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2007年10月24日

今秋世界初演!バレエ『牧阿佐美の椿姫』の全貌に迫る
〜そのC:振付・演出の牧阿佐美が語る〜

2007/2008シーズン・バレエの開幕を飾る牧阿佐美の椿姫」の世界初演11月4日(日)の初日まであとわずか。部分的な振り付けを積み重ね、全体の通しにかかれたのはやっと10月の上旬。振付・演出の牧芸術監督を中心に、リハーサルは日々熱気を帯びています。

恋の始まりから切ない別れ、マルグリットの死まで、色合いの異なる美しいパ・ド・ドゥで綴られる二人の愛の軌跡を軸に、高度なテクニックをふんだんに盛り込んだ舞踏会の踊りやキャラクターダンスが挟まれて、見応えは十分。ベルリオーズの流麗で美しい音楽が物語へと無理なく引き込み、約2時間(休憩含む)のめくるめく舞踊世界はあっという間に過ぎてしまいそうです。
さらに舞台美術、衣裳など新国立劇場の完全オリジナル版となる「椿姫」。HP連載の最後に、振付・演出の牧芸術監督に期待の新制作について語っていただきます。

その@編曲・指揮のエルマノ・フローリオが語る
そのA舞台美術・衣裳のルイザ・スピナテッリが語る
そのBマルグリット役・酒井はな に聞く

主要キャスト(予定)情報UPしました


■バレエ「椿姫」新制作にあたって〜牧阿佐美

牧阿佐美

 

新国立劇場でオリジナルバレエを創ろうと考えたときに、頭に浮かぶ幾つかの作品の中には、いつも『椿姫』がありました。
このたびの新制作では、主役名を小説中のマルグリットとアルマンとして、欧文タイトルも原作のLa Dame aux Camélias<“椿を持つ女”の意>としています。フランス語でマルグリットは雛菊を意味しますが、その花言葉は「あなたしか要らない」、そして椿は「あなたのために死ねる」という花言葉をもちます。この極めてストレートでしかし強烈なメッセージは私のつくりたい『椿姫』に重なりました。
マルグリットは、パリ社交界の華。その美貌はどんな男も虜にしてしまい、金に糸目をつけない紳士たちが次々と彼女を自分のものにしようとします。しかし、ある日の夜会で、若く純粋な青年アルマンに出会ったことで、彼女の人生は一変します。病に冒され死を予感して享楽の日々に身をおいていたマルグリットと、彼女の魂に安らぎを与え、もう一度夢見る勇気をくれたアルマンの純粋さとひたむきな心情を、バレエ舞台に描いてみたいと思ったのです。二人のパ・ド・ドゥは、そのため、1幕1場、2場、そして2幕1場、2場と全編に織り込まれています。また、演出面でもう一つ付け加えるなら、私はアルマンの父をデュマが描いたような父親像には描きませんでした。マルグリットの崇高なる犠牲に打たれ、自らの行動が彼女の死期を早めてしまったことを後悔する父になっています。それ故、最終幕最後のシーンで死にゆくマルグリットの前にアルマンとともに登場して、マルグリット、アルマン、そして父のパ・ド・トロワを創りました。

スピナテッリの衣裳画より(マルグリット)

 

 マルグリットは、アルマンという若くて純粋すぎる男性と恋をしなければ、豪華な暮らしのまま亡くなったことでしょう。アルマンは、マルグリットの住んでいる世界の外にいる人間、恋愛の素人です。そんな彼と恋をしたために、彼女はすべてを売り払い、すべてを失ってしまった。それは不幸せのようにも見えるけれども、実は、幸せだったのではないでしょうか。『椿姫』の世界は、ある意味、乱れた世界ではあるけれども、二人の純愛は世代や時間を超越する感動と力を観る者に与えてくれるように思います。自分の身を切り売りしていた彼女が、最後は心で愛したのです。この心の美しさ、心の幸せを皆様にお伝えできたらと願っています。