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2007年9月12日

今秋世界初演!
バレエ『牧阿佐美の椿姫』の全貌に迫る〜その@:音楽〜

2007/2008シーズン・バレエの開幕を飾る牧阿佐美の椿姫」の世界初演まであと2カ月あまりとなりました。
振付はもちろん、音楽構成、舞台美術、衣裳など新国立劇場の完全オリジナル版となる「椿姫」。期待の新制作がどのようなものになるのか、様々な角度からご紹介してまいります。

■編曲・指揮のエルマノ・フローリオが語る牧阿佐美版「椿姫」の音楽について

エルマノ・フローリオ

 

<なぜベルリオースの音楽か?>
牧阿佐美版「椿姫」の音楽を引き受けるにあたり、最も重要なのは、どの作曲家の音楽を使うかということでした。ヴェルディのオペラ「椿姫」をオーケストレーションすることや、ヴェルディの他の音楽や数多ある作曲家の音楽を編曲することも、あるいは私自身が新たに作曲することもあり得ました。
牧芸術監督と美術のルイザ・スピナテッリさんとの話し合いの結果、牧版のバレエ「椿姫」は、アレクサンドル・デュマによる原作小説の設定を忠実に残すことになりました。ですからこのバレエは小説が書かれた時代のパリとその周辺で物語が展開していきます。
そうした様々なことを考慮し、プロダクション全体の統一感をだすことができるようフランスの作曲家を選ぶべきだと確信しました。
そして私が選んだ作曲家はベルリオーズでした。なぜならまず、ベルリオーズは小説のモデルになった実話と同時代のパリで作曲活動をしており、おそらくデュマとマリー・デュプレシ(マルグリットのモデル)のことに詳しかったかもしれないのです。また、ベルリオーズの音楽に非常にロマンティックな雰囲気があることも、この物語のもつドラマティックでエモーショナルな力を表現するのには非常に効果的であると感じたからです。

 

<編曲について>
この「椿姫」の音楽は新たな編曲ですが、既存の数多くの物語バレエにも見られる構造的な要素があります。たとえばヴィオラのソロ(ベルリオーズ「イタリアのハロルド」の一節)を二人の恋人たち(マルグリットとアルマン)を表現するのに使うことにしました。ちょうどアダンやドリーブが「ジゼル」や「コッペリア」のパ・ド・ドゥに用いたように。また、私は幻想交響曲の「ラルゴ」を音楽の構造的上、一種のブックエンド(音楽的節目)として用いました。ヴェルディもまた、オペラ「椿姫」においてこの技法を使用しています。同じ音楽が序曲にも、また後にはこのバレエの最終場面の冒頭部にも使用されます。これによって、音楽的なフラッシュバックがバレエ全体の統一感をだす助けになるという効果を生み出すのです。また、他の物語バレエのように、私は第2幕に一連のディヴェルティスマンを設け、ソリストやコール・ド・バレエに踊る場をつくり、プリュダンスの舞踏会で様々な民族舞踊を踊ってお客様に楽しんでいただける見せ場にしました。
この編曲では、私の意志はできるだけ控え目にし、あたかも牧阿佐美さんがベルリオーズに「椿姫」のためのオリジナル曲を委嘱したかのように、ベルリオーズの天才的な音楽が自然に流れるように心がけました。