましたが、全幕を指揮するのは初めてなので、今からワクワクしていますし、本当に楽しみです。
 今までに、多くのモーツァルトのオペラを指揮し、最近ではリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」も指揮しました。そのような意味でタイミングとしてはワーグナーのオペラ、それも「さまよえるオランダ人」に取り組むにはちょうどよい時期だと思っています。今回、新国立劇場でこの作品に取り組むことができるのは私にとってとても嬉しいことです。

――どんなワーグナーを聴かせてくださるのか、楽しみです。

 音楽の語るべきことは、全ては作曲家の手によってスコアに書き込まれています。私はそれをどれだけみなさんに伝えることができるか、ということになります。ワーグナーの音楽には独特の美の世界があります。そこにあるのは美と輝きと深い内面の世界です。たしかにこの「さまよえるオランダ人」は、ワーグナーの初期の作品であり、ロマン派の流れを受け継ぎ、彼がのちに確立する楽劇ではなく、アリア、二重唱といった見せ場を含めてオペラの様式に則っている部分も多く見られます。でもそれだけに、どなたにも楽しんでいただけるワーグナーのオペラと言っていいかもしれません。さらには、とても力強い音楽といったイメージでこのオペラの音楽を捉える方も多いかもしれませんが、その奥深いところにある感情の世界にはワーグナーならではの作風がすでに明確に表れていますし、モチーフも使われています。

――ワーグナー初心者から熱烈なワグネリアンまで皆さんに楽しんでいただけそうですね。

 ええ、そうですね。特に今回は劇場だけでなく、共演する歌手の方々も初めての人ばかりなので、いい意味での緊張、そして期待を感じています。聴衆の皆さんともお目にかかるのを今から楽しみにしています。
 


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